解らないことだらけ
ここは一体どこなんだ。
見たことはある。自分の部屋を見たことがない人間なんているハズがない。
凜が怖くなって逃げ出した俺だけど、まさかただ闇雲に突っ走ったら元の世界に戻れたらしい。
本当は喜ばしいことだ。
でも、腕に着けられた点滴とかに使われる管は何なのだろう。流れてるのは点滴ではなく、なんか変な色をした液体。
昔、植物状態の人間を特集したドキュメント番組で見た栄養剤と同じだ。
じゃあ俺、植物状態になってたのか。
とりあえず腕に着けてる点滴モドキを外してしまおう。
「ひーくん、今日も遊びに来たよ」
不法侵入者か………そんなワケないか。
ひーくん、なんて呼び方をして窓から侵入してくるなんて1人しか思い至らない。
「玲か」
「ひーくんが起きてる……!」
そんなに驚愕することでもないだろう。
そして何で抱きつく!
「よかった。もう目を覚まさないんじゃないかって思ってた!」
「何を言ってるんだ?」
俺はついさっきまで起きてたよ。
なんで「もう起きない」だよ。理解不能だ。
そもそも。
「なんでお前がいるんだ? アイドルはどうした?」
「急にどうしたの? 私、アイドルじゃないよ。そりゃあ、稀にスカウトされるけど……」
「アイドルじゃないのか?」
「当たり前でしょ。ひーくんを毎日お世話しなきゃいけないから、そんな余裕はありませーん」
アイドルじゃないなら、俺とコイツの関係はどうなる。
中学の卒業式で絶縁したハズだ。
「お前、俺と絶縁したハズだよな。中学の卒業式の時に」
「ひーくん、夢でも見てたんだよ」
急に諭すような口振りで玲は「ちゃんと話すね」と悲しい笑みを浮かべる。
「ひーくんはね、両親と凜ちゃんが交通事故に遭って死んだ日、ストレスに耐えられなくて倒れて植物状態になったんだよ」
何を急に言い出すんだよ。
あの事故で両親は死んだけど、凜は奇跡的に助かってたんだぞ。それで両親が死んだショックで凜は俺に依存するようになった。
それは確か俺が小学6年生の頃の出来事だ。
よく覚えてるからこそ、玲の言ってることは嘘だと断言できる。
「嘘を言うなよ。凜は死んでないよ」
今は異世界にいるけどさ。
「現実を見てよ。ひーくんの家族はみんな死んだの」
「確かに両親は死んだけど、凜は助かったハズだぞ」
「誰も助からなかった。ひーくんのせいじゃないよ」
「いや、だから凜は――」
不毛な会話だから、中断しよう。
自分の目で直接見れば判ることだ。
遺影とか飾ってあるだろう。実際に両親の遺影があったのは記憶にある。
俺が「ちょっと確認してくる」と玲に告げ、玲も付いて来る。
「ところで俺はどれくらい起きていなかったんだ?」
「ええと……4年生の頃だったから、ざっと5年くらい」
「あと三年はどうした。高校三年のハズだぞ」
「勝手に三歳も老けさせないでよ。まだ高1のゴールデンウイークが終わったばかりだよ」
はい?
「なあ、俺は何歳なんだ」
「私たち、まだ高校一年生に決まってるでしょ?」
「わ……」
若返ってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!
「いやいやお前はともかく、俺は18歳なハズだよ!」
「どうやったら3歳もサバを読むの。そんなにアダルトショップに行きたいのかよ」
「ちっがぁーう!」
もうイヤ。なんで年齢のことでこんな言い争いしなきゃいけないんだよ。
まあ、認めれないけど15歳なんだろう。
一階に降りてリビングに入れば、目の前に遺影があった。
凜が小学校入学の時に撮った写真。写ってるのは凜と両親だけ。これは叔母さんが撮ったんだ。
まさか入学式を終えた帰り道で轢き逃げ事故に遭うとは……。
入学式は午前中だけで、午後は授業になってた。新一年生以外の生徒は。
だから、俺は事故に遭わなかった。
「本当に凜が死んでたんだな」
「ねぇ、なんで死んでないなんて思ってたの?」
凜は両親が庇ったけど、瀕死の重傷を負っていた。
医者の見解は「今夜がヤマ」だそうだ。
俺の記憶では、奇跡的に意識を取り戻して事なきを得ていたのだが。
あれ、病院に行った記憶とか無いぞ。
んー、どういうことなんだろうか。
それより、今は玲の疑問に答えよう。
俺は今までのこと………玲と付き合って別れたことや高校ででの事………異世界に召還されて凜が勇者とやらになったことを喋った。
「夢……にしては、ヤケにリアルだね」
「俺にとっては、こっちが夢にしか思えないがな」
「そんなこと言われても、よく解んない」
「だよなー」
どっちが真実で偽りかは、俺と玲には判断がつかない。
「解んないなら、仕方ないよな。玲は凜みたいにヤンデレになっちゃいけないよ」
「急になに言い出すのさ! 私が誰に対してヤンデレになるの」
「ごもっとも」
「それはそれで釈然としない」
本当、ツンデレだけで間に合ってます。
凛と離れ離れになった今、俺は無自覚だった凜への過保護や恋情とか消さなければならない。
凜を兄離れさせるためには、先ず俺が凜から離れなければならない。
これはちょうどいい機会だ。
でも、心配事が1つだけある。
「おい、アイドル予備軍」
「なに、プロデューサー」
「異世界の話をしたんだけど、あの世界は俺が創った世界なんだ」
「え………えぇっ!?」
驚くのも無理ない。
「ほら、アニメの世界を『二次元』って言うじゃん。別次元で世界を創れたんだ、偶然にも」
「スゴい! どんな学者でも成し得ない所行だよ、それ!」
「うん、それで俺が会った人たちの容姿と性格、記憶が全く同じ人間を創り出したワケ」
「凜ちゃんのため?」
「うん」
そん時の俺を薄らだけど覚えてる。
何故か知らないけど、凜に知られないようコッソリ創ってた。
恐らくバレたら消されるんだろう、凜の手によって。俺も何か変なことされそうになってたし。
でも、最後に見た凜の無表情が出てきた瞬間に全て覚った。
消されたんだな、と。
「まあ、良心の呵責というか………いくら顔と性格と記憶が同じ人間といえども、凜を兄離れさせるために協力してくれた同士を見捨てるワケにはいかないな………なんて」
「その世界に戻りたいの?」
「解らない」
「おい」
いや、そんなジト目を向けられたってさ。
「正直、凜が生きてる世界からだったら行けたよ。でも、こっちからは……どうなんだろう」
「やっぱり何も解んない感じ?」
「俺は専門家じゃなければ天才じゃないから、よく解らん」
「だったら、一緒に捜そう。困った時は助けてもらえばいいの」
それを言うなら、困った時はお互い様だ。その口振りだと、助けてもらっても助けてあげない事になるじゃないか。
「あと、ひーくんの言ってたツンデレちゃんと部長さんにも協力してもらおう」
こういう時ほど、幼なじみがいることを感謝したことはない。
「ああ」
その笑顔と行動力には、どれだけ救われて……きたハズなんだろう。
6時くらいの投稿で固定します。次は土曜日の更新です。




