今後の相談
宿に戻った三人を迎えたのは残っていた一行の全員だった。その中のバーンズはミラの姿を見て多少驚いた表情を浮かべた。
「ミラ、久しぶりだな。だが、なぜここに」
「それは色々あって、それより、バーンズさんもお久しぶりです。それからエリルも」
「はい、ミラ様」
エリルは頭を下げた。そして、後ろにいるレンハルトとロニーに視線を向ける。
「こちらはレンハルトさんにロニーさんです。旅の仲間ですね」
「そうか、私はミラだ、よろしくな」
「レンハルトです、よろしくお願いします」
「俺はロニーだ、よろしく」
ミラは二人にうなずいてみせてから、アランに顔を向ける。
「アラン様、どこか落ち着いて話せる場所はありますか?」
「それなら、ここの食堂でも借り切ろうか。時間も遅いし大丈夫だと思うよ」
それからアラン達は食堂を借り切り集まっていた。そこにはなぜかアンネットも同席している。とりあえずエリルは椅子に座らずに立ったままで口を開いた。
「今夜は色々ありすぎましたので、とりあえず私が仕切らせていただきます。まずはレンハルトさん、あなたの正体から、教えていただけますか?」
「わかりました。私が修行中の身であるのは嘘ではありません。しかし、私はある方の命を受けて旅をしているのです」
「それは、かなり有力な方とお見受けしますが」
「はい、ロベイル王国の女王、キアン様です。そして私に下された命令は勇者の捜索」
それを聞いて、バーンズとミラはため息をついた。エリルは特に表情を変えない。
「つまり、あなたはロベイル王国に仕えているわけですね」
「そうです。しかし、私は勇者の捜索という目的以外は全て自由に行動することを許されています。それに、時間の制限もありません」
「それはまた、寛大と言いますか、思い切ったことですね。さて、それではあの魔物を空中に弾き飛ばしたのは、どういった術なのでしょうか?」
「あれは気導術というもので、私が旅の途中で学んだものです。魔法とは違う力ですが、それほど便利なものではなく、ああいった使い方くらいしかできません」
「なるほど。では、レンハルトさんに関してはこのくらいにして、今夜の襲撃についての話を始めましょう」
エリルがそこまで言うと、ドアが開かれ、レモスィドが入ってきた。
「その話なら、俺も加わってやろう」
それにアランがうなずくと、レモスィドはてきとうな椅子に腰かけた。エリルはやはり表情を変えずに、続けて口を開く。
「まずは今夜の襲撃について整理します。アラン様とティリスさんが例の魔物に遭遇したのが最初で、次に蜘蛛のような魔物がロニーさんの前に現れました。私が相手をすることにしましたが、数が多い上に、一つにまとまって巨大化したりなどで厄介なものでした。ですが、それはレンハルトさんの協力で撃退することができました」
エリルはそこで言葉を切った。そして、今度はアランが口を開く。
「その続きは僕が話したほうがいいだろうね。まあその魔物をエリル達が片付けてる間に、僕はオメガデーモンと遭遇していたんだ。まあ強かったんだけど、ミラさんが来てくれたおかげで撃退できた。で、その後はそこのレモスィドがミラさんと立ち合っていたんだけど、そこにまたオメガデーモンが出てきたわけだね」
「それは俺が追い詰めたんだがな、逃げられた」
口を挟んだレモスィドにアランはうなずいた。
「まあ、深追いしなくてよかったと思うよ。あいつはまだ何か隠しているものがあると思うし。というわけで、これで今夜のことは全部かな」
「ありがとうございます、アラン様。では、これからのことですが、アンネット様、まずご意見を伺いたいのですが」
話を振られたアンネットは座ったまま目を閉じ、しばらくしてから静かに声を出した。
「そうですね。今回オメガデーモンを撃退したとは言っても、そのダメージを回復させたならまた行動を起こすのは確実だと考えられます。今回の件を見る限り、それなりの攻撃を仕掛けてくるだけの力はあるようなので、しばらくは油断ができないと思われます。ですから、こちらとしましても、手段を選ばず、対策を立てなくてはなりません」
そう言ったアンネットの目はレモスィドに注がれている。レモスィドはそれにニヤリと笑った。
「俺の力が欲しいか?」
「もちろん、お願いします」
「それは、俺が何者か知っていて聞いているのか?」
「はい。だからこそお願いします」
アンネットの言葉にレモスィドは笑い、そこにかけられた言葉にさらに笑った。
「いいだろう、それなら協力してやる。俺も悪魔は嫌いだからな」
それからレモスィドは自分の魔剣を外し、目の高さまで持ち上げた。
「また会ったら、今度こそこの魔剣の力を存分に味あわせてやろう」
「それは心強いことですね」
エリルが皮肉っぽく言うが、レモスィドは特に意に介する様子はなく、アランに視線を固定して口を開いた。
「で、アンネットとか言ったか。お前はあの悪魔の目的はこのアランだと思っているのか?」
「そう考えてはいましたが、今夜の件で間違いはないと確信できました。できれば我が国からも護衛をつけて差し上げたいのですが、残念ながら今ここにいる方々よりも腕の立つ人材もいませんので、周辺のサポートをすることしかできません」
「それで十分助かります」
エリルはそう言ってアンネットに軽く頭を下げた。
「しかしアンネット殿、今夜は街に被害を出さずに対応できましたが、これからもそうできるとは限りません」
バーンズの言葉に、アンネットは首を横に振った。
「マグダレン様はそのことに関しては覚悟の上です。悪魔の矛先がいつどこに向くかはわかりませんし、それならば狙いのはっきりしている今こそ、その問題を解決すべきだと思います」
「なるほど、そういうことであれば、私達も全力で戦いましょう」
バーンズは力強く言い切った。アランやエリルもうなずく。そして、ティリスは勢いよく立ち上った。
「よし! 次は逃がさないぜ!」
「いいや、あんたのことは少し預からせてもらう」
気合の入っているティリスに、ミラが静かに言った。
「預かるって、どういうことだよ」
「そのままの意味だ。あんたは素質はあるようだけど、力の使い方がまるでなってない。だから、しばらく鍛えてやろうっていう話だよ」
「それはいい話だね。ティリス、是非お願いすべきだよ」
「確かに、すごく強かったな。わかった、よろしく頼む!」
ティリスはアランの言葉に同意して力強く宣言した。ミラは笑顔でうなずく。
「それなら、明日から早速始めよう。時間もないことだし、厳しくいくから、覚悟しておくように」
そこで話は打ち切りといった雰囲気になった。