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物好きな逸脱者

「さて、どうする? 僕の張った結界でここからは逃げられない。不完全な状態じゃ、いくら悪名高いオメガデーモンといえど、この面子の前ではいささか不利じゃないかな」


 ファスマイドは実に楽しそうな様子で語る。しかしそれだけで、これ以上手を出すような様子はない。


 一方、剣を収めたミラとレモスィドは距離をとって並んで立ち、油断なくオメガデーモンを見つめている。アランも同じようにしていたが、ティリスだけはいまにも飛びかかりそうな顔をしている。


 オメガデーモンはその四人から目を放さずに地面に降りた。そして、自分の右の半身である黒い何かを左手でつかむと、そこから魔力の波動が広がり、黒い何かはまるで生身の体のように変化していった。それは左半身と奇妙なまでに左右対称に出来上がっている。


「この体でも貴様らを相手にするくらいは簡単だ」

「見せてもらおうじゃねえか!」


 ティリスが叫びながら飛び出し、オメガデーモンに殴りかかった。


「甘いな」


 しかし、その拳はオメガデーモンの片手で止められてしまう。もちろん、オメガデーモンの体は後退はしているが、それでも姿勢は崩れていない。オメガデーモンはその拳をつかむと、ティリスを振り回して放り投げた。


 放り投げられたティリスは空中で体勢を立て直してなんとか着地してみせる。ティリスはもう一度飛びかかろうとするが、いきなり目の前の地面が隆起してそれは阻まれた。


「何をするんだよ!」


 ティリスはアランに向かって叫んだ。地面に手をついていたアランは首を横に振る。


「ティリス、今の君じゃ無理だよ。ここは」

「俺に任せてもらおうか」


 レモスィドが魔剣を構えて一歩踏み出した。オメガデーモンはそれを見て鼻で笑う。


「下等な魔族が。おとなしく我らの器になっていればいいものを」

「そんなことは知らんなあ。俺は悪魔とかいう連中は嫌いなんだ」


 そして、レモスィドはその場の全員を見回した。


「お前達、手を出すなよ」


 ミラは黙って後ろに下がり、アランはティリスに駆け寄ると、その肩に手を置いて押さえる。フィエンダは無表情でいるだけ、ファスマイドは楽しそうな表情を浮かべているだけだった。


「魔剣ティンガーよ! 真の姿を現せ!」


 竜の口が開くと鞘が弾け飛び、黒い炎の刃が姿を現した。レモスィドはその魔剣を無造作にぶら下げてオメガデーモンに近づいていく。


 そして、あと数歩のところまで近づいた時、魔剣をオメガデーモンに突きつけた。


「もう一度言っておくが、俺は悪魔なんてのは嫌いなんだ」

「それがどうした。だが、貴様の体は中々に強靭そうだな、使うにはちょうどいい」

「それは断る」


 レモスィドは黒い炎を燃え上がらせると、魔剣を振ってそれを飛ばした。炎はオメガデーモンの目の前まで到達すると、八方に分散して全方位から襲いかかっていく。


 オメガデーモンはその一発を手で弾こうとしたが、その直前でその手を止め、そのまま前に突っ込んだ。


 一発の炎がオメガデーモンの腕を焼いたが、大したダメージもなく炎の弾幕を潜り抜けた。だが、そこにはレモスィドが魔剣を横薙ぎに振るっている。


 オメガデーモンはその一撃をかわしきれず、右腕を切り落とされた。しかし、まるでダメージがないかのように残った左腕でレモスィドを殴り飛ばすと、追い討ちはかけずにその場に急停止した。


「その剣は中々の力だ。だが、この程度」


 そして、オメガデーモンは切り落とされた左腕を再生した、かのように見えた。


「グッ! なに!」


 だが、その左腕の根元には黒い炎があり、傷口を焼いていく。レモスィドは立ち上がってから、その光景を見て口元に笑みを浮かべる。


「どうだ? 俺の作った魔剣の味は。その炎は簡単には消えないぞ」

「ふざけるなよ」


 静かにそう言ったオメガデーモンは自分の左肩を切り落とし、炎から開放された。そして、すぐに切り落とした部分全て再生させる。レモスィドはそれを見ても全く動じない。


「悪魔は悪趣味だな。俺はお前らのそういうところが嫌いなんだよ」


 レモスィドはそれから魔剣の黒い炎を増大させ、それを軽く振ってから構えた。


「お前らと一緒になるくらいなら人間とつるむほうがずっとましだ」

「下賎な存在が」


 オメガデーモンは吐き捨ててから、右手を突き出し、その先端にエネルギーを集中させた。レモスィドはそれにかまわず、地面を蹴って突進する。


 魔剣とエネルギーの塊が激突し、その場に衝撃が走った。レモスィドはその勢いを利用して大きく後ろに飛び退き、地面に片手をついて体を止めた。一方オメガデーモンは上空に飛んでその衝撃から逃れている。


 レモスィドは立ち上がると、フィエンダのほうを振り向いて笑った。


「どうだ? 俺の魔剣は悪魔にも通用するぞ」

「全力を出せない不完全な悪魔に、だがな。それより、まだまだ決着はついていないぞ」


 楽しそうなレモスィドと違い、フィエンダは無表情で抑揚なく答えただけだった。


「相変わらずな奴だ。まあそこで見てろ」


 レモスィドは再び魔剣を構えた。だが、オメガデーモンは空中に静止したまま構えもしない。


「どうした? 逃げ腰か?」


 レモスィドが大声を出すが、オメガデーモンは空に向けて左手を上げた。ファスマイドはそれを見て小さくため息をつく。


「思ったより早かったか」


 その言葉と同時に、その場の空気が変わった。オメガデーモンは左手を下げると、その場の全員をゆっくりと見回した。


「これ以上貴様らなどを相手にしている暇はない。だが、時が来たらまた相手をしてやろう」


 そしてオメガデーモンはその場から飛び去っていった。レモスィドは舌打ちをしてそれを見送ると、魔剣の鞘を戻した。


「ファスマイド、どういうことだ」

「別に、結界を破られただけさ。急ごしらえだし、こんなもんだね」

「そうか、それは残念だ」


 レモスィドは魔剣を収めるとさっさと街に向かって歩き出した。フィエンダもそれに続き、その場から立ち去る。


「さて、今日は色々大変だったようだね」


 一人残ったファスマイドはアラン達三人に語りかける。まずはミラが一歩前に出た。


「さて、なんで私をここに呼んだのか、理由を聞かせてもらおうじゃないか」

「そうしたほうが面白くなるだろう?」


 ミラはその答えを予想していたようで、軽く首を横に振った。


「それなら、ソラもさっさと連れてきてもらおうか。そのほうが面白くなるだろう?」

「もちろん、君の弟の力があればもっと面白くなるからね。宿屋で待っていてくれれば、すぐに連れて来てあげよう」


 そしてファスマイドの姿はいきなり消えてしまった。ミラはそれからアランとティリスのほうに向き直る。


「では戻りましょうか、アラン様。それからティリス、あんたには後で話がある」

「そうだね、ティリス戻ろう」


 何か言いたそうなティリスの手をつかむと、アランは歩き出した。

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