簀巻きダイビング
高いところが苦手なあまり、気を失った俺は夢を見ていた。
高いところが苦手になった原因にもなった高校一年の夏の一時だった。
「よし、今日はドッキリを仕掛けよう」
野鳥観察部の部長―――結城彩華の一言から、初の合宿が始まった。
海沿いにある彩華の別荘にて、アホな提案がされた。
ちなみにこんなアホな提案を真面目に言っても、反対してくる人間はいる。
「ちょっとは真面目に活動しないんですか、この部活は。そんな事をしてる暇があったら、鳥の生態を調べなさいっ」
至極真っ当で当たり前でしかないことを言ってきたのは、高橋桜だ。
まあ、ここまでは普通の流れだ。
そこからは、この残念部長の斜め上を行く反論が始まる。
「夏休みの合宿でドッキリをやるのは大切だ。少なくとも俺はそう思う」
「モノマネしなくていいから! 貴方、大家族の父親じゃなあるまいし!」
「ドッキリを仕掛けたいんだ、桜に」
「うん、何をやるのか参考までに聞いておこっか」
「朝起きたら浴衣が着崩れしてる悲劇をやろうと………」
「私のイメージをぶち壊したいのっ?」
文武両道、品行方正などで知られてる桜のイメージをぶち壊しするには足りてるが、部長は「まだ足りない」とばかりに不満だらけだった。
その後は部長と桜による終わりなき言い争いが始まったから、俺は暇つぶしにソファーで丸まって寝てるもう一人の部員、鷹見白雪にイタズラしよう。中学生に見えるくらいの美幼女だから、愛嬌があってすげー可愛い。ちなみに部のマスコットキャラクター。
美人で選ぶなら凜が圧倒的だが、可愛がるんだったら白雪がダントツだな。
猫みたいだなぁ………。
「ふむ」
えいっ。
「ひにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
可愛らしい叫び声と共に白雪は飛び起きた。その余波で俺は、白雪の踵をモロに顎に貰い受けた。
何をしたかって?
脇腹を人差し指で突いただけだがねぇー。なんでそんな風にジト目で睨むのかね。
正直に言おう。
そこもまた可愛い!
「人が気持ちよく寝てたのにィー!」
「女の子の脇腹がどれくらい柔らかいか知りたくて………」
「セクハラァー! コイツ明らかにセクハラしたァー!」
失礼な、人聞きの悪い………!
「これはセクハラじゃない。イタズラだ!」
「セクハラの定義って解ってる?」
おや、穏やかじゃないな。
ちょっとふざけたのもあるが、何より、他の奴らに感づかれそうなので早々に謝っておこう。
「ごめんなさい。ほんの出来心だったんです」
「土下座」
澄ました顔で酷なことを言う。
羞恥と屈辱感で死ねる!
「なんだなんだ、土下座と白雪から聞こえちゃったよー、逢坂く~ん?」
げっ、最も会話に参加してほしくない奴が参加してきた!
くそっ、桜は足止め出来なかったのか!? って、物理的に沈められちゃってるし!
おのれ、部長! 謀ったな!
「さて。一部始終を見ていた私から言わせてもらおうか。
逢坂くんが全面的に悪い!」
「だろうな」
「よってドッキリの前のペナルティーだ」
ほら、これが狙いだったんだ。なんか「計画通り」とか言ってニヤニヤしながら呟いてるし!
まあ、いいだろう。
そっちがその気なら、こっちは開き直らせてもらう!
「セクハラしたからってペナルティーを受けるなんて理不尽だ! たかだか白雪ごときの脇腹を突いたところで何が減る?」
「あれ、何か減ったっけ?」
「ちょっ、部長さん!」
「ほれ、見ろ! 何もないだろうが!」
「減るもん! 乙女の純潔とか」
「ハッ」
そんなもんは鼻で笑い飛ばしてやった。
「お前の口から乙女の純潔なんて言葉出るなんて、世も末だなー」
「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ガブッと一発、白雪が怒り狂って右腕に噛みついた。
「いだっ」
「フーッ、フーッ!」
離してくれないらしい。
やれやれ、
「モテモテなのも大概だなぁー」
「…………」
「ごめんなさい、調子に乗ってました。どうか許してください、白雪様」
無言で歯を更に食い込ませるもんだから、もうイヤ!
そこへ、俺の肩に手を置く人物がいた。
「喜べ、貴様にはパラシュート無しのスカイダイビングが待ってる」
この部長は本格的に殺しに来たらしい。
ここまでで夢は終了した。
オチを喋ってあげれば、簀巻きにされてセスナ機に乗らされ、高度5000メートルから落とされた。本気です。
1000メートルくらいまでは記憶があったんですよ。猛スピードで地上が迫ってくる恐怖を感じていたのは。
残念ながら、そこまで覚えていて気が付いたらベッドの上でしたよ。
なんやかんやで部長が助けたらしいから、吊り橋効果が働いて意識するようになった。




