真打ち登場
目を覚ませば、そこは真っ暗闇で何も見えなかった。
適当に歩いていれば、人影が見える。
1人は剣を持った美女で、もう1人はネコ耳と尻尾が生えた美女だ。
眼福なのだろうけど、剣を持ってる方は妹だから複雑だ。
もう片方のネコ耳女は、ココアって名前でニャーニャー煩い。バカっぽく見える。
彼女たちは相対し、凜が殺気立った目で睨みつけていた。慣れていなかったら、失神すること間違いないだろう。
「おい、凜。大丈夫か」
だが臆することはない。
凜は本当は優しいんだから。
「お兄ちゃん………!」
感極まった凜は俺に抱きついてきた。
何があったかは大体想像できる。
でもなぁ。
「あの泥棒猫がヒドいことを言うの」
「そうか」
凜にヒドいことを言うヤツって大抵、至極当然のことを言ってるのだ。凜の『ヒドい』は、世間の常識を説かれることなのだろう。
それを解っていなかった頃は、凜のためにお説教をしてあげてた。
でも、解ってからは何だか複雑になった。
「可哀想になぁ」
「ねぇ、お兄ちゃん」
急に改まってどうしたんだろう。
「玲さんのこと、嫌いなんだよね?」
見せた笑顔は、ココアには窺えないようになっている。見たら即死しそうな感じだから、不幸中の幸いだろう。
ニッコリとした笑顔なのに、異様な威圧感を漂わせていた。
「ああ、確かに嫌いだよ。だってお前にヒドいことを言った後、ちゃんと誓ったじゃないか」
「うん、そうだよね。だってお兄ちゃんは私だけ見てくれてるもんね」
「そうだな」
重いわー。
いつから冷めたんだろうな、妹に対する家族愛とやらは。溺愛とか過保護ではなくなった、と言う方が正しい。
玲と別れてからではない。
やはり高校生になってから入った野鳥観察部の面々との思い出とか、色々なものがあってから変わったのだろう。あの部の訳し方は最低だった。野鳥観察の『鳥観』を反対読みして呼んでた。部長が恥じらいもせずに。
あれよりヒドいことなんて有り得ない。
「お兄ちゃん、あの泥棒猫をヤっちゃってもいい?」
「いや、ダメに決まってるだろ。次の手掛かりが無くなってしまう」
「へー、良かったね、泥棒猫ちゃん。お兄ちゃんが慈悲深くて」
今の凜には『殺す』しか選択肢は無いようだ。俺が歯止めを利かせないと、凜は殺人鬼に変貌してしまう。
死んだ両親は言っていた。
凜はピンの抜かれた手榴弾である、と。
ある意味で的を射ている。
これほど恐怖したことはない。背筋が凍り付きそうだ。
そう思ってた時だ。置いてけぼりにされてたココアが復活した。
「せっかくイイとこまでいってたのに、邪魔すんニャー!」
「コイツに当たり前のことを言ったって、何も変わりはしないんだ」
「言ってみなきゃ解んないニャ」
諦めないことは素晴らしい。
何事も諦めてしまってる俺からしてみれば、ココアみたいな諦めない人間は素直に羨ましい。
でも、凜が「ヒドいこと言った」なんて泣きついてきたら、俺が兄離れだの何だの言ってる暇はない。
全力を持って凜を守る。
「言わなくていいから。お前の言ってることは結局、コイツを傷つけることしか出来ない」
「傷ついたってイイニャ! 人間だから、当たり前ニャ!」
「お前はネコだから、傷つかないけどさ。誰だって傷つきたくないに決まってるだろ?」
「知らないニャ!」
聞き分けの悪い小娘が………!
お前が凜を守れるワケないのに、無責任なこと言うなよ。
「無責任なんだよ。だったら、お前は凜を守れるのかよ」
「無理ニャ!」
あっさり認めただとー!
「自分の身くらい自分で守れ、ニャ」
「凜には俺がいる。コイツは俺が守るから、お前の理屈とは真っ向から相容れないな」
「結局、お前が変わらなきゃ意味が無いニャ!」
「はぁっ?」
俺が変わってない、とでも言いたいらしい。
凜に対して「兄離れさせたい」と心から願ってる俺が、まるで妹離れできてないみたいじゃないか。
そんなハズはない。絶対に認めない。
「何言ってるんだよ。全く意味が解らんな」
「お前のその過保護を改めなきゃ、ソイツはいつまでたっても変わらないんニャ!」
過保護、だと?
「凜が大好きで何が悪い?」
「え、えええっ?」
凜よ、俺は当たり前のことを言ったまでだ。そこでなんでお前は驚くんだよ。
話し合いは平行線を辿り、ココアはついにシビレを切らした。
「もういいニャ! こうなったら、力ずくでお前を貰うニャ!」
ブチッ!
「受けて立ってあげようじゃない! 徹底的に二度と反抗できないように死なない程度にいたぶってあげる!」
かくして紆余曲折の末、凜とココアが闘うことになった。
結局、言葉での解決は望めなかった。残念。




