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私人だけど公務とか色々

 一方その頃、アランはトルビン邸の一室でエリルにスケジュールの説明を受けていた。


「本日はこれから面会の申し込みが三件」

「ちょっと待った。改めて聞くんだけど、なんで僕がこんなに忙しいのかな」

「私も改めて言いますが、アラン様とつながりを持ちたいと思う人は多いのですよ。それに、講演や治療なんていうものも引き受けるからです」

「僕は一般人なんだからお偉いさんと会わなくてもいいと思うんだけどな。講演と治療はまあ、この街の人達には迷惑かけるだろうから、その埋め合わせみたいなものだけどさ」

「残念ながら、アラン様のことを一般人と思う人はいません。それはおわかりになっていると思いましたが」

「ああ、それはわかってるよ。でもなあ、ティリスはずっとミラさんやソラさんと修行してるし、正直羨ましいよ」

「ティリスさんはまだまだ未熟ですから、戦力になってもらうためには必要なことですよ。それにミラ様やソラ様になら、アラン様はさんざん稽古をつけられたと思いますが」

「まあそうだけどね。ロニーもレンハルトを引っ張りだしてなんかやってるし、ちょっとね」

「気導術の応用を考えているようですが、うまくいきますかどうか。それはさておき、バーンズ様はもっと忙しくされているんですから、アラン様もしっかりしてください」

「バーンズも少しは歳相応になればいいのにな」

「そうでないおかげでアラン様の仕事が減っているんですから、大変素晴らしいことだと思いますが」

「そうだね、わかったよ。じゃあ手配のほうは頼むから」

「はい。すぐに取りかかります」

「僕は少し散歩してくるよ」


 アランは部屋を出ると、広大な庭に向かった。そこではロニーとレンハルトがなにやら身振り手振りを交えて真剣に話をしていた。


「ずいぶん熱心だね」


 声をかけられたロニーは手を止めて顔を上げた。


「よおアラン。色々忙しいんじゃないのか?」

「まあそうだけど、今はちょっと休憩だよ。それより、気導術のほうはどうなのかな」

「それは中々難しくてな。まあ廃れた理由はわかる気がする」

「しかし、ロニーさんは筋がいいですよ。私よりはるかに飲み込みが早い」


 レンハルトの言葉にアランは感心したようにうなずいた。


「それは楽しみだね。じゃあ、しばらく見学させてもらおうかな」


 アランは手近な岩に腰かけた。そして、ロニーは近くに置いていたポールアックスを手に取ると、それを構えた。レンハルトはその横にまわって腕を組む。


「では、またそのポールアックスに意識を集中して下さい。ゆっくり、静かに」

「ゆっくり、ゆっくりだよな」


 ロニーはゆっくりと腰を落としていった。そして数秒、その姿勢を維持してから、一気に力を入れた。


「おらぁ!」


 ポールアックスが振るわれ、その衝撃が周囲の空気を動かした。だが、ロニーは軽く舌打ちをした。


「これじゃまだまだだな」

「いや、かなりよくなってます。これならあと少しで完成でしょう」


 ロニーはまだ物足りない様子だが、レンハルトはいい評価を与えているようだった。


「僕にも今のは悪くないように見えたね。かなりの威力があったじゃないか」


 アランも悪い顔はしなかったが、ロニーは納得いってないようだった。


「でもな、これじゃレンハルトみたいな威力は出せてないし、あの魔物やら何やらには通用しないと思うぜ」


 ロニーはポールアックスをもてあそびながらつぶやくように言った。アランはそれにうなずく。


「それは確かにそうかもね。でも君の武器なら、レンハルトとはまた違ったことができるだろうし、今の段階でもそれなりに効果はあるんじゃないかな」

「いや、レンハルトのは盾から強烈な衝撃波だけど、俺はもっとシャープに使いたいんだ。今のままじゃまだ鋭さが全然足りないんだよ」

「なるほどね。まあ頑張ってよ」

「ああ、お前のほうも色々頑張れよ」

「そうだね、頑張るよ」

「お気をつけて」


 レンハルトとロニーに見送られ、アランは再び歩き出した。入口付近まで来ると、ちょうど帰ってきたティリスが歩いているのが見えたので、アランは手を振ってみた。


「おーい」


 さらに声をかけると、ティリスはアランに気がついて足を止めた。


「今日は早いね」

「ああ、そろそろ悪魔が来るかもしれないからってさ。でも、二人ともアンネットと一緒にどこかに行っちまったよ」

「アンネットと? そうか、多分僕が忙しいからそっちで手をうっておこうってわけだろうね。それなら僕達にも余裕ができそうだ」

「なあ、それより早く切り上げられて物足りないんだ。暇ならちょっとつきあってくれ」

「まあ、少しだけなら時間はあるけど。あいにく僕もこれからまた忙しいね」

「それでいい。やっとコツがつかめてきたから、見て欲しいんだ」

「それじゃ、あっちでロニーとレンハルトが色々やってるから、そこを借りようか」


 それから二人はロニー達のところに戻った。二人はアランとティリスの姿を認めると手を止めた。


「二人とも、ちょっといいかな。ティリスが力の使い方のコツを覚えたらしいから、見ていて欲しいんだけど」

「わかりました」


 レンハルトはうなずいて下がり、ロニーも同じようにした。そして、ティリスとアランは距離をとって向かい合う。


 だが、ティリスは手ぶらのアランを見て顔をしかめた。


「ナイフを抜けよ」

「いいや、精霊の力をしっかり使えるようになったのなら、僕も精霊の力だけを使って見させてもらうよ。気を抜かないで全力でこないと、怪我をするかもね」

「わかった、それなら遠慮なしでいくぜ」


 ティリスが腰を落とすと同時に、後ろに下げた右足から炎がほとばしった。そして、次の瞬間にはティリスはアランの目の前まで到達していた。


「オオオラアアアア!」


 そして拳がアランに襲いかかる。しかし、その前に土の壁が出現しティリスの拳はそれを打ち砕いた。


「なに!?」


 だが、その壁の向こうにアランの姿はない。


「こっちだよ」


 上からの声にティリスが反応すると、アランが上空を舞っていた。二人はその勢いのまま互いの位置を入れ替えて、着地する。


 ティリスはそこで踏ん張って反転し、右の拳を突き上げた。


「いくぜ!」


 突き上げた拳が炎をまとい、それが地面に叩きつけられた。そこから地割れと同時に炎がアランに向かって走る。


 しかし、アランが両手を地面につくと同時に、その地割れから水が噴出して炎を消した。その水は地割れから飛び出してティリスの体を倒した。


「さて、こんなものかな」


 アランは立ち上がって手を軽く叩いた。ティリスもずぶ濡れになりながら立ち上がり、悔しそうに腕を振った。


「クソッ! まだお前は本気じゃないんだよな」

「いや、今のはけっこう危なかったよ。攻撃がくるのがわかってなかったら防げなかったかな。まあ不意をつくよりも、もっと威力そのものを高めるべきかもね」

「威力か。そうだよな、もっと威力が必要だ」

「アラン様」


 そこにエリルが姿を現した。


「そろそろ出発の時間です。運動もできたようですし、出発いたしましょう」

「ああ、わかったよ。じゃあティリス、僕は出かけるけど大丈夫かい?」

「必要なことはわかってるから、やってみるだけだ。見てろよ、お前たちみんな驚かせてやるからよ」

「楽しみにしてるよ。でもその前に着替えたほうがいいよ」


 そう言うと、アランはエリルと一緒にその場を離れた。

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