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準備週間

 一週間後。旅に出る三人はそれぞれの準備を大体済ませていた。アランはこのために作られた旅装を身につけていた。


 基本的に軽さが重視されていて、部分的に鋲が打たれた皮で補強されている程度ものだが、布地は上質で、腰と体に巻かれたベルトには二本のナイフと様々なものを収納できるようになっている。それから薄手の皮のグローブと、つま先が強化されたブーツを履いた。


 それから自分の姿を鏡に映して確認していると、ドアがノックされエリルが入ってきた。エリルはアランの姿をざっと見てから口を開く。


「よくお似合いですよ」

「それより、エリルは準備しなくてもいいのかい?」

「私はいつでも準備できています。まあ今回は新しい武器がありますから、少し使い方に慣れる必要はありましたが」

「新しい武器?」

「はい。かなり変わったものですから、楽しみにしていてください」

「着るものは? まさかその服じゃないよね」

「もちろん私にも旅装はありますよ、由緒正しいスタイルのものが。それよりアラン様、せっかくですから、その格好で体を動かされてはどうですか?」

「それもいいか」


 アランは立ち上がって部屋を出た。それからエリルを従えて訓練場に向かう。そこではバーンズが若い兵士達を見守っていた。ただ、自分では指示を出したりはせず、自分よりも若い騎士に任せている。


 バーンズはアランとエリルに気がつき、二人に近づいていった。


「それが旅装ですか。いいもののようですね」

「まあ、母さんが作ってくれたものだしね。それより、そっちの旅装は? その鎧じゃ重過ぎると思うけど」

「もっと軽装の鎧がありますから、出発する時はそれにします」

「それなら、出発の日を楽しみにしておくよ」

「アラン様!」


 そこにアランを呼ぶ声が響き、ローブ姿の男が駆け寄ってきた。


「ミニックか、何か用かな」

「新しい発明を試していただこうと思ったんです」

「新発明か、今度は何?」

「これです」


 ミニックは左手用のガントレットを取り出した。アランはそれを受け取って適当にこねくりまわしてみた。


「これにはどんなカラクリがあるのかな」

「いくつか魔法を発動できるように仕込んであるんですよ。魔力も三発ぶんくらいは溜めておけるので、いざという時に役に立ちます」

「へえ」


 アランはそれをグローブの上から左手に装備してみた。サイズはぴったりで、手を動かすのにも邪魔にはならない。


「それで、魔法の発動は?」

「指の動きで使えるようにしてあります。今から説明しますので試してみて下さい」


 それからミニックは三種類の指の形の組み合わせを示した。


「発動する時は手を開いてください。とりあえず最初のものからどうぞ」


 アランは誰もいないほうに手を向けると、ゆっくりと二つの指の形を作った。それから手を開くと、それと同時にガントレットを中心として魔法の盾が展開された。


「なるほど、これは便利そうだ」

「そうでしょう。あとの二種類はバーストとライトニングボルトを改良したものにしてあります」

「まあ、使ってみようか」


 二つ目は狭い範囲だが鋭い爆発を起こすバースト。そして、三つ目はガントレットから一瞬だが強烈な雷が発生した。ミニックはそれを見て満足そうにうなずく。


「名づけてライトニングハンドと言ったところですね」

「これは基本的に接近戦用っていう感じか」


 アランはそうつぶやいてから、左手のガントレットをじっと見つめた。バーンズもそれを見て、感心したような表情を浮かべる。


「使いどころが難しそうですが、切札になりそうですね。さすがだな、ミニック」

「それはまあ、なんといっても僕は天才宮廷魔術師ですからね」


 自分に酔っているようなミニックだったが、周囲の人間はそれに慣れているので特別相手にもしない。バーンズはミニックから目をそらして、アランに向き直った。


「アラン様、それも使って体を動かしてみますか」

「そうしてみよう。誰か相手をしてくれるかな」

「では私が」


 アランとバーンズの話を聞いていた若い騎士が名乗りを上げた。アランはうなずいて一歩前に出る。


「ありがとう。じゃあ、軽くやってみようか。魔法は軽くありで」


 アランはナイフを両手で抜き、騎士も腰から剣を抜き、構える。アランは半身で若干腰を落とした体制で左手を前に出し、右手は後ろに引いている。


 バーンズとの時とは違い、アランはじりじりと前に出ていく。騎士はそれに向かって左手を突き出した。


「アイスバイト!」


 一発の氷の牙が放たれる。アランは左手のナイフを空中に放り投げ、ガントレットから魔法の盾を展開させた。氷の牙は砕けたが、騎士はそれを追うようにして剣を振るう。


 アランは勢いよく前転してそれを潜り抜けると、その体勢のまま足払いを仕掛ける。騎士はよろめきながら前に出てアランと距離をとってから、体勢を立て直して振り返った。


 アランはいつの間にか放り投げていたナイフを再び左手に持ち、最初と同じように構えると、今度はまっすぐに騎士に向かって走る。騎士もそれに呼応して走り出した。


 剣が振り下ろされると、アランは左手のナイフでそれを受けると見せ、その手を放した。ナイフは地面に叩きつけられるが、身をかわしていたアランはそのまま体を回転させ、右手のナイフを騎士の首に突きつけた。


「参りました」


 騎士が剣を鞘に収めると、アランもナイフを引いた。


「相変わらず無茶な戦いかたをしますね」


 エリルがタオルを持って近づいてきた。アランは落としたナイフを拾って収めてから、それを受け取る。


「これが僕にあってるんだ。それに、このガントレットも使えそうだし」

「まあこれからは小言を言われることもなくなりますからね」

「それはいいことだね」


 アランはタオルを首にかけて、騎士のほうに歩み寄る。


「相手をしてくれてありがとう。いい練習になったよ」

「いえ、私のほうこそ、お手合わせいただいてありがとうございました」


 騎士は一礼するとその場をあとにした。次はそこにミニックが嬉しそうな顔をしてきた。


「さすがですね。ああ、発動の停止はこう人差し指を立てて回せばできますから」

「なんだ、気づいてたんだ」


 アランはそう言ってから教えられた通りにした。


「これはいいね、僕の戦いかたによくあってる。しばらく借りておくよ」

「もちろんです。というかそれはアラン様のために作ったものですから、存分に使ってください」

「そういうことなら、ありがたくもらっておくよ」

「では、僕はまた新しい発明に取り掛かりますから、失礼します」


 ミニックは訓練場から走って出て行ってしまった。


「相手の体勢を崩した隙に隠れて攻撃を準備しておくとは、いい手段ですね」


 バーンズがそう言うと、アランは軽く肩をすくめる。


「ギャラリー相手でもばれたら駄目かな。次はもっとうまくやりたいね」

「もう少し品のある戦いかたをされてもいいとは思いますが」


 エリルの言葉にアランは特に反応はしなかった。

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