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村の魔物

 それから数日後、一行はさびれた村に到着していた。とりあえずバーンズが交渉し、一軒の家を借り、そこで休んでいた。


 夕方になると、村の者が二名、食事を持って訪ねてきた。食事を置くと、年配の女のほうが口を開いた。


「旅のお方達はどうやってこの村まで?」

「最近魔物が出るという噂の道を通ってきました」


 エリルの答えに村人二人の表情が変わった。


「では、道中で魔物には?」

「少し遭遇して片付けてきましたが、それが何か?」


 女はそれを聞いて身を乗り出し、勢いよくエリルの手を握った。


「どうか、どうかこの村を魔物から救ってください!」


 エリルはそれにたいして軽い身のこなしで手を引くと、アランのほうに振り返った。


「どういたしますか?」

「いいんじゃないかな。ここらで何日か留まるのも悪くなさそうだし」


 アランはバーンズのほうに顔を向けて同意を求める。


「人々の窮状を見逃すわけにもいかないでしょうね」


 エリルはうなずいて、女のほうに向き直った。


「わかりました、お力になりましょう」


 その言葉に村人二人は三人に向かって頭を下げた。


「では、詳しいことはまた明日、ご相談に上がらせていただきます」


 村人は家から出て行き、三人は食事を始めた。やはりエリルが一番最初に食べ終わり、口を開いた。


「アラン様、何か計画はあるんですか?」

「別に、特に何も考えてないけど。まあまずはこの村のことをちゃんと知らないと駄目か」

「早速今晩見てきます」

「いや、もっとゆっくりでいいんじゃないの?」

「ここが目的地ではないんですから、そうゆっくりもしていられませんよ。今晩は私が一人でやりますから、とりあえずゆっくりしておいてください」

「で、明日は働けっていうんだろ。まあいいよ、それで」

「それでは、バーンズ様は村のほうをお願いします。私は昼間は休みますから」

「わかった。アラン様、村の守りは私が引き受けますので魔物探しはお任せします」

「じゃあ、さっさと休もう」


 それだけ言うとアランはさっさとベッドに横になった。エリルはバーンズに向かってうなずくと、静かに外に出て行った。


「ところでさ」


 しばらくしてからアランは寝転がったまま口を開く。


「エリルのあの武器はどういうものか、知ってるのかい」

「本人から聞いていないのですか?」

「聞く機会もないし、教えてもくれないんだよ」

「そうですか。私もそれほど詳しくは知らないんですが、あれを使うには魔力の精密なコントロールが必要だということです。私では連結させることもできません」

「まさかエリルくらいにしか使えないとか?」

「あそこまで使えるのは彼女くらいのものでしょうね。間違いなく天才でしょうから」

「天才ね」


 アランはつぶやいてから目を閉じた。



 翌朝、アランが目を覚ますとエリルが戻ってきていた。


「おはようございます。ずいぶんゆっくりとお休みだったようですね」

「ああ、おはよう」


 アランが起き上がってテーブルにつくと、そこには一枚のパンと手描きの地図が置かれていた。


「少々雑ですが、この村と周辺の見取り図です」

「ありがとう。結構詳細じゃないか」

「ええ、ですから早く済ませて出発しましょう」

「わかったよ。これ食べたらすぐに出るから」


 アランはパンを飲み込むと、身支度を整えてドアに手をかける。


「じゃあ、行ってくる」

「はい、アラン様。くれぐれもお気をつけて、あらゆるものに注意をしておいてください」


 エリルから昼食を受け取って外に出ると、そこにはバーンズが立っていた。


「アラン様、もうお出かけですか」

「すぐに片付けて戻ってくるよ」

「無理をせずにお早めにお帰りください」

「そうする」


 アランは軽い調子で村から出て行く方向に向かった。村の周囲は畑が広がっているが、あまり大きなサイズではなく、すぐに山に入ってしまう。だが、アランは迷うことなくそこに入っていく。ナイフを右手に持つと、枝や藪を切り払いながら進んでいった。


 そうしてしばらく進むとエリルの見取り図通りに、小さく開けた空間に出た。アランはナイフを鞘に収めてから大体その中心に腰を下ろす。それから意識を何かに集中させるように目を閉じた。


「大地の精霊よ」


 小さくつぶやくと、アランは自分の感覚が大地とつながり、大きく拡張されていくのを感じた。そのまま意識を集中し、魔物の気配を慎重に探る。


 数分後、アランは目を開けて立ち上がると、再びナイフを抜いて森の中に入っていく。そしてあるところまで来ると、おもむろに木に登り始めた。


 高い場所から下を見下ろすと、少し離れた場所に四足で動く魔物らしき影が見えた。アランはナイフを構えてタイミングをうかがう。


 そして、影が木の近くに近づくと、アランはナイフを振りかざして飛び降り、その勢いのまま魔物の背中に膝を落とすと同時に首筋にナイフを突き立てた。魔物は痙攣したあと、すぐに動かなくなった。


 アランはナイフを抜き取ると、魔物の死骸をよく観察する。バーンズが斬った魔物と似ているが微妙に違い、既存の魔物とも違った。


 そこにもう一体、似たような姿の魔物が後ろから飛びかかってきた。だが、アランは左手のガントレットでそれの頭をつかむと、強烈な雷で魔物を痺れさせ、ナイフで首を切り裂いた。


「これであと二体かな」


 アランはナイフを振って血を払うとすぐにその場を離れた。


 一方その頃、残っていたバーンズは村の中を見回っていた。村はさびれていたが、アラン一行が訪れたせいか、バーンズに近づいてくる子供もいたりで、明るい雰囲気も見えてきていた。


「旅のお方」


 村の外れまで来たとき、一人の老婆がバーンズに声をかけてきた。バーンズが立ち止まると、老婆は周囲を見回して人がいないのを確認すると、その腕をつかんで家の影に引っ張った。バーンズはされるがままにしてそれについていった。


「何かご用ですか?」

「気をつけなされ、あなた達は使い捨てられますぞ」


 それを聞いてバーンズは笑った。


「こういう小さな村にも色々あるのでしょうが、なにも心配することはありませんよ。我々、いや、あの方はそんなものは気にせずになんとかしてしまうでしょうから」


 それだけ言うとバーンズは老婆の肩に手を置いて、その場を立ち去った。それから滞在している家に戻ると、エリルが休みもせずに食事の準備をしていた。


「休まなくていいのか?」


 バーンズが聞くと、エリルは眼鏡の位置を直した。


「アラン様はすぐに魔物を片付けるでしょうから、出発前に豪華な食事でも用意しようと思いまして」

「そうか。なにやら妙な話も聞いたが、問題はないだろうな」

「ええ、アラン様はそんなに気がきく方でもありませんし、この村の者が何を考えていたとしても関係はないでしょうね」


 二人とも不穏な部分のある話の内容にしては気楽な様子で、アランを信じているようだった。

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