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静かな出発

 それから三日後、早朝にアラン、バーンズ、エリルの三人はそれぞれ旅装になって城の裏門に集まっていた。そこには荷物が満載された荷馬車が一台と、ヨウコとシェーラが来ていた。


「私からみんなに渡すものがあるの」


 ヨウコはそう言うと三人にそれぞれ何かを手渡した。アランがそれを見てみると、それは狼の顔のような形をしていたアミュレットだった。


「ありがとう、母さん」


 まずアランがそれを受け取り、首からそれをさげる。バーンズとエリルも同じようにした。続いてシェーラがまずアランに歩み寄ってその手をとった。


「兄様、道中のご無事を祈っています」

「もちろん大丈夫」


 それからシェーラはバーンズとエリルにも一言ずつ声をかけた。その間にアランは二人の旅装を確認する。


 バーンズは普段身につけている重厚な鎧ではなく、基本的に皮で、急所は金属のプレートで覆われている。そして背中に剣を背負い、長いマントを身にまとっている。


 エリルは髪を思いっきり短くし、全身皮の装備で身を固め、その腰のベルトには短剣くらいのサイズの棒のようなものが四本装備されている。あれが新しい武器かとアランには予想がついたが、どう使うのかはわからなかった。


 そうしているうちにシェーラはヨウコの隣に戻り、エリルが御者台に座る。バーンズも荷台に乗りアランに手を差し出した。アランはその手をつかんで荷台に乗り込むとヨウコとシェーラに軽く手を振った。


「じゃあ、行ってくる」


 馬車は城門を通過した。見送りの二人は馬車の姿が見えなくなるまで見送り、それから城内に戻っていった。



 しばらくして、馬車は町を出て街道を進んでいた。


「それにしても、一国の王子の旅立ちにしては静かに出発できましたね」


 エリルは前を見ながらそう言った。


「父さんがうまくやったからね。僕にはとても真似できない」

「シェーラ様も協力されていたようですが」

「あいつはできる子だからな」

「少しは見習っていれば、こうして旅に出ることもなかったかもしれませんね」

「僕にはこのほうが性に合ってるし、父さんも母さんもそれがわかってるんだよ。感謝してるさ」

「そういうことなら、親孝行をしないといけませんね」


 アランはただうなずくだけで、特に返事はしない。少しの間全員が黙っていたが、おもむろにバーンズが口を開く。


「ところでアラン様、目的地はどこにするんですか」

「とりあえず新種の魔物が出るっていうところでも目指そうと思うんだけど、具体的にはどこがいいかな」

「北のブレイテンロック共和国との緩衝地帯に向かうのがいいかもしれません。未確認ですが魔物の噂が一番多い地域ですから」

「それなら何度か行ったこともあるし、ちょうどいいか」


 その会話を聞いていたエリルは大きくため息をついた。


「てきとうな決め方ですね。まあ、とりあえずそうしてみましょう」


 それから一週間。一行は小さな町に到着していた。アランは宿の部屋に入ると、すぐにベッドの上に体を投げ出した。エリルは荷物を置きながらその様子を冷ややかに見る。


「まだ先は長いんですから、今からその調子では大変ですよ。ずっと野宿が続くことだってあるんですから」


 アランは軽く息を吐いてうつぶせになる。


「そんなこと言っても、こういう旅は初めてなんだからしょうがないじゃないか」

「私もこれほど楽な旅は初めてです。バーンズ様が情報収集をしている間に、私達はここから先の計画を考えないと駄目ですよ」

「帰ってくるまで待ったほうがいいじゃないか」

「のんびりするならそれもいいですが、そういう旅ではありませんからね」


 エリルにそう言われると、アランは渋々と体を起こした。


「わかったよ」


 エリルはその姿を確認して、荷物から地図を取り出してテーブルの上に広げる。アランはベッドから椅子に移動してそれを覗き込んだ。


「この町はここです。まだ目的地までは遠いですね」


 アランはエリルの指差した場所を見てため息をつく。


「まだまだ遠いじゃないか」

「それはそうです、少しペースが遅いですからね。もう少し早くしたいところですが」

「いや、のんびりする旅でもないけど、今は特に急ぐ用もないじゃないか。今のペースでいいと思うけど」

「それはどうでしょう。私達が旅をしている間にも、世の中は動いているんですよ」

「じゃあ、その動きをバーンズが調べてくるまで待とう」


 アランは再びベッドに戻ってしまった。エリルはそれを起こすのをあきらめて、地図を見ながら旅程を考えることにした。


 時間は経ち、夕食時になるとバーンズが帰ってきた。さすがにアランはもう起きていて、自分のナイフの手入れをしているところだった。エリルは立ち上がってバーンズを迎える。


「バーンズ様、情報はどうでしたか?」

「あまりいい状況ではなさそうだ。緩衝地帯では最近は魔物が増えているようで、往来にも支障がでているらしい」

「ということだそうですよ、アラン様」

「つまり、急いだほうがいいってこと?」


 バーンズとエリルはアランを見て、無言でうなずく。アランは首を横に振ってナイフを鞘に収めると、立ち上がって腰をのばした。


「とりあえず夕食にしようか」

「それなら私が下からもらってきます」


 エリルは部屋を出て行き、バーンズはマントと背負っていた剣を外した。


「アラン様、旅程は決まりましたか」

「エリルが考えてたよ。そのことは食べてから相談しよう」

「わかりました。旅の疲れもあるでしょうから、休めるときに休んでおくのがいいでしょうね」

「さすが話がわかる」


 と言ってる間にエリルがパンと茹でたソーセージや野菜の類をお盆に乗せて持って戻ってきた。それが手際よく机に並べられ、三人はとりあえず食事を始めた。


 一番早く食べ終わったエリルは自分のスペースを片付けて早速地図を広げた。アランとバーンズも一時食事を中断して地図に注目した。


「これからの旅程ですが、バーンズ様のお話からすると急いだほうがよさそうなので、多少険しくとも時間を短縮できる道にすることにしました。町や村も少ないので食料はこの町で余分に調達したほうがいいでしょうね」

「つまり、こうやってまともなところで休めないってこと?」

「まったくないということではありませんよ。それに、この道のほうが日数はだいぶ短くなります」


 エリルの言葉にバーンズはうなずき、アランに顔を向けた。


「エリルの言う通りです。ただ、一つ問題があるとすれば、その道は魔物の姿を見たという噂があるということですね」


 アランはそれを聞くと、腕を組んで少しの間考え込むようにうつむいた。しばらくして顔を上げるとその顔にはあきらめの表情が浮かんでいた。


「道が険しいのは嫌だけど、魔物の噂っていうのは気になるし、早く目的地に着けるならその道で行こう」

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