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ブレない人

「結城彩華だ。よっろしくぅー!」


朝のSHRで転校生が紹介された。

無期限の休学届を出してた俺も黒板の前に立たされた。


「復学しました。逢坂氷雨です」


もうちょっとインパクトが欲しいから、度肝を抜く発言をしたんだっけ。

彩華が。


「ちなみに私は婚前交渉はしてないからな!」


恥じらいもなく言い放った。

黒髪ロングときたら、清廉潔白や清純、清楚などのイメージがある。

見た目がソレだから、クラスの人たちが驚愕した。中には下劣な目を向ける輩もいる。男子だ。

俺は呆れ顔で隣の阿呆を見やる。


「なんだ、悪いのか?」

「恥じらいを持てよ。何されても知らないよ」

「大丈夫。私は淫乱だから」


彩華がか細い声で言い放った言葉に、俺は耳を疑った。

さすがに「淫乱」と言うのは恥ずかしかったらしい。どういう価値観で動いてるのか知らないけど、すべからくどうでもいい。

頭の天辺がバーコードになってる担任が席に座るよう促し、おとなしく着席する。

何だか彩華のおかげで俺は霞んじゃったなー。

男子に等しくいやらしい目で見られる彩華は、担任からもそういう目で見られてるのに気にした素振りはない。


「なに、ひーくんも気になるの? エッチだね」


隣の席に座ってた玲が、不機嫌を露わにしていた。


「誤解だよ。確かに気になるけど、ああいう目で見られて平気なのかなって思ってるよ」

「とんだ変態さんだよね。何を食べたらあんな……あんな風に……!」

「胸か……」


途端に哀れむような目を向けてしまう。

やはり胸が小さい人って大きい人が妬ましいんだな。

制服越しに判断すれば、玲は制服を若干押し上げてるだけ。反対に彩華は果実が入ってるみたいに、制服をすげー押し上げてる。


「大丈夫。まだ大きくなれる。牛乳を飲め」

「余計なお世話だよ!」

「グハッ」


顔面にメリコむ最強のパンチ。

チョー痛かった。


「お前、中学は汐らしかったのに今は凶暴になったな」

「失礼ね。これが高校デビューよ」

「無いわー」


間違ってるわー。

形は違えど、確かに彩華は転校してきた。しかも一年生として。

タイムスリップした、と考えるのが妥当だ。

でも、楽しそうだからイイや。





◆◇◆◇◆◇◆


「人は何で紅茶などを嗜むのだろう」


昼休みの屋上。

スカートを風に靡かせながら、景色を眺めるアリアス。

物憂げに眺める姿は、正に傾国の美女と呼ぶに相応しい危険な色気を醸し出している。

確かに手紙で呼び出されたから来たわけだが、何だか期待したものとは違った。


「で。呼び出した理由は何だよ」

「無粋ですね。人が出した疑問を先に解決するほうが賢い人の長生きできる選択です」


そうですか。


「玲、アリアスの疑問って何だっけ?」

「聞いてなかったんだ」

「うん」

「人は何故、紅茶を飲むのだろうって」

「なるほど」


答えは簡単だろう。


「紅茶が無くても生きれるけど、人って楽しみがないと退屈で死ぬからじゃないかな?」

「ご明察」


アリアスがスカートを翻して振り向く。


「君が言うとおり、生きていく上で必要ないのに紅茶を飲んでしまう。それは味を楽しむことで、退屈しのぎになるからね。アリガトー、私の疑問に答えてくれて」

「いえいえ、可愛い女性の悩みを解決してあげるのが紳士の仕事です」

「あら、嬉しい」

「よろしければ、もっと親しくなりたいので今晩、お食事はいかガッハッ?」


背中にドロップキックされた。


「下心丸出しな貴方にプレゼント」

「冗談半分だったのに」

「まあ、スゴい蹴り。キックボクシングでも嗜まれてるの?」

「合気道よ」

「さすが日本ね!」


感心すんなよ。合気道のどこがスゴいのか解らん。


「で。呼び出した理由を聞かせてくれんのかね?」

「告白してほしい?」

「要らない」

「つれないね。気に入ったわ」


どこが気に入ってくれたのか知らないけど、見せてくれた笑顔が可憐で素敵だ。


「貴方、ミレイって人知ってるよね? 別世界の」

「あの世界のことを知ってるのかっ?」


アリアスは神妙な面持ちで頷く。


「その人と私は意識が共有されてるの」

「へー?」

「信じてなさそうだけど、真実よ。あの人からの伝言を預かってるの」

「伝言?」

「来るな、だそうよ」


なんか物凄いことが起こってそうな予感がする。


「凛が何かしたのか?」

「うん。凛って女の人が世界を破壊しようとしてるって」

「凛ちゃん。あんなに可愛かったのに……」


俺と玲が揃って嘆きのあまり溜め息を吐く。

やっぱり俺が居なくなったことで乱心したか。


「そこで本題なんだけど、ミレイがいる世界で君と同一人物の人間が凛って女の子の兄を名乗ってるって視たんだけど……」

「ひーくん!」

「俺じゃない!」


ドッペルゲンガーだ!

あっ、これも違うかな。


「その人が凛の為すことを肯定して止めないから、とにかく大変なんだって」

「そうか。ミレイに今、話せる?」

「意識は共有してるの。あっちから話してきても、こっちからは話せない」

「典型的だな。こっちから異世界に行けないから、どうにもできない無理なことだ」

「私はミレイを助けたい」


んな事を言われたってさ。


「ひーくん、世界を作ったって言ってたよね?」

「あれは偶然だって言っただろ。今年の夏休みに合宿した時に……」


あれ?


「どうかしたの?」

「違う。あの世界は凛が作ったんだ」

「ちょっと大丈夫?」


玲が心配そうに覗き込んでくる。今は気にしない。

先ず俺が偶然にも何もない世界を見つけたけど、具体的な設定とかは凛が作っていた。その時もキスしてたっけ。

実の妹とキスか……。

気持ち悪い。


「兄離れさせるとか思っておきながら、その実、俺が妹離れできなくするためだったのか」


全て凛に利用されてたのか。

もし彩華が同じ立場だったら、どんな事を考えて動くんだろうか。


「話は聞かせてもらった!」


彩華が颯爽と現れた。


「私が解決してやろう。じっちゃんの名にかけて!」

「あっ、朝の痴女」

「違うな。私は淫乱だ」

「どっちも同じよ!」

「おや」


生意気だなその意気や良し、と彩華は舐め回すように玲を見る。

その視線がやたらといやらしい。


「何この人! 人を見る目がいやらしいんだけどっ!」

「私はバイだ。だから、気兼ねなく視姦させてもらう」

「ひっ……!」


相も変わらず変態さんだった。ブレない人ってスゴいな。

懐かしむように見ていたら、彩華がこっちに眼光を向ける。


「さあ。悪いようにしないから、私を協力させろ」

「すみません。間に合ってます」

「ふっ、流石だな。だが、1人で全てを解決出来るほど世の中は甘くないぞ」


顔が間近に迫り、否が応でも顔が赤くなる。

そこで日本人共通の断れない力が発動する。


「あ、ありがとうございます……」

「解ればよろしい」


強引だな、相変わらず。

そういえば5月となれば、中旬頃に定期試験か。

屋上を覗き見る女子生徒の視線が気になった。






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