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魔剣ティンガー

「さて、そのおかしな剣は抜かなくていいのかな」


 ミラは鞘のままの曲刀を携えるレモスィドに聞く。だが、レモスィドはただ笑った。


「それはお前の力次第だ。これを抜くような状況にしてもらいたいものだな」

「面白い。なにかいわくつきみたいだし、抜かせてやろうじゃないか」


 ミラは聖剣を抜き、その刀身を強く輝かせる。レモスィドもそれに応じて鞘をつけたままの曲刀を構えた。


「おい、聖剣ってなんなんだよ」


 ティリスがアランを突っついたが、アランは振り返りもせずに口を開いた。


「見てればわかるよ。それにあの人は僕より強いから、参考になるんじゃないかな」


 そう言っている間にも、ミラは地面を蹴った。勢いにのった一撃がレモスィドの構えた曲刀を打ち、ミラはそのままその背後に駆け抜ける。


 レモスィドはミラの一撃をなんとか受け流していたが、その力強さは十分に実感できたようで、その表情は実に楽しそうだった。


「いいぞ! 人間にしてこの力とはな!」

「今のを受け流すなんて、あんたもやるじゃないか」


 二人は最初とは位置を入れ替えた状態で、今度は同時に地面を蹴った。互いの剣がぶつかり合い、その場に衝撃が広がる。


 ミラはすぐに後ろにステップし、間合いをとると、じりじりと横に動き始めた。レモスィドもミラとは逆方向に動きだし、二人は円を描いた。


 その位置がちょうど入れ替わるタイミングで、今度はレモスィドが仕掛ける。ミラは上段から振り下ろされた曲刀を右足を軸にして回転してかわすと、そのままの勢いで剣を横に薙いだ。


 だが、レモスィドはそれを後ろにステップしてかわすと、すぐに踏み込みながら逆袈裟に曲刀を振り上げる。ミラはそれを自分の剣で受け止めた。


 そして、二人はそのまま膠着状態に陥る。


「変わった光景だな」


 いつの間にかアランの隣に現れていたフィエンダがそうつぶやく。


「あの人間、レモスィドと互角か。私の知らないうちに人間も強くなったものだ」

「そうかな。でもあの人は特別だからね」

「そうなのか。お前達もそれなりの実力があるようだが」

「僕達も特別だよ」

「ほう」


 フィエンダはそれだけ答えると、ミラとレモスィドの方に意識を集中させた。そこで膠着状態だった二人は同時に離れる。


 レモスィドはフィエンダのことを見て笑みを浮かべると、無造作に曲刀を横向きにして体の前に突き出した。


「ちょうど見物も増えたことだし、この剣の真の姿を見せてやろう」


 柄を握る手に力が込められると、その根元の竜の口が開いた。


「魔剣ティンガーよ! 真の姿を現せ!」


 その瞬間、鞘が弾け飛び、その中から黒い炎のようなものがほとばしった。数秒後、その黒い炎は元の鞘と同じような曲刀の形になっていた。


「どうだ、なかなかのものだろう。魔剣というにふさわしいと思わないか?」


 レモスィドは黒い炎の魔剣の後ろからミラに問いかける。


「いい剣じゃないか」


 そう言ったミラの表情には驚きも恐れもなかった。レモスィドはその様子に満足そうにうなずく。


「いいぞ、その様子ならこの魔剣の力を存分に試すことができそうだ」

「よく動く口だな」


 ミラは聖剣を上段に構えた。レモスィドは魔剣を片手で中段に構えると、ゆっくりと前進していく。ミラはそれにかまわず一気に前に出ると、剣を真っ向から振り下ろした。


 だが、それはレモスィドの魔剣でしっかり受け止められる。そのまま魔剣の黒い炎が先端から枝分かれし、ミラに向かって伸びる。


 ミラは後ろにステップしてから剣でその炎を振り払った。そこにレモスィドが踏み込み、片手で小振りの斬撃を連続で繰り出す。


 一見なんということはない攻撃に見えるが、魔剣からは黒い炎が伸び、それも攻撃に加わる。それでもミラはその攻撃全てを受け、かわす。そして足元に攻撃が来た瞬間に跳び上がり、レモスィドの頭上を越えた。


 ミラが着地してすぐに振り向くと、レモスィドもすでに振り返って魔剣を構えていた。


「なんとも性質の悪い剣じゃないか」

「そうだろう、俺の最高傑作だからな。しかし、この力をここまで使える相手が人間とは驚きだ」

「それなら、もっと使えるようにしてやろうか」


 ミラは体勢を低くすると、その足元から風が巻き起こり始める。そして、ミラの体は一瞬で加速してレモスィドに迫った。


 最初の一撃以上の勢いで突進するミラに、レモスィドは魔剣の黒い炎をより一層燃え上がらせて迎え撃つ。


 だが、風をまとったミラの一撃は黒い炎を打ち払い、そのまま肩からレモスィドに体当たりをくらわした。レモスィドはよろめくが、それでもなんとか直撃は避けていて、ミラにそのまま倒されることだけは避けていた。


 体当たりをかすらせたミラは、すぐに踏ん張って無理矢理勢いを殺すと、もう一度姿勢を低くして構える。レモスィドも体勢を立て直し、魔剣を構えるが、今度は黒い炎を収束させて、さらに鋭い黒い刃を作り上げた。


「お前のそれは精霊の力か」

「そう、ちょっと預かってきたんでね。でも、私もここまでこの力を使わされるとは思ってなかったよ」

「それは嬉しいことだ」


 そこでレモスィドは口を閉じ、二人の間には研ぎ澄まされた雰囲気が充満した。


 そして、二人は同時に地面を蹴った。アラン達も思わず息を呑んでそれを見つめたが、二人の刃が互いを傷つけることはなかった。


「やはり気がついていたか」

「そっちこそな」


 ミラの聖剣はレモスィドの背後の影を、レモスィドの魔剣はミラの背後の影を貫いていた。聖剣と魔剣に貫かれた影はその場で霧散する。


 それから二人は離れると、まずはミラが剣を鞘に収めた。レモスィドも魔剣を握る手から力を抜く。すると弾け飛んだ鞘が戻ってきて、柄の竜の口が閉じると、再び鞘が形成された。


 ティリスは驚いていたが、アランとフィエンダはあまりそういう様子は見せない。


「やっぱりミラさんはすごいな、いまだに勝てる気がしないよ」

「確かに、人間離れした強さだというのはよくわかった。だが、あの影はなんだ」

「あれは悪魔が使ってるものだよ。さっき本体が出てきたんだけど、ミラさんに追い払われたんだ」

「ほう、悪魔か。しかし、そういうことならまだ近くにいるのではないか? 例えば」


 そこでフィエンダが腕を振ると、少し離れた場所の地面から土の槍が突き出し、何かを貫いた。だが、その貫かれたものは、それをすり抜けて空中に浮かぶ。


「魔族や人間の分際で目障りな連中だ」


 ミラにやられた半身をすでに回復させているオメガデーモンだった。レモスィドはその不完全な姿を見ると楽しそうな表情になる。


「いい姿だな悪魔。お前は果たしてこの魔剣に見合うだけの力があるか、今すぐ確かめてやろうか?」


 オメガデーモンはその挑発的な言葉をあからさまに無視した。


「今はお前たちの相手をしている暇はない」


 そう言うとその場を去ろうとしたが、それは見えない壁に阻まれ、動きが止められる。


「せっかく来たのに、そんな焦ることはないと思うんだけど」


 ファスマイドの声がその場に響いた。


「貴様!」


 オメガデーモンの激しい一言に、その上に現れたファスマイドは穏やかな表情をしている。


「まあ、せっかく来たんだから、少しゆっくりしていってくれてもいいじゃないか。せっかく僕が呼んだゲストもいるんだから」


 そう言うファスマイドの視線の先にはミラがいる。ミラは軽く肩をすくめてため息をついた。

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