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旅の剣士

 数日後、アラン一行は村を出発していた。


「シェーラが護衛をつけてたとはね。全然気がつかなかったよ」


 アランがそう言うと、エリルが馬を操りながら答える。


「それはシェーラ様の性格を考えればわかることだと思いますが。あの方がアラン様を放っておくわけがないですよ」

「まあ、そのおかげであの村のことを任せて、すぐに出発することができたんだから、よかったけどね」


 エリルはそれを聞いてため息をついた。


「できの悪い兄を持つと苦労するんですね」

「まあ、できのいい妹はありがたいよ。おかげで家のことは気にしなくて済むしさ」

「アラン様が旅に出された理由がよくわかります」


 二人がおしゃべりをしていると、先に進んでいたバーンズが戻ってきた。


「アラン様、この先に魔物を確認しました。馬車はここに置いて、先に片付けるべきだと思います」

「そういうことなら、エリル、ちょっと留守番を頼むよ」

「わかりました。お二人ともお気をつけて」


 アランとバーンズはエリルに見送られてその場から移動する。そして少し先に進むと、バーンズは道から外れて少し歩くと、足を止めた。


「何か聞こえますね」


 バーンズの一言にアランはうなずいた。


「誰かが戦ってる音だ」


 二人が黙って慎重に進んでいくと、前方で誰かが魔物と戦っていた。それは剣と盾を持った男、剣士のようで、小型の魔物に跳びかかられながらも、それを盾で防ぎ剣で払い、一歩も引かずに戦っていた。


「あれはまずいですね。腕は立つようですが、これ以上魔物が増えたら押し切られる。私が飛び込みます、アラン様は援護をお願いします」


 バーンズは返事を聞かずに走りながら剣を抜き放った。それから剣の根元のスロットを動かすと、そこに一枚のカードを入れ、スロットを元の位置に戻した。


 そして剣士の後方に走りこむと飛びかかってきた魔物に向けて剣を振った。斬られると同時に魔物は爆発して跡形もなくなる。そのままバーンズは剣士の背後を守る位置に立った。剣士は構えをとかずにわずかに振り返る。


「あなたは?」

「今は自分の身を守ることに集中するんだ」


 二人は背中合わせで立ち、それぞれ武器を構える。その体勢で飛びかかってくる魔物を切り払い、順調にその数を減らしていく。


 だが、突然剣士の前に影が現れ、その盾を体ごと弾き飛ばした。自分の横を転がる剣士にバーンズが振り返ると、そこには人間の形をした黒いものがいた。


「魔物か」


 バーンズはつぶやくと、剣のスロットを動かしてカードを入れ替え、その黒い魔物と対峙した。両者は数秒動かなかったが、まずは魔物が動いた。


 その動きは俊敏であっという間に間合いを詰めてきたが、バーンズはわずかな動作でそれをかわして、すぐに体勢を整える。魔物はまた間髪いれずに襲いかかるが、バーンズはそれに前蹴りをくらわして隙を作ると、剣を振り上げてそれに向かって踏み込む。


「メテオスマッシャー!」


 剣が凄まじい勢いで振り下ろされ、地面に窪みを作りながら魔物を一瞬で叩き潰した。バーンズがゆっくりと剣を持ち上げると、そこには魔物の欠片のような原形質の物質だけが蠢いていた。それはしばらくすると蠢きながら蒸発するように消えた。


 そこにナイフを収めながらアランが近づく。


「今までも変わった魔物はいたけど、これは完璧な新種だね」

「そうですね。侮れない強さです」


 バーンズは剣からカードを抜きとり、鞘に収めてから倒れている剣士のほうに近づいて手を差し伸べると、剣士はそれをつかんで立ち上がる。それから剣士は剣を鞘に収め、盾を背負った。


「助力を感謝します」

「体は大丈夫か?」

「大丈夫です。それより、あなた達は一体? さぞや名のある方々とお見受けしましたが。いや、申し遅れましたが私の名はレンハルト、修行の旅をしています」

「私はバーンズ、旅の者だ」

「僕はアランだ、一緒に旅をしてる。仲間はもう一人いるから、せっかくだから紹介していこうか」


 そう言うとアランは背を向けて歩き出した。レンハルトは一瞬躊躇したが、バーンズが歩き出したのを見て、その後に続くことにした。


 しばらく歩くと、三人は荷馬車で待っているエリルのところに到着した。エリルはレンハルトの姿を見ると、眉だけ動かして見せ、アランに小声で話しかける。


「お客様ですか?」

「そうだよ、向こうで魔物と戦ってたんだ。修行中らしい」

「それは面白そうですね」


 エリルはそれからレンハルトのほうを向いて軽く頭を下げた。


「初めまして、私はエリルといいます。お名前を伺えますか?」

「レンハルトです。よろしくお願いします」


 それからエリルはアランとバーンズに顔を向けた。


「アラン様、バーンズ様、魔物がいなくなったのなら出発したいと思うのですが、そちらのレンハルトさんもご一緒するのですか?」


 アランとバーンズは顔を見合わせてから、バーンズがレンハルトのほうを向く。


「レンハルト殿、我々はブレイテンロック共和国との緩衝地帯に向かっているのだが、貴殿の目的地は?」

「いえ、私はあてもない旅です。しかし、もしご一緒できるのなら、是非お願いしたいのですが」


 レンハルトはそう言って三人に頭を下げた。バーンズはアランに顔を向け、エリルも同じようにした。アレンはそれにしばらく考えるような仕草をして、口を開く。


「わかったよ、そういうことなら一緒に行こう。よろしく、レンハルト」

「よろしくお願いします、皆さん」


 そういうわけで、アラン一行は四人になることになった。


「ところでレンハルト、君の荷物は?」

「この先に置いてきてます」

「それなら、まずはそれの回収からだね。エリル、出発だ」

「はい、了解しました」


 アランが荷台に乗り、エリルは御者台に登った。バーンズとレンハルトは荷馬車の隣に並び、歩き始めた。


「バーンズ殿、言いたくないのならいいですが、やはりあなた達がただの旅人とは思えません」

「確かに我々はただの旅人とは言えないが、今はまだ、ただの旅人だ。だが、アラン様はただの旅人では終わらないだろうが」

「アラン殿は、あなた達の主なのでしょうか?」

「形としてはそうだが、アラン様はそんなことは気にしていない。ところで、レンハルト殿は修行の旅ということがだが、どのくらい旅をされているのかな」

「旅に出て四年になります。昔はある国で兵士をしていたのですが、それに限界を感じたので」

「そうか。ずっと一人旅だったのか?」

「おおむねそうでした。ところで、バーンズ殿はあの、ノーデルシア王国の王の騎士と言われるバーンズ殿なのですか?」


 それを聞いてバーンズは軽く笑った。


「私も意外と有名なのだな。しかし、それならアラン様のことも知っているのではないか?」

「バーンズ殿が本物であるなら、そういうことなのですね?」

「それは言いふらすことでもない。我々と一緒に旅をするなら、あまり声高に言ってまわってもらっては困るな」

「もちろん、それはわかっています。ただ、私の修行に付き合って頂きたい」

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