アランとその仲間達
エリルと別れたミラとティリスは走っていた。
「臭う場所っていうのはまだなのか」
「もうすぐ、たぶん本命のはずだ」
そして、一見したところ何もない広場のような場所に到着してティリスは立ち止まった。
「ここだ」
ミラも立ち止まると、聖剣を抜いた。ティリスも構えると、二人の前方で突然炎が発生した。
「来たか」
ミラの言葉と同時に炎の中からフラウトゥーバが姿を現した。
「聖剣使いと精霊使いか。まあとりあえずはいいだろう」
そして、フラウトゥーバは二つの火の玉を作り出すと、それを自分の目の前に投げた。それは燃え上がると、人形になるとフラウトゥーバと瓜二つの姿になった。
「お前たちの相手は我が分身にさせてやろう」
フラウトゥーバはそれから大きく飛び退いた。残った二体の分身はミラとティリスに向かって火の玉を放った。
だが、その二発はミラの剣で斬られて消滅した。
「あんたは本体を追うんだ。でも、無理はするなよ」
「わかった!」
ミラの実力をその身で体験しているティリスは迷いなく跳躍して分身を飛び越えると、フラウトゥーバの本体の後を追った。
その頃、バーンズとロニー、レンハルトの三人はアランが戦っていることは知らずに、音をたどってその方向に向かっていた。
「さっきのあの音はなんだったんだろうな」
「おそらく、アラン様だろう。あの音からすると、本気を出して戦っているのかもしれない」
「アラン様が本気とは、それはそれで恐ろしそうですね」
レンハルトが言うと、バーンズはうなずいた。
「後片付けが大変なことになるだろう。しかし、アラン様が本気を出したと言うことはよほどのことだな、我々も急いで合流しよう」
三人は足を速めたが、その前方に立ちはだかる者が現れた。
「貴様は、エリオンダーラ」
バーンズは立ち止まると剣を抜いた。ロニーとレンハルトもすぐに構える。
「お前達にはここでおとなしくしていてもらおう」
エリオンダーラは落ち着いた声でそう言ったが、ロニーはポールアックスを一振りして、にやりと笑った。
「あいにく俺達はお前の言うことを聞く義理はないんだぜ」
「ほう、どうする?」
「力づくで通らせてもらうぜ」
それから、ロニーはレンハルトと目配せをして左右に散開した。そして、バーンズは剣のスロットにカードを挿入した。
そしてアランが魔物と戦っている近くに到着していたソラの目の前には無数の黒い影が出現していた。
「こいつらが足止めだとすれば、狙いはアラン様で間違いないか」
ソラが杖を構えると、風の刃が飛んで黒い影を切り裂いた。それで半数は片付けたが、残った影がソラに迫ってくる。
「火の精霊よ!」
ソラの目の前で炎が渦を巻き、飛びかかってきた残りの影を飲み込んだ。
「急がないと」
ソラはすぐに走り出す。しばらく走ると、魔物の中で暴れまわるアランの姿が見えてきた。
「アラン様!」
ソラが呼びかけると、アランは一瞬だけソラのほうに振り返った。そして、地面を蹴ると一気に加速してソラの横まで移動してきた。
ソラは杖を構えると魔物達に意識を集中させた。
「火と風の精霊よ!」
まずソラの前に炎が発生し、それが風に乗って魔物達に向かって勢いよく広がっていく。魔物達がそれを避ける前に、炎の渦はそこに到達して、それらを飲み込んでいった。
アランはその光景を見てから、ナイフを鞘に収めた。
「ソラさんが来てくれて助かったよ。多少は力を温存しておきたかったし」
「温存ですか」
ソラがアランが戦っていた場所を見渡す。そこは、森だったはずだが、今はかなりの木が薙ぎ倒されていて、かなり見通しがよくなっていた。普通の人間が一人で戦った状況とはとても思えない。
「とりあえず、魔物は片付いたようですから、少し休んではどうですか? これで終わりとも思えませんから」
「そうだね。ソラさんがいてくれるなら安心だし」
アランはそう言ってその場に腰を下ろした。
「ほう、さすがにあの程度の魔物では物足りなかったようだな」
だが、上空にフラウトゥーバが現れ、アランはすぐに立ち上がることになった。
「この魔物達は君の仕業かな。一体何が目的なのか、教えてもらいたいね」
「目的なら、邪魔なお前たちを排除するためだ。特にアランと言ったか、貴様は悪魔が狙っていたほどの人間だ。我々の眷属にならないのならば、絶対に排除しておくべきだろう」
「ものわかりがよくて助かるよ。僕としてもどうせならここで決着をつけてつけておきたいと思ってたところなんだ」
「ふん、なら始めよう、一対一でな」
フラウトゥーバが腕を動かすと、ソラの足元が光った。
「これは!?」
ソラは行動を起こそうとしたが、その姿は足元の光りに吸い込まれていってしまった。フラウトゥーバはそれを満足気に見ている。
「悪魔の力は便利なものだな。遠くでなければ自由に転移のための空間を開ける」
「それなら、勝負はさっさとつけたほうがいいよ。ソラさんも、他の皆もすぐに集まるだろうから」
「それはどうかな」
アランは二本のナイフを抜いた。そこにフラウトゥーバが火の玉を放つ。だが、アランは大きく跳躍し、空中にいるフラウトゥーバの目の前まで到達した。そして、右手のナイフをそれに向かって振り下ろす。
その一撃は空振りになり、アランはそのまま勢いよく着地した。間髪入れずにフラウトゥーバはそれを追って急降下していく。
「死んでみせろ!」
その手に生じた火の玉がアランに向かって叩きつけられようとする。アランはそれに合わせて左手のナイフを投げた。火の玉とナイフが激突して、派手な爆発を巻き起こす。
「大地の精霊よ」
アランの声に応じて、地面が鋭く隆起するが、フラウトゥーバはそれを足の一撃で砕く。そして、そのままさらに体を縦に回転させてアランに踵を落としていった。
アランはそれをもう左手のナイフで受けると見せかけ、ぎりぎりでナイフを放した。そして踵をかわしながら左手を伸ばし、フラウトゥーバに突きつけた。
アランの手が素早く動き、ガントレットから爆発が放たれた。フラウトゥーバはそれをものともせずに次の攻撃に移ろうとするが、そこにアランは右手を伸ばし、両手を合わせる。
「バースト!」
その両手からの爆発がフラウトゥーバを確実に捉えた。だが、炎の槍のようなものがその中から伸びアランに迫る。
「クッ!」
アランは何とかかわしたが、左の肩が焼かれた。それでもアランは体勢を崩さずに地面を蹴って横に高速で跳ぶ。
魔法で加速された勢いのままアランは地面を転がってから、なんとか膝をついて体を起こした。次の瞬間、人間を余裕で飲み込める巨大な火の玉が高速で迫ってきているのが見えた。
アランはそれに対応しようとするが、左肩の痛みで動きが止まってしまう。
「そうは! いくかよ!」
だが、そこにティリスが飛び込んできて火の玉に拳を叩きつけると、その一撃で火の玉は砕け散った。
「苦戦してるみたいじゃねえか。まあ他の奴等も戦ってるし、ここはあたしに任せな」
ティリスは力強く宣言し、拳をフラウトゥーバに向かって突き出した。