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聖剣の使い手

 エリルは魔法槍を構え、その先端に炎をまとわせた。そして蜘蛛の集団に一気に突っ込み、槍を振り回す。無駄のない動きで、確実に蜘蛛を土塊に変えていった。


 そうして蜘蛛の数がどんどん減っていくが、それを補充するかのように地面が盛り上がり、そこから新しい蜘蛛が這い出してくる。


 エリルは周囲の蜘蛛を片付けてから、新たに湧いて出てきた蜘蛛と一旦距離をとった。それから魔法槍を振って、炎を振り払ったエリルはただの棒になった魔法槍を振りかぶった。


 その前で蜘蛛は集まって小さな山のようになり、一瞬大きな土の塊になったと思うと、いきなり巨大なサイズ、人間の二倍は高さがある蜘蛛のような何かになった。もちろん、体のサイズはそれ以上で、牙も恐ろしく巨大になっている。


 だが、エリルは動じることなく魔法槍を地面に叩きつける。そこから爆発が起こり、まるで煙幕のようにその場の視界がなくなった。


 一瞬後、エリルはその蜘蛛の上にその姿を現していた。そして魔法槍を蜘蛛の頭に突きつける。それを握る手に軽く力が込められると、魔法槍の先端から氷の穂先が伸び、蜘蛛の頭を貫いた。


 エリルはそのまま蜘蛛の頭に着地して、さらに魔法槍を抉るように動かす。蜘蛛は激しく頭を揺らしエリルを振り落とそうとするが、エリルは魔法槍から右手を放すと、その手に氷をまとわせて頭に突きたてた。


 だが、その瞬間蜘蛛の頭は無数の小さな蜘蛛に分裂し、エリルは足場を失い下に落ちる。そして蜘蛛は再びまとまって巨大な姿を取り戻し、すぐにエリルを押しつぶそうとした。


 エリルは素早く横に跳んで転がりそれをかわす。さらに蜘蛛は足を振り上げて潰しにかかるが、エリルは機敏なステップでそれをかわしながら後ろに下がり、間合いをとっていく。


 そして、十分に距離をとると双方動きを止めた。



 一方、宿に駆け込んできたロニーの報せを受けたアランはレンハルトとティリス、ロニーを伴って動き出していた。バーンズはトルビンへの連絡のために走っている。


「しかしまあ、次から次へと色々な魔物が出てくるものだね」


 走りながらもアランは暢気な感じの口調でしゃべる。ロニーはそれに呆れとも感心ともつかないような顔をした。


「あれは一体一体は弱いけど、まとまると厄介そうだぞ」

「でもエリルなら大丈夫さ、最悪でもやられるようなことはないから」


 そこで、四人の前に突然何かが落ちてきた。四人は足を止めたが、アランはその姿を認める前に、口を開いた。


「みんな先に行ってくれないかな。なんだかは知らないけど、ここは僕がやるよ」


 いまだ土煙が充満し、敵の姿は見えないが、アランはすでに両手にナイフを持って油断なく構えていた。


 ロニーは躊躇したが、ティリスはすぐにうなずく。


「任せたぜ!」


 そしてすぐに走り出した。レンハルトもそれに続き、ロニーも慌ててそれを追う。


「気をつけろよ!」


 三人が走り去ったのを確認してから、アランは土煙が完全に晴れるまでそのままの体勢で待っていた。そして見えてきたものは、人の形をしたものだった。


「何か、今までのとは違うらしいね」

「その通りだ」


 アランのつぶやきに返ってきたのは、低い、奇妙にかすれたような声だった。声の主はそれからゆっくりとアランに向かってくる。


 その姿の右半分は今まで遭遇したような黒い何か、そして左半分は一見したところ人間のような姿をしていた。


「つまり、君は今までの魔物を操っていた黒幕、なのかな」

「そうだ」

「じゃあその目的でも聞かせてもらいたいところだけど、どうだろう」

「目的は教えられないが、名前だけは教えてやろう。お前達人間は私のことをオメガデーモンと呼んでいたな」

「なるほどね、聞いたことがあるよ。確か、悪魔の中でも特に性質の悪いって奴だったっけ。勇者に倒されたって聞いてたけどな」

「そんな簡単に倒されるわけがあるまい」


 そう言うと、オメガデーモンは左手をアランに向けて伸ばした。


「おしゃべりはここまでだ」


 その左手が振るわれ、三日月形のエネルギーの塊がアランに向かって放たれた。アランは両手のナイフを交差させてそれをなんとか受けるが、押さえきれずに押し込まれる。だが、そのアランはナイフに精霊の力を込め、それをなんとか打ち砕いた。


 しかし、オメガデーモンはその隙にアランの横にまわっている。


「その程度か」


 その左腕が振るわれ、アランは吹き飛ばされて地面を転がった。オメガデーモンさらにそこに向けて三日月形のエネルギーの塊を放つ。


 だが、それは横からの剣の一閃に阻まれた。


「まさか、またあんたと会うことになるとは思わなかったね」


 落ち着き払った声を発したのは、皮の鎧に身を包んだ、まだ若さを感じさせる短髪の女性だった。その剣は強い輝きを発し、その姿は落ち着きを感じさせながらも、強さと激しさを併せ持っている雰囲気だった。


 その女性が振り返ると、アランはその見覚えのある顔に思わず息を呑んだ。


「ミラさん、なんでここに」

「それは色々ありましてね。まあそれはさておき、こいつは一人でどうこうできる相手ではありませんよ」

「それは確かにそうみたいだね」


 アランは立ち上がり、ミラの隣に並んだ。オメガデーモンはとりあえずミラだけに注目して口を開く。


「貴様は確か聖剣とかいうものの使い手だったか」

「覚えていてくれて嬉しいね。でも、十五年前と同じだと思ったら大怪我するよ。それに、その半分だけのところを見ると、あんたのほとんどは師匠に消されたまんまなんだろう?」


 ミラはにやりと笑うと、アランに目配せをして左前方に走り出した。アランはその意を察すると自分は右前方に走る。


 オメガデーモンはミラに狙いを定め、腕を振って先ほどまでと同じようにエネルギーの塊を放つ。だが、ミラが剣を握る手に力を込め、走りながら振るうとそれは軌道を変えられ、空に消えていく。さらに連続で攻撃されるが、ミラはその全てを弾き飛ばした。


「水の精霊よ!」


 そこに反対側から迫っていたアランが右のナイフを振り、水の刃がオメガデーモンに襲いかかった。しかしそれはわずかに体を反らされ、かわされてしまう。


 だが、そこでできた隙にアランは一気に距離を詰め、左のナイフを振るう。オメガデーモンはその一撃をバックステップでかわしてみせるが、逆方向からミラが駆け込んでくるのが見えた。


 一見したところまだ余裕のある距離だったが、ミラの踏み切る足に力が込められ、地面が陥没した。そして、ミラの体が矢のような勢いで放たれた。


「ハアッ!」


 気合の一閃はオメガデーモンの右半身の胴を切り裂いた。ミラは踏ん張って強引に体を止めると、すぐに振り返り、もう一度跳ぶ。アランもそれに合わせるようにナイフを投げた。


「消えろっ!」


 ミラの剣がオメガデーモンの右半身に袈裟切りに食い込んでいく。しかし、いきなりその半身が霧散すると、残りの左半身は急上昇をしていって、剣とナイフをかわした。


「聖剣の使い手よ! この借りは必ず返してやろう!」


 オメガデーモンはそれだけ言い残し、空の彼方に消えていった。

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