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新しい道

「さて、それなりに面白かったね。君達はどう思う?」


 上空に浮かんでいたファスマイドはレモスィドとフィエンダに笑顔で語りかけていた。レモスィドは楽しそうな表情で、フィエンダは特に何の感情も出していない。


「ああ、面白い。お前が人間に執着するのがわかった」

「まあ、精霊の力は興味深い」


 その二つの回答にファスマイドは満足気にうなずいた。


「それなら、君達もしばらくの間、人間を観察するといい。しばらくしたら、僕のほうから面白そうな話があるから」

「そういうことなら、楽しみにしておいてやる」

「付き合ってやろう」


 それぞれそう言うと、レモスィドとフィエンダは姿を消した。ファスマイドはそれから下のアラン達を見て笑う。


「君達のおかげで楽しみができたよ。この借りはそのうち返そう」


 そしてファスマイドも姿を消した。



 それから二十日ほど経った。アランとティリスの傷もだいぶ癒え、ミラとソラの二人と別れたアラン達一行はそろそろこの国を出発しようとしていた。


 そんな中、バーンズとトルビンはさしで向かい合っていた。


「もっとゆっくりしていっても構わないのだがな。いや、いっそずっといてもらってもいいくらいだ」


 トルビンは上機嫌な様子だった。それにたいしてバーンズは首を横に振った。


「いえ、アラン様には何かお考えがあるようなので、そういったわけにもいきません」

「そうだろうな。バーンズ殿は何か聞いていないのか?」

「アラン様はまだ何もおっしゃっていません。ですが、一度ノーデルシア王国に戻るようです」

「ほう、それで何をされるのか、楽しみだ」

「はい。アラン様のことですから、何か大きなことなのではないでしょうか」

「そうしたらバーンズ殿はまた忙しくなるな。あと数日は我が国でゆっくりしていくといい」


 二人が話している部屋から見える中庭では、エリルがロニーとレンハルトの訓練を見ていた。


「まだまだですね、前の戦いではうまくいったようですが、もっと安定させないと駄目です」

「そうか? けっこうできてると思うけどな」


 ロニーは不満そうだが、エリルは首を横に振った。


「威力が足りませんね。相手の動きを封じるなら十分ですが、それだけで終わらせられるくらいじゃありませんと」

「確かにそうですね」


 レンハルトはうなずいて盾を構えた。だが、ロニーはポールアックスを逆さまに地面について動きを止めた。


「そりゃそうだけど、少し休ませてくれよ。大体魔族は撃退したんだから、そんな焦んなくてもいいだろ」

「いつ何があるかはわかりません。それに給料分は働いて頂きたいですね」

「わかったよ」


 ロニーは渋々ポールアックスを構えた。


 そして、その三人を見下ろせる部屋では、アランがベッドで横になっていた。


「あいつら頑張ってるみたいだな。アラン、そろそろお前も起きて体を動かしたほうがいいんじゃないか?」


 ティリスがそう言うが、アランは上体を起こした程度だった。


「あいにく、ティリスみたいに僕はタフじゃないんだよ」

「もう腕だって動くんだろ、何か考えてることがあるんなら、さっさと皆に言ったらどうなんだよ」

「まあそれは国に戻ってからっていうことでいいじゃないか」

「もったいぶるなよ」

「いや、まあけっこう大したことだよ。色々忙しくなると思うけど、一緒にやってくれるかな?」

「暴れられるならつき合ってやるよ」

「決まりだ」


 アランはベッドから起き上がり、新しいナイフがついたベルトをつけた。


「じゃあ、ちょっと下のほうに行こうか」


 それから二人は中庭に下りていった。


「ドリャア!」

「ハァッ!」


 ちょうどロニーとレンハルトが衝撃波を放ち、それをぶつけたところだった。その二つは見事に混ざり合い、その場に竜巻を作り上げた。


「おお、すごいね」


 アランが顔を見せると二人は互いの得物を下ろした。


「アラン様、もう大丈夫なのですか」


 レンハルトが聞くとアランは軽く腕を回してみせた。


「この通り、まあ大丈夫だよ。まあ、まだ戦いたいって気はしないけどね。それよりバーンズは?」

「バーンズ様なら、トルビン様と何かお話があるようでしたが」

「ああ、つき合わされてるのか。まあいいや、とりあえずこれからの予定なんだけど、ひとまずノーデルシア王国に戻ろうと思ってる」

「そうですか」


 エリルは特に表情を変えずにうなずいた。


「あれ、わかってたかな」

「はい。アラン様がご自分でしゃべっていたじゃありませんか」

「そういえばそうだったっけ。まあ、それ以外にも一つあるんだ」


 アランはそれから一つの指輪を取り出し、ティリスに差し出した。


「ティリスこれを受け取ってくれないかな」


 ティリスは差し出された指輪を見て、きょとんとしている。


「これ、どういうことだ?」


 エリルは一つため息をついて、眼鏡の位置を直した。


「簡単に言いますと、伴侶になって欲しいということです。陛下が始めたのが最初ですが、それ以降はノーデルシア王国では定着していますね」

「ああ、そうなのか」


 ティリスは腕を組んで考え込むようにした。数十秒後、その首を横に振った。


「いや、わかんねえ。とりあえずちょっと待ってくれよ」


 アランは素直に指輪を引っ込める。


「わかったよ。返事は戻ってからでいいから、じっくり考えて欲しい」



 数ヵ月後、ノーデルシア王国に戻ったアランは父親のエバンスにねじこんだ結果、町の中心に近い場所に大きな兵舎のような建物を手に入れていた。


「さて、これからが僕達パイロフィストの活動開始だ」

「パイロフィスト?」


 不思議そうな顔をして聞くティリスの指には、アランが用意していた指輪がおさまっている。エリルはその反応にため息をついた。


「あなたのことですよ。アラン様は愛妻家になるおつもりです」

「愛妻って、待てよ待てって」


 ティリスは顔を赤くして手を振るが、エリルはそれを無視してアランに顔を向けた。


「ところでアラン様、対魔族、魔物の国際的な組織ということですが、これだけのメンバーではとうてい足りません。なにかあてがあるのですか?」

「まあそれなら、とりあえずはロニーとレンハルトのつてかな。それ以外にも採用試験とかをやろうと思ってる。それ以外にも後援してくれるようなのが必要だね」

「やることが多いですね。しかし、もし実現できれば画期的な組織になります」

「面白いな。定職なら、俺の知り合いは集められるかもしれない」


 ロニーの言葉に、レンハルトはうつむいている。それに気がついたバーンズがその肩を叩くと、レンハルトは顔を上げた。


「アラン様、私は一度ロベイル王国に戻り、このことを女王様にお伝えしたいと思うのですが」

「協力してくれそうかな?」

「はい。女王陛下ならば必ず」

「それなら、レンハルトにはそっちを頼もう。僕はエリル、ティリスと一緒にちょっとそれ以外の外国に行くとして、バーンズにはここで人集めと鍛えるのをやってもらいたいんだけど」

「はい、そういうことでしたらお任せください。少し王宮のほうにも協力してもらおうと思います」

「それなら、大丈夫だね。じゃあ、しばらくはパイロフィスト代表代行として頼むよ」

「はい。しっかりと兵を育てておきます」


 それから、アランの諸国行脚が始まり、パイロフィストはどんどん形になっていった。この組織は国に縛られず、魔族や魔物と戦う組織として、この世界になくてはならないものになっていく。


 そして、パイロフィストの創成期からしばらくは、その中心には必ず、この冒険を共にしたアランとその仲間達の姿があった。

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