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ブレイテンロック共和国

 今回の旅路はアカーナへの旅とは違い、穏やかで何事も起こらなかった。レモスィドも特に何もするようなことはなく、たまにティリスの相手もしてやったりしていた。


 国境を越えるのも問題なく済み、一行は共和国の首都に無事に入っていた。宿を確保してから、アランとバーンズはすぐに出かけていった。


「なあ、二人はどこに行ったんだ?」


 荷物の整理をしながら、ロニーはエリルに尋ねた。


「この国にはアラン様やバーンズ様の知り合いがいるんですよ。話を通しておくと色々と便利ですから」

「っていうことは、その知り合いはお偉いさんなのか」

「そうですね、そういうことになります」

「はー、そりゃすごいな」


 レンハルトは二人の会話を聞きながら、アランとバーンズが会いにいった人物が誰なのかを考えていた。レモスィドは特に何をするでもなく、その三人の様子を見ているだけだった。


 一方、アランとバーンズはこの都の高級住宅街に足を踏み入れていた。二人は並んだままゆっくり歩き、一際大きな敷地を持つ屋敷の前で足を止めた。それからバーンズが門番に近づく。


「私はノーデルシア王国から来たバーンズだ。主人に取り次いでもらいたい」


 バーンズは背中の剣を鞘ごと手に取り、それを門番に差し出した。


「この剣を見せればすぐにわかるはずだ。よろしく頼む」

「わかりました」


 門番の一人はバーンズの様子に気圧され、剣を受け取るとすぐに屋敷に入っていった。しばらくしてから剣を持った門番が戻ってくると、それをバーンズに返し、門を開けた。

「どうぞ」


 バーンズとアランが門をくぐると、中年の執事が二人に向かって頭を下げ、屋敷の中に迎え入れた。それから二人は屋敷の中にある一室に通され、ゆったりとした椅子に座って主人を待った。


 数分後、ドアを開けて現れたのは立派な身なりをした筋骨隆々の色黒な中年の男だった。その男はバーンズを見ると、いかつい顔面いっぱいに笑顔を浮かべた。


「久しぶりだな、バーンズ殿」

「はい、トルビン様。お久しぶりです」


 それからトルビンはアランに目を移し、愉快そうに目を細める。


「アラン様も立派になられましたな」

「相変わらず暑苦しいね、トルビン」

「ハッハッハッ! いつもながらはっきりしたお方ですね」


 豪快に笑ってからトルビンは二人の向かい側に腰を下ろした。


「さて、アラン様のご事情は私も知っていますが、我が国にはどういったご用で?」

「どこから話せばいいのかな。まあ問題があるのはわかるんだけど、どうすればいいのかわからないってことがあるんだ。ちょっと詳しく言うと、魔族か悪魔の問題なんだけどね」

「魔族に悪魔とは、穏やかではありませんな。しかし、最近その手の話はあまり聞きませんでしたが」

「トルビン様、新種の魔物の噂はご存知ですね」


 バーンズが答えるとトルビンはうなずいた。


「ああ、それなら知っている。我が国でも報告されているしな」

「もしかすると、その魔物が魔族か悪魔と深く関わりがある可能性があります。私たちはそれを調べるためにここまで来たのです」

「そういうことか。だが、なぜ我が国に?」

「いや、近かったし、知らないところでもないからね。それに、僕の勘ではここに何かあると思えるんだ」

「勘? いや、全くアラン様らしいですな。しかし、あなたの勘ならば無視するわけにもいきませんな」


 トルビンは腕を組み、目を閉じて少し考えこんだ。数十秒後、目を開けたトルビンは穏やかな表情になってから深くうなずいてみせる。


「そういうことなら、協力させてもらいましょう。執政には私から伝えておきます。何が起こるかわからないのならば、連絡は絶やさないようにしておきましょう」

「そうだね。宿は教えておくから、誰か連絡役を寄越してくれればいいよ」

「わかりました、そうさせてもらいます。ところで」


 トルビンはそこで言葉を切り、二人の顔を見つめると、にやりと笑った。


「少し手合わせを願えますかな」


 それを聞いたアランは立ち上がった。


「いいよ。とは言っても、そっちが手合わせしたいのはバーンズのほうかな」

「それは確かにそうですな。よろしいかな、バーンズ殿」


 バーンズは立ち上がり軽く頭を下げる。


「わかりました。よろしくお願いします」

「じゃ、僕は先に帰らせてもらうよ。着いたばっかりだしね」


 アランはそう言ってさっさと一人で帰ってしまった。それを見送ったトルビンは大きく息を吐き出した。


「アラン様をこうして旅に出されるとは、エバンス王は思い切ったことをするものだな」

「それだけアラン様に期待し、信頼しているということです」

「個人的にはどう思うかな? バーンズ殿」

「アラン様の力はこうした状況のほうが生かされると思います。あの方には王子という地位も、王宮も束縛にしかならないでしょうから」

「同感だ。アラン様は以前よりも生き生きしているように見える。それよりバーンズ殿、早く我が家の道場に行こうではないか」


 それから二人は一緒に部屋を出ていった。


 一方、トルビンの屋敷を出たアランは、町を見物しながらふらふらと宿を目指していた。ノーデルシア王国ほどの華やかさはないが、このブレイテンロック共和国の首都は穏やかな雰囲気で美しい都市だと言えた。


 アランは広い公園に来ると、ベンチに座ってそこにいる人々を眺め始めた。公園には要所要所、武装した警備兵が立っているが物々しい雰囲気はなく、老若男女様々な人々がいて、思い思いに時間を過ごしているように見えた。


「ま、いいところだよね」


 そうつぶやき、アランは立ち上がった。それから足を宿に向け歩き始める。そして数十歩進んだ時、後方から爆発音が響いた。


 アランはすぐに振り返り走り出す。さっきまでいた公園からは爆発の名残の煙が立ち上り、突然のことにかなり混乱した様相を呈していた。


 その中心地から巨大な黒いものがいきなり立ち上がり、あっという間に人間の三倍くらいのサイズになって二本の腕のようなものが生えた。そして、その腕が爆発にうずくまっていた若い男女に振り下ろされる。


「水よ!」


 アランの気合と共に逆手で抜き打ちした右手のナイフから水の刃が走り、それを真っ二つにし、消滅させる。巨大な黒いものはそれに怯んだ様子を見せず、間髪入れずに反対の腕を振りかぶった。だが、アランは素早く狙われていた男女の前に入り、右手のナイフを構える。


 そして襲いかかってきた腕を切り裂くと、そのまま前方に走り、左の掌を斜め上に向け、黒いものに突きつけた。


「バースト!」


 爆発が黒いものを撃ち抜くと、それはそこを中心として霧散していった。アランは他に何も出てこないのを確認してからナイフを収め、うずくまっていた二人を助け起こした。


 二人は突然のことに言葉もないようだったが、とにかくアランに礼を言って、近くのベンチに支えあいながら歩いていった。それと入れ違いのように警備兵がアランに近づいてきた。とりあえずアランは先手を取って口を開くことにする。


「僕は旅の者でね。話なら宿に来てくれればするから、とりあえずここはよろしく」


 それだけ言って宿の名前を告げると、逃げるようにその場から立ち去った。

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