アメジストの物語
小さな農業国「ワイン・セラー」に、言葉が達者な外国人が現れる。
彼らは「コルク」と呼び、死にかけた彼に食べ物と仕事を与えた。
彼はお礼がしたいと、ある本を書いたのだった。
ワイン・セラーという国は、それはそれは緑であふれた土地でした。
国に住む人数はほんのわずかですが、広い土地を持っておりそれら土地にブドウをたくさん植えていました。
毎日ブドウを絞り、踏んでワインを作ることが生業になりその手と足は紫色に染まっていきました。
毎日ブドウを口にしていたら、髪も目も紫になっていました。
発展した兄弟国に比べて、いつまでも地味に畑仕事をしているこの国の王様はそれを恥ずかしく思っていました。
外の国の人間は入れず、中の人間も外の国に出すことはありませんでした。
国の人間はそれでも幸せに過ごしていました。
ある日、少女が町の外に遊びに行くと一人の倒れた男を見つけました。
「お母さん、手と足が白い男の人がいるよ。外の国の人かな」
小さな国でそれはちょっとした騒ぎになりました。
恥ずかしがり屋の王様は周りの人間が入ってこないように壁をいくつも作り、獰猛な動物を飼う森で囲み、毒草を植えていたからです。
それら装備をしてから外の国の人間が入ってくることはありませんでしたし、恥ずかしいからという理由なので外の国の人間を特別取り締まる法律もありませんでした。
「何か食べ物をください」
死にかけた男はおなかを鳴らしながら言いました。
国の人々は疑うことを知らず、ただ哀れに思い、男に食べ物と水を与えました。
長い旅のようだったので風呂に入れ、体をこすり、髪をとかし。
服は洗濯し、花の香りをふりまきました。
髪も体も白い、一人の男が回復した頃、彼は言いました。
「私は自分を探すために各国を旅しています。ここまで迷ってくることができましたが現在金がありません。ここでお金を稼ぎ何かを買い、次の国での足しにしたいのです。しばらく働かせてくれないでしょうか?」
この国の王は身内にはとても親しみやすい王様でした。
血統は王のものですが、城はほぼ普通の家で大きさも取り立てて大きくなく、服も作業服です。
毎日農民が幸せに暮らしているのを見て、彼らが作った作物を食べることが何より幸せでした。
男が保護されている家へ様子を見に来たそんな王様は困りました。
いろんな国をこの男は知っている、ほかの国の話をこいつが皆にしたらこの国の人間はほかの国に取られてしまうのではないか。
しかし、恥ずかしがり屋でもなんだかんだ人のいい王様は言いました。
「分かった。この国の人の為に尽くしてほしい。しかし、この国でほかの国の暮らしぶりを話すのはやめてくれ。また、ほかの国でうちの国の話すのはやめてほしい」
それから彼は保護してもらった家で「コルク」と呼ばれ、ブドウ作りの手伝いをしました。
畑の草取り、枝切り、収穫。
ブドウ踏み、瓶つめ、市場でワイン売り。
時に自国になかったパンやケーキをアレンジして町の人たちに教えることありましたが、だんだんと国になじんでいく男に王は何も言いませんでした。
彼が国に入り、しばらくたったころ彼は外の国に出たいと言いました。
王は彼を外に出すことに躊躇しましたが、彼が農民の為に良く働いたことを知っていたのでそれを許しました。
すると彼は言いました。
「この国の為に本を書きました。必要になったら使ってください」
と、王に一冊の本を渡します。
そして彼はこの国から去っていきました。
彼が去った後、王はその本を読み驚きました。
それは魔法書だったのです。
たった一つの魔法が書かれた、本を持ったものならだれでも使える魔法書でした。
「なんと恐ろしい本なんだ。この本が他国に渡ればこの国は潰される……」
王様は仲のいい国の農民たちに彼が残した本は何だったのかと聞かれましたがそれは答えませんでした。
「彼は我が国を思って作ってくれたのは間違いない。しかし、とても恐ろしい本だ」
「この本の事は知ってはならぬ。この国を潰してしまう」
王は皆にそう言うと、その本を隠してしまいました。
ある時、ワイン・セラーの広大な土地を狙い兄弟国が攻めてきました。
農業しか知らない人の良い彼らは震えます。
「王様、奴らは精鋭の兵士たちを送り込もうとしています。私たちに勝ち目はありません」
民衆の訴えに、王は悩みました。
今から剣術の修行をしたところで奴らに勝てる見込みはない。
しかし、降伏をしたところで民衆が無事でいられるとも限らないし、ほかの国の戦争に駆り出されるとも限らない。
そして、王はコルクが残した本を思い出しました。
「あの本を使うか。皆は教会の鐘が鳴るまで隠れておいで」
王は高台にのぼり、攻め入られる自国を眺めました。
大体兵が国に入った事を確認すると、魔法書を掲げます。
すると紫色の雷が降り、夜空が明るい紫色に変わり、紫色の雲が空を渡り世の中が紫色に染まります。
濃い香りが町中を包み、町の者達が鐘の音を頼りに外へ出ると。
血の色に染まった兵士が地面に倒れ伏していました。
町中が血の色に染まり、その異様な光景に皆顔を覆います。
「……なんと恐ろしい本なのだろう」
王は雨を浴びながら下界を見下ろしつぶやきました。
アメジストの本続く