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修行の身

 オメガデーモンの襲撃から二週間。何事も起こらなかったが、アラン一行はその存在を公表されてから、宿からトルビンの屋敷に居所を移していた。ミラの弟であるソラも、ファスマイドの転移能力で連れてこられて一行に合流している。


 だが、ティリスだけはミラとソラの兄弟に鍛えられるために、ずっと街の外に出ていた。


「うわ!」


 ティリスの体が吹き飛ばされた。だが、それをやったミラは息も乱さずに済ました様子で立っている。


「どうした、まだまだ力の集中ができていないぞ」


 ミラは厳しい声を出した。


「そうだね。もっと君の中にある精霊の力を生かさないといけない」


 それに続けて、ミラの弟、ローブを着て杖を持ったソラも穏やかに言った。


「でも、そんなこと言ってもよ。いまいちよくわからないんだ」

「何度も言ったけど、自分の中の精霊の力を感じ取るんだ。君はまだ精霊の力を感じ取れていないようだけど、それでもそれだけの力が使えるんだから、しっかり意識できればもっと大きな力が使えるはずだよ。練習を思い出すんだ」

「意識か、意識意識」


 ソラの言葉に従い、ティリスはぶつぶつ言いながら目を閉じたりしていたが、特に変化はない。ミラはそれを黙って見ていたが、ソラはそこに歩み寄っていく。


「見ててごらん」


 そして手を軽く動かすとその軌道に炎が現れ、消えずに残ったままになった。


「僕の力は君と違ってこうやって外界に働きかけるものだけど、基本は変わらない。集中できれば、瞬間的でなく、こうやって安定して力を使うことができる。そして」


 ソラは今度は指をまわした。炎はそれに従うように勢いよく空に登っていき、派手に爆発をした。


「こうやって瞬間的に力を発揮させることもできる。君がやるのはこれなんだ」

「そんなこと言っても、あたしにあんたみたいな芸当はできないぜ」

「いいや、君は精霊の力がほぼ身体能力の強化だけに現れるというかなり特殊な事例だ。だから、こうすることは難しいわけだけど、それを体の中にイメージするんだよ。さっき姉さんも言ったけど大事なのは力をしっかり集中させることなんだ」

「体の中に集中か。じゃあ、この右腕に!」


 ティリスは右の拳を握り締め、それを突き上げた。すると、その握られた拳から炎がほとばしった。それを見たミラは聖剣を抜く。


「さあ、それでかかってくるんだ」

「よっしゃ!」


 ミラは気合を入れると、右の拳で地面を殴りつけた。そこから地割れが発生し、炎がミラに向かって走っていく。


 ミラがそれに向かって輝く聖剣を振るうと炎はその圧力にかき消された。


「やっと私に剣を抜かせたな、その調子だ。次は足に力を集中させてみるんだ」

「足、足だな」


 ティリスはそうつぶやき、今度は足を踏みしめる。一瞬そこから炎がほとばしったかと思うと、ティリスの体は弾かれたように飛び出した。


 だが、あまりの勢いにティリスは方向を定められずに、ミラの立っている位置からはずれた方向にそれていってしまった。そのまま着地失敗して地面を勢いよく転がるが、それでもティリスはしっかりと立ち上がった。


「できるじゃないか」


 ミラは笑顔を向けた。だが、ティリスは歯を食いしばってもう一度構えた。それを見たミラは笑顔を消し、聖剣を構えた。


「その調子だ。さあ来い!」

「おう!」


 再びティリスの足元から炎がほとばしり、今度は一瞬の溜めの後、飛び出した。今度は一直線にミラに向かって突進し、右の拳を叩き込んだ。ミラは聖剣を握っていない左手でそれを受けたが、その体は一気に後ろに後退させられた。


 そして、それが止まってから、二人はその体勢のまま、互いに笑った。


「だいぶこつをつかめたぜ、これならいけそうだ」

「そうだ、こんなものじゃ、まだまだ。でも、やっと成果が出てきたじゃないか」


 そしてミラはつかんでいたティリスの拳を離し、聖剣を鞘に収めた。


「今日はこれくらいにしておこう。いいかげん、悪魔がまた動き出してもおかしくない」


 そう言って、ミラは街に戻り始めた。ティリスはそれを見送って立ち止まっていたが、その肩が後ろから叩かれる。


「さあ、戻るよ。姉さんの言う通りだから、力は温存しておいたほうがいい」

「そうだよな」

「そう、それに精霊の力のコントロールの練習ならいつでもできるんだ。君はそれさえできれば、もっと強くなれるよ」

「ああ、それにしてもあんたはすごいな」

「いいや、僕よりもアラン様のほうがすごいよ。アラン様の力は僕よりもずっと強い。もっとも、その力が使われたことはないんだけどね」

「そうなのか。それは見てみたいもんだぜ」

「できればそんなことになって欲しくはないものだけどね」



 トルビンの屋敷に戻った三人を迎えたのはアンネットだった。


「アンネットか、一体どうしたんだ?」

「ミラ様、ソラ様、重要なお話があります」

「わかった、すぐに行こう。ティリス、あんたは戻ってるんだ」

「ああ、わかった」


 ティリスは多少戸惑った様子を見せたが、すぐに屋敷の中に入っていった。ミラとソラはアンネットの先導で用意されていた馬車に乗り込んでいった。


 馬車の中でアンネットと向かい合ったミラはすぐに口を開く。


「それで、なんで私達だけに用があるんだ」

「はい。お二人にはアラン様達とは別に行動していただいたほうがよいというのが、マグダレン様のお考えです」

「執政のお考えはわかりました。しかし、狙われているのがアラン様ならば一緒に行動していたほうがいいと思いますが」


 ソラがそう言うと、アンネットは首を横に振った。


「直接的にアラン様を狙うのではなく、周囲から攻めてくる可能性もあります。そうなった場合被害が周囲に及び可能性もありますので、お二人にはそれに対応していただきたいのです」

「つまり私達は遊撃隊か。でも二人だけじゃな」

「そういうことでしたら、もちろんバックアップいたします。それに勇者の弟子たるお二人なら、たいていてのことには対応できると思いますが」

「それならある程度はできる。でも、悪魔相手だと、簡単にはいかないな」

「しかし、例えばアラン様達やあるいはミラ様達が合流するまで、足止めをすることはできると思えますが」

「それなら大丈夫じゃないか? まあファスマイドの奴が手を貸せばいいんだろうけど、どうせ何もしないだろうし」

「では、私の案を実行していただけるということでよろしいのでしょうか」


 ミラはうなずき、ソラのほうを見た。


「僕もそれでいいと思いますよ。一緒に行動するのもリスクがあるでしょうし、あえて分散して行動するのもいいですね。それに、身分を明かしたので、現実にアラン様達の行動は制限されていますから、そのぶんは僕達がやらないといけないでしょうからね」


 アンネットはソラの言葉に深々とうなずいた。


「おっしゃる通りです。では、詳しいことはマグダレン様のもとでご相談ということでよろしいでしょうか」

「じゃあ、それまでゆっくりさせてもらうとしようか」


 ミラはくつろいだ姿勢になり、馬車はゆっくりと進んでいった。

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