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日のない街3

何事も初めての経験というのは、あんまり良いものではない。

その最たるものとして、今来ている場所にあるだろう。

初めての奴隷市場。

そして人身売買。

あんまり良い経験じゃない。むしろ悪い経験だ。

鎖で首や両手足を縛られたボロい衣服を身に着けた人たちが見える中、凜は俺と腕を組んでいた。


「浮かない顔だね、お兄ちゃん。もしかして腕組んでるのダメだった?」

「いや、そんな事はない。ただ………これから、奴隷を買わないといけないんだなと思うと滅入る」

「私はお兄ちゃんがいるから平気ー」


悪戯な笑みを浮かべる凜の後ろには、俺と同じく浮かない顔のレミとミレイさん。

奴隷市場に来るのが嫌ではないが、仮にも王女と騎士が「奴隷を買いに来た」なんてバレると、厄介な事になるのは明白だ。しきりに辺りを見回したり、帽子を目深に被ったりしてギリギリのやり過ごし状態を貫いている。俺も便乗して、バレない程度にチラ見しながら周囲の人間を観察する。

貴族らしき人は窺えないが、服装的に農家の人間が多い。あと工業系の会社を営んでいる人間が多数、チラホラ窺える。

本当の事を言ってしまえば、凜が買いたい姉妹は上流階級の人間のご用達だ。謂わば愛玩用の奴隷。

奴隷市場でも特別な場所に行かなければならないのだが、それを指摘しなければならないだろう。


「凜。実はお前が買いたい奴隷なんだが………」

「どうかしたの? あげないよ?」

「上流階級の人間が愛玩用に買う特別な奴隷だから、別の場所で売買されてるんだ」

「え、えええー!」


驚きのあまり凜は人目をはばからずに、大声を出してしまった。

注目を集めてしまい、レミとミレイさんが嫌な汗をダラダラ流す。

俺は平謝りして視線を散らし、なんとかひと段落する。


「えっと、どこに行けばいいの?」

「ちょっと特殊な所だから、はぐれちゃ駄目だぞ」

「うん、わかった」

「レミとミレイさんもはぐれると、売り飛ばされるんで気をつけてくださいよ。ただでさえ綺麗な美人さんなんで」

「綺麗!?」


ミレイさんは当然とばかりに微笑を浮かべ、レミは顔を赤くして驚きの声を上げる。

凜に睨まれたけど、口笛を吹いてやり過ごす。

ちゃんと言われた通りにはぐれないで移動してくれて、目的地に到着した。

広い講堂みたいな建物。窓はカーテンで完全に外界の光をシャットアウトして、夕方に備えて先手を打った感じの場所。

貴族や王族、会社の社長など様々な社会的立場の者たちが一堂に集い、講壇にいる商品(奴隷)を値踏みしていた。ここの奴隷は、それなりに身なりが整っている。

この奴隷たちは、没落貴族やら滅んだ王家の人間だったりと元は裕福な立場だった奴らが、奴隷に身を落とされて使い潰されようとしている。

悪い人に買われないことを祈るばかりだ。

そんな事を考えていれば、競売が始まった。司会はルシファー。

次々と高値に上がっていっては、買われていく奴隷たち。

俺は今更ながら、思ったことを口にする。


「2人ともそんなに不安なら、奴隷市場の外で待ってればいいのに」


それを聞いたレミとミレイさんは、慌てふためいた。


「いやいや、別に不安ではないんだぞ。断じてな」

「同じく。ただあなた方にお金を預けるのが心配なだけ」

「破産者になった気分だ」


破産したことが無いから解んないけど、自分で何か買えないのはいろいろと辛い。

思わぬところでのヒドい扱いに、気分を害していれば、目的の奴隷の順番がきた。


「さあ、来ました。本日の注目商品………ちぇ、美少年じゃねぇのかよ………が来ました。美しき姉妹愛を見せる幼い少女たちは、10万ゴールドから」


我先にと値段が上がっていく。

凜も上げたが、すぐに別の人間が値段を上げてしまう。

熾烈な値段上げは、ついに60万を超えたところで失速し始めた。


「さあさあ、60万だ」


ちょっくら俺も上げてみようか。


「さあさあ、60万だ。手を挙げる奴はいるか」


無視しやがった。さては、嫉妬という奴なのか。男の嫉妬は見苦しいぞっ。

ちなみに。


「ミレイさん、65万にしたら不都合がある?」

「大有りだ。もし上げたら、一端戻らなければならなくなる」

「じゃあ………」


凜に合図を出す。

そして、手を挙げた。


「おお、65万です。これにて終了だ」

「ちょっ………」


ミレイさんに肩を掴まれた。


「私が言ったことを忘れたのか、一瞬で」

「別に王家の財政に問題は無いんだから、凜の好きにやらせても問題ないでしょう?」

「お前、たかが65万だと思ってるかもしれないが、これを新聞社が嗅ぎつけたら大騒ぎだぞ」


実際に大騒ぎを起こしたのか疑問に思う。

この世界には新聞社があるが、絶対君主制の国において半ばハイエナのような扱いがされてる。情報統制をするような法律が無いから、元の世界と同等以上の自由な報道活動している。

奴隷を買いたいために税金を使ったなんて知れたら、一大ニュースだろう。数日間くらいはトップを飾る自信はある。

だから、不安げに周囲を見渡していたのか。ようやく合点がいった。

そんな事はどうでもいい俺はといえば、凜の頭を撫でてやっている。


「良かったな、買えて」

「でも、使い道がない」


確かに。元の世界には奴隷がいなかったし、奴隷に何をやらせていたのか知る余地が無かったから、奴隷を買っても持て余すだけだ。

単純に鎖から解き放ってしまえばいいのだが、そんな無責任な事はやらせない。


「やっぱり自由に生きることが必要だよね。人間、みんな平等だから」

「馬鹿か、お前は」


平等、なんて言葉はこの世界では通用しない。

それに。


「どうせ解放したところで、また奴隷として売り飛ばされるのがオチだ」

「何とかならないの?」

「一生、買うしかないな」

「うわぁー」


持て余す、と凜は小さく呟いた。

なんで買うと決めたのに、その後のことを考えなかったせいで嫌そうな顔をするかね。あの時の情熱は既に冷めてしまったというのか!

それにしても65万か。

前の世界で「どれだけ金を貰ったら死ねるか」という議論をしたことがある。億単位まで金額は上がったところで、議論は打ち切られた。

人の価値って安いもんだな。俺たちがやった議論は不毛でしかならず、そもそも余程の理由がないと金を積まれたって死ねない。

哀れ。億単位まで届きそうな贅沢な暮らしを享受してきた奴らが、安い値段で売り飛ばされる。


「世知辛い世の中だ」


それとなく呟いたところで、不意に違和感を覚える。

前々から気になってたけど、敢えて指摘しなかった。

なぜ上級悪魔自ら競売をしているのは、別に問題にというか頭に浮かべない。

別の疑問があるから、その答えを導き出したいがために他の客の奴隷リストを盗み見る。

やっぱりと言うべきだったんだろうか。

全員、王族か王宮に仕えていた女性ばかりだ。

さっきの姉妹は王族出身なんだろう。だとしたら厄介だ。


「凜、お願いがあるんだけど」

「何かな?」

「さっきの姉妹は俺が買い取っておくから、凜はミレイさんとレミと一緒にこの街から出ておいて欲しいんだ」

「やだ、お兄ちゃんと離れ離れになるのは」

「ふぅ」


俺は凜の頭をワシャワシャと撫でた。


「わわっ!? ちょっと髪が乱れるよー」

「一生会えなくなるんじゃないから、気にしなくていいよ」

「でも、一緒にいる」

「言うことを聞いてくれよ。合流したら、たくさん甘えてもいいからさ」

「………むぅ、わかった」


渋々、といった様相で頷いてくれた。その間にお金を貰っておく。

凜が2人を伴って立ち去る中、俺はさっさと金払って姉妹を手に入れた。

不安げな姉妹。この子たちは、市場にいる人間がどういう人種か知ってるんだろう。


「大丈夫。安心しろ、俺は人間だから」


口で信用してくれるか解らんが、こればっかりはどうにもならない。


「嘘っ!? 人なのっ?」


驚きの声を上げたのは姉のほう。

終わった。


「おや、どうやら人がこの市場に紛れ込んだようだねー」


ルシファーがわざとらしく芝居でもしてるが如く、大声を上げた。

ヤバい、バレた。


「人なら奴隷にして買い入れしてるんじゃないか!」

「その声はマイエンジェルじゃないか。1人ということは、今夜はオーケーなんだな?」


何がだよ。


「オーケーする訳ないだろう、ハゲ!」

「イイ、もっとだ」


乗らねーよ、この変態!


「口で言わないで罵倒してくるとは、素晴らしい!」

「読まれたっ!」


何なんだ、このハイスペック変態は! もうイヤだ。


「あんまりしつこいと鞭でシバくぞ、ゴルァッ」

「それも素晴らしいことだ。生憎、今は仕事中だから無理だ。………無念」


パタリと倒れ込んだ。まるで切腹した侍みたいだった。

程なくして立ち上がり、ニヤリと笑む。


「この中に奴隷以外の人間がいます。捕まえたら、もれなくタダで奴隷にしてもよろしい!」

「はぁっ!?」


ヤバい、完全に先手を打たれた。

無事、逃げきれるかな。凜たちは大丈夫だろうけど。






大変なことになりました。

最後は急展開ですが、市場にいて買う側にいた奴らは全て魔族です。

空前絶後のとんでもかくれんぼです。しばらくは本作の題名にもなった妹がいない状態で話は進みそうです。

別々の視点で書いていくので読みづらいかもしれません。

今後ともよろしくお願いします。




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