歪んだ性格
初っ端、誰かさんにとっては拷問に等しい行為が待っています。軽く終わらせるつもりです。
「ふっ、よもやこの俺が謀られるとはな」
ルシファーは不敵に笑む。
ギチギチと縄が軋みを上げて更に縛りが強くなる中、彼の表情は晴れやかだった。むしろ悦んでいる。
良かれと思ったことが全て裏目に出るのは、この世界に出て学んだ。
縛り上げたのは俺だが、尋問は凜が担当する。
「先ずは――」
無表情で謎のプレッシャーを放つ凜が、ルシファーの髪を掴み上げる。
「奴隷を買わせるんじゃなくて、私たちを奴隷にしたかったのかな?」
「いやー、ちょっと誰かが正体をバラした手前、そうせざるを得なかった」
「そのおかげで私たちがヒドいめに遭ったことをお忘れなく」
「別に捕まらなかったんだから、結果オーライで」
「良くないに決まってるよね?」
剣でルシファーをペチペチと叩く凜。仕舞いには鞭で叩いてる。
あーあ、これはルシファーが発狂しちゃうな。
「やめろォー! 何でも喋るからやめてくれェー!」
ほらね。
「じゃあ喋って」
「だが俺はヒントしか与えられない。そういうルールだからな」
「つまんない。だったら、さっさと喋って」
「はぁ………」
ルシファーは溜め息を吐いた後、喋り出した。
「まだ課題は続いているし、何も変わっていない………それだけだ」
ルシファーはそう言って、またしても消え去った。縛られたままで。
「どういうことなの?」
「後は何をすればいいんだ」
「もう疲れました」
1人は茫然として、残る2人はぐでーと寝転んだ。
「仮にも女の子が床に寝転がるな。はしたない」
「問題ない。私は妾の娘だからな」
「それを平然と言えるのか」
「私は直系で、好奇心旺盛の知りたがりの本の虫です」
「ああ。だから、あんなに付いて来たがったのか」
「そうですね」
それにしても、何も変わっていない、か。
凜の兄離れは変わらない。世界も変わらない。
俺はどうすればいいんだろう。
「その奴隷を解放したって、その子たちを故郷に返すことは不可能ということか」
「そうか!」
何気なしに呟いたら、凜が立ち上がって抱きついた。
「お兄ちゃんはスゴいっ! さすが私のお兄ちゃんっ!」
「おおぅ、俺はお前の兄なんだから当たり前だろう」
「別にお兄ちゃん如きに感謝してないんだからねっ」
ツンデレ? 面倒くさい。
とりあえず凜には全て解ったらしい。どこの名探偵だよ。メガネを掛けろ。
凜は俺から離れ、決意を新たに立ち上がる。
「そこの姉妹。名前は?」
「私はミユです。こっちは妹のミオ」
「これから仲良くしましょうね」
「えっ………?」
驚きの声を上げたのは俺だった。
凜は他の2人にも笑顔を向ける。やけに自然な笑みだった。
でも、これは嘘だ。
経験上、凜が自然な笑みで友好を示した時というのは、実際に仲良しになった例はない。
表面上は仲良くなり、裏では絶対に受け入れない鉄壁の防御を持つ笑顔。
心から友好的にならない、というのが本音だろう。
だが建て前は仲良くするのだ。
前に進んだのだろうか。根っこの部分は変わらないだろうけど。
「私が貴方たち姉妹の故郷を取り返してあげる」
「あ、そんな事しなくていいです」
ピシッ。
凜がカッコつけた姿のまま固まってしまった。
なんでミユは即答で拒否すんだよ。
「どうせ国が返ってきても、お父様やお母様はもう帰ってきません。私には、妹のミオさえいれば後は何も要りません」
「………………」
美しき姉妹愛かな、この姉妹で抱き合い様は。
奇しくも今の凜と俺の関係に、すこぶる似ていた。
凜は何も言わず、ただフリーズ状態と化していた。
しばらくしてようやく復活した。
「でも、ほら。自分の生まれ育った場所って必要かな………って」
「そんなの要らない」
「正直に言っちゃえば、貴方たちは足手まといだからさっさと故郷に返したい」
「そんなの要らないって、さっきから言ってるハズです!」
「ちゃんと人の言うこと聞きましょうね?」
凜が笑顔を浮かべ、ミユを諭す。
笑顔というのは恐ろしい。人の警戒心を薄れさせることが出来るからな。
だが、本当に悪い奴は笑顔で近づいてくる、という格言がある。
前の主人にヒドいめに遭った姉妹は、恐怖心のあまり俺の後ろに隠れた。
「この人、何なの? …………怖い」
「あのな。俺の妹なんだけど」
「知らない。イヤ、来ないでぇー!」
「おいおい」
ここに来てトラウマ発動かよ。
前の主人に受けた傷はミオを庇ったから強く、深く心に刻み込まれていた。
凜は笑顔を向け、声をかける。
「ほら、うるさいから落ち着いてねー」
「こっちに来ないでっ!」
「これだからお兄ちゃん以外の人間は嫌いなんだよ」
凜は額に手を当て、気怠いとばかりに嘆いた。
「あーあ、せっかく人助けしてあげようとしいるのに………そんなに怖がられると胸くそ悪くなるんだよねー」
なんでこうも歪んでるんだろうな。
さすがに看過できないと覚ったミレイさんが、俺の背中に隠れる姉妹を更に隠すように立ち上がる。
「それは言い過ぎだ」
「えっ、何が? 私、何か言い過ぎました?」
「自覚なしか! というか、この姉妹の様子から判断できるだろう!?」
「知りませんよ。何で私が、いちいち他人を気遣わなきゃいけないんですか?」
「人として当たり前だろうが!」
ミレイさんの言ってることは正論だ。どっかでオロオロしてばかりの騎士とは別人だ。
ただ常識が通用しない相手に対しては、決定打に欠ける。
「他人なんて媚びへつらう奴らばかりだから、私が気遣う必要なんて無いの」
「見て呉れが良かったから、周りはその性格を許容したワケか。だが! 私は断じて許容しない」
「有象無象が何を言い出すのかしら。モブキャラ風情が頭に乗るんじゃねーよ!」
そのゲーム認識は元の世界と同じ。妹の世界観には、俺と凜しかいない。
モブキャラの意味が解らなかったミレイさんは首を傾げるも、挑発的な笑みを向ける。
「そのモブキャラと勝負してみようじゃないか。私が勝ったら姉妹に無理強いしない。そっちが勝ったら好き勝手にどうぞ」
「へー、勝負を挑むんだ。勝ち目もないくせに? 随分とおめでたい頭ですねー」
でも。
「受けて立つ。格の違いを見せつけてあげるから」
この黒い笑みはアカン。人殺しの目や。
勝負が決定的になったら、すぐに止めに入らないとマズそうな予感がした。
常識の欠如。それが問題でした。
名無しの兄貴が何も言わないのには、ちゃんとした理由があるんです。ネタバレなんで言いません。
やはり言葉による言い争いは不毛です。互いに譲らないし、認めも納得もしない。
最後に決定づけるのは、戦って勝敗を決める事です。




