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勇者になりました

初めて取り組むジャンルです。

楽しく書いていけたら、嬉しくなります。

個人的には、笑いを保ちつつもシリアスに展開したいと思います。



雪のように白い肌、長く綺麗な黒髪。澄んだ美声と切れ長の瞳は、多くの人を魅了して止まない。

俺の妹――逢坂凜の容姿を客観的に且つ簡単に説明してしまえば、ざっとこんな感じだ。まだ足りないかもしれない。

要するにヤツを偉人に例えるなら、楊貴妃となる。

告白してくるヤツがいるかと思えば、誰も恐れ多くて告白してこない。高嶺の花らしく、誰も手が出せない。告白したヤツがいたらしいが、あっさりと断られたらしい。

高校一年生にもなるのに夜遊びの1つでもして心配させてほしい、なんて俺はしみじみ思う。

それは叶わない願いだと、玉座で王冠を被ったヤツを見て憂鬱になる。


「よくぞ参られた勇者よ。歓迎いたそう」


ちなみに俺に対して言っているのでない。俺に言ってるんだったら、速攻で頭突きしている。もちろん相手は王様なので、そんな事すれば一発で牢屋行きだ。

で、誰に話しているのか。

答えは凜だ。

凜は困惑と不安な様相で正座している。

現在の状況を整理しよう。

始業式が終わって妹と一緒に帰ろうとして、妹が校舎裏に出現した魔法陣に吸い込まれようとしたのを慌てて引っ張ったら、俺も吸い込まれた。ミイラ取りがミイラになる瞬間というのは、こういう事だったのか。

吸い込まれた先では、ローブを着込んだ集団が万歳している不思議な状況。半ば連行に近い状態で鎧を着込んだ連中に連れて行かれ、今に至る。

ちなみにだが、俺は柱に寄りかかっている。巻き込まれた形の得体の知れない少年は、王様を正面から眺めることは許されないらしい。

凜は助けを求めて、周囲を見回す。

俺が見えないから、急に涙目になって怯えだした。


「ひぅ………」


その場にいた奴らが一斉に「泣き出しちゃった」と慌てふためく。


「お兄ちゃーん、どこー?」

『お兄ちゃん!?』


一斉に視線が集まる。

凜には困った癖がある。

依存癖。

両親を事故で亡くしてからというものの、たった1人の家族である俺に依存する傾向にある。それを許容した俺も、凜に依存しているのかもしれない。

このままだと何が起こるか知れたものじゃないから、柱の陰から姿を現す。


「俺はここにいるから、安心していいぞ」

「あっ、お兄ちゃん!」


一瞬、凜の顔がパァァと華やいだ。

すぐに咳払いすると、王様に向き直る。対外的に清楚で凜とした佇まいで通しているから、キリリと表情を引き締める。


「それで私が勇者とは、どういう事なんですか?」

「うむ。それは――」


王様が事情を語り出す。

三日前、王様の娘――いわば王女様が魔王に攫われてしまったというのだ。

すぐに騎士を派遣したが、あえなく返り討ちにあって惨敗。奪還は適わなかった。

そこで魔王に唯一対抗できる勇者を召還することにした。

魔王を倒す勇者は、別の世界から呼び出すのが常らしいので、それに則って国中の魔法使いが集まって実行して召還したんだと。

ちなみに目的を果たすと元の世界に帰れるとのこと。


「解りました。王女様を助けに行きます」


即断即決。

王様の話を聞いた数秒後には、凜は引き受ける返事を出していた。俺に異論は無いから、ただ傍観に徹するのみだ。

周囲の騎士たちが歓喜に湧く。

王様も喜びたい気持ちは山々なハズだが、わざとらしく咳払いして落ち着かせる。


「では、お供を連れて――」

「要りませんよ」


これには驚愕。

またしても王様は咳払いする。


「しかし道案内が必要――」

「却下」


頑なに断ろうとする凜。

俺の反対側の柱にて、名乗り出ようとした甲冑姿の女性が頭を抱え込んでいる。

哀れだな、と同情してしまった僕は助言を出す。


「凜、俺がついて行くのはいいけど、誰かが道案内してくれないと迷って一生帰れなくなるぞ」

「うん、わかった」


とびっきりの笑顔を凜は見せる。俺にしか見せない笑顔。

ドキッとしたのも束の間、凜は言うことに従ってくれる。


「王様、では誰か道案内してくれそうな人をお願いします」

「はいはいっ、私がお供します!」


待ってましたと言わんばかりに甲冑姿の女性が出てくる。さっきまで頭を抱え込んでいたのが、まるで嘘のようだ。


「レミ・アルジェリアですっ」


他の騎士たちは「あのアルジェリア家の異端児が」と呟いている。中には溜め息を吐く者もいる。

王様ですら渋っているようだから、きっとあまりお薦めできない人なんだろう。

美女と一緒に命懸けの旅をするか否か、その天秤に騎士たちは掛けられている。

だがレミ以外に名乗り出る輩はいないので、自動的に同行者はレミだけになった。

王様がいる広間を出て、ようやく俺は凛と合流する。


「お兄ちゃんっ」


ギュッ!

会うと同時に凜は、俺に強く抱きつく。

顔を上げて見せた表情は、真っ赤になって怒っているようだ。


「なんで近くにいてくれなかったの!」

「俺はただの異世界から来た人間であって勇者じゃないからな。得体の知れない少年を視界に収めたくなかったんじゃなかいか?」


こんな事言うべきじゃなかった。というか言葉の選択を間違えた。


「ふふふ、あのコスプレ中年男。どうやって消してやろうかしら」


黒い笑みを浮かべた凜から、女子高生とは思えない物騒な発言を飛ばす。


「落ち着けよ。俺は気にしてないから」

「むぅ………お兄ちゃんは優し過ぎます」

「あはは、そうかもな」


頭を撫でてやれば、凜は頬を赤らめて俯く。静かになってくれるから、多用するようになってきた。

周りから散々な冷やかしに遭う行為なだけに、本当は気乗りしない。


「いました! ようやく見つけましたよ!」


そろそろ羞恥の限界に近づいてきた頃、レミが駆け寄る。

甲冑姿ではなく、男物の礼服姿だった。いわば男装してる。


「さあ、行きましょう」

「どこへ?」


凜が訊ねる。


「魔王を倒しに行く旅です。私、他の街に行くの初めてなんですよねー」

「そうなんですか。あたしと一緒ですね」

「でも、何かあっても私が魔王を倒すまで守り通す覚悟ですので」

「お願いします」


笑顔も浮かべず凜は適当に言ってるだけなのに、全くそんな素振りに見えない。

凜は俺に対してだけ感情豊かとなる。裏を返せば、公の場では全く感情を表に出さない。


『寡黙なクールビューティー』


それが他の人から見た凜の印象。随分と大人びた仮面だ。

本当は寂しがり屋で甘えん坊の素直な普通の女の子。

兄に依存してヤんでいるのを除けば、とっくの昔に彼氏とイチャイチャしていたかもしれない。

それも今は仮定の話でしかない。

目的を果たしたからと言って、必ずしも元の世界に帰れるとは限らない。

だから、そうなってもいいように妹には異世界の生活を通して兄離れをしてもらわなければならない。

その第一歩。

この同じ年齢くらいのレミと仲良しになってもらうよう頑張ろう。


「ほら、凜。自己紹介しておけ」

「うん、わかった」


俺の方を向いた凜は、とびっきりの笑顔で頷いた。

素直に従ってくれるが、凜はレミに向き直ると笑顔が消え失せる。


「逢坂凜です。よろしく」

「カッコいい」

「そうですか」

「でも、君のお兄さんに見せる笑顔も見せてくれると嬉しいなー………とか」

「嫌です」


期待のこもった眼差しでレミは見ていたのに、凜は間髪入れずに拒否した。

落ち込むレミを哀れだと、同情してしまう。

早くも困難を極める旅路になりそうだ。




次回は王宮を出てからの話になります。

まさか丸腰で旅に出るわけにいきませんので。



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