町から出発
数日後、出発の準備を整えたアラン達は宿を引き払う準備をしていた。ちなみにティリスの武器の件はあっさりエリルに却下されている。
アランは今まで放っておいたレモスィドの部屋を訪れていた。ドアをノックして開けると、レモスィドは椅子に座っていた。
「ちょっといいかな」
アランが声をかけると、レモスィドは椅子に立てかけてあった曲刀を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。
「出発の準備をしてるらしいな。どこに行くつもりだ?」
「ブレイテンロック共和国だよ、けっこう近いしね」
「なるほど、それなら俺も一緒に行ってやろう。何があるか楽しみだからな」
「まあ、大歓迎ってわけじゃないけど、来たいならどうぞ」
「そうさせてもらおう」
楽しそうに笑うレモスィドをおいて、アランは今度はフィエンダの部屋に向かった。ドアをノックすると、開けるよりも早くドアが開かれ、フィエンダが顔を出してきた。
「なんだ」
「今日ここを発つんだ。一緒に来るかと思ってね」
「一緒になど行く気はないと言いたいところだが、もう少しお前達につきあってやろう」
「そうかい。それで、ファスマイドはどこにいるのかな?」
「知らんな。だが、あいつならどこかで見ているだろう」
「そういうことなら、別に放っておいてもいいのか。それじゃあ、また」
「待て」
フィエンダはその場を立ち去ろうとしたアランを引き止めた。
「お前は、自分よりも強大な者が現れたらどうする」
「特にどうってことはないさ。僕には仲間もいるし、考える頭もある。それに相手が強くたって、あきらめるわけにはいかないんだから」
「なるほどな」
それだけ言うとフィエンダはドアを閉めた。アランは軽く鼻の頭をかいてからその場を離れる。
それから宿の外に出ると、そこにはバーンズとロニーがいた。エリルから特に問題なしと判断が出たロニーはアラン達と一緒に来ることになり、荷造りの仕上げに駆り出されているところだった。
「やってるね」
アランが声をかけると、ロニーは汗を腕で拭って顔を上げた。
「雇ってくれたのはいいけどよ、いきなり重労働だな」
「まあ、そう言わずにさ」
アランはロニーに布を渡してからバーンズに顔を向けた。
「準備はどうかな」
「大体完了しました。それと、荷物が増えたので馬を増やしましたから、今までよりも旅のペースは上げられます」
「それなら、目的地にもすぐに着きそうだね。ところで、ロニーは本当にこの町を離れていいのかい?」
「別に問題ないぜ。きっちり前金ももらってるし、俺の相棒の活躍を見せてやるよ」
ロニーは背負ったポールアックスを親指で指した。
「楽しみにしてるよ。僕はちょっと野暮用を済ませてくるから」
アランは二人と別れ、町の外に向かった。そして人気のない場所までくると、空を見上げ、口を開いた。
「見てるんだろ、ここなら人目もないから少し話をしよう」
「何の用かな」
アランの背後から声がした。振り向くとそこにはファスマイドがリラックスした様子で立っている。
「あなたなら、何か僕達の知らないことを知ってるような気がするんだ。全て教えろとは言わないから、僕達がやってることが間違っていないかどうか、それだけでも教えてくれないかな」
「君達が間違っているかどうかね。それなら心配しなくても大丈夫だよ」
「それは、間違ってないってことでいいのかな」
ファスマイドはそれには答えず、ただ笑顔だけを浮かべた。アランはその顔をしばらく見つめてから、うなずいた。
「わかった。間違ってはなさそうだね」
アランはファスマイドに背を向け、その場から立ち去った。それを見送ったファスマイドはしばらくしてからおもむろに自分の右手に雷をまとわせ、それを空中に放った。その雷は空中にある何かを撃ち、蒸発させた。
「さて、どうなるか楽しみなことだね」
一方、エリルはティリスとレンハルトを伴って主に食料の調達のために市場に来ていた。主に荷物を抱えているのはティリスで、本人はそのことに不満を持っているようだった。
「なあ、なんであたしが荷物持ちなんだよ。レンハルトは軽そうなもんばっかりじゃねえか」
「あなたが一番力があるでしょう。それにレンハルトさんが持っているもののほうが価値はあるものが多いですから、心労は大きいんですよ」
「チッ! まあいい、あとは何を買うんだ」
「あとはあそこの店で終わりです」
「ああ、早く終わりにしてくれよ」
賑やかで山のような荷物を抱えて注目を集めているティリスだったが、本人は気にせず、レンハルトもそれを穏やかに見ているだけだった。
買物が終わると、一行は荷馬車の場所に戻り、荷物の積み込みを始めた。それが終わる頃になると、バーンズとロニーが荷物を持ってきた。
「アラン様はどうされたのです?」
エリルが聞くとバーンズが首を横に振り、ロニーが口を開いた。
「少し用があるってどこかに行ったけどな」
「そうですか。それならアラン様が戻る前に出発の準備を済ませてしまいましょう」
そうして荷積みと整理をしていると、アランが戻ってきた。だが、エリルはそれを見て眉をしかめる。
「アラン様、何か余計なものがついてきているように見えるのですが」
「え? まあいいじゃないか、一人くらい」
「連れてくるなら、せめて人間にして頂きたいのですが」
「そう言うな。善良な人間のようにおとなしくしていてやろう」
レモスィドはアランの背後から、エリルに向かってにやりと笑う。エリルはため息をついてから、荷馬車の胴体を一発叩いた。
「わかりました。そういうことなら、くれぐれもおとなしくしていてください。おかしなまねをしたら、容赦はしませんよ。それから、必要なものは自分で用意してください」
「それは楽しみだ。まあ、せいぜい気をつけておくようにしよう」
レモスィドはまるで気にもとめない様子で笑ったままうなずいた。エリルはため息を一つついてから、再びアランに顔を向ける。
「まさか、これ以上増えるようなことはありませんよね」
「とりあえずはないはずだよ。あとの二人は僕達と一緒に行動するような性格でもないだろうから」
「それだと助かりますね。これ以上大所帯になったら無駄に目立ってしまいますから」
それからレモスィドを除く全員で荷造りの仕上げをしていると、レノールがやってきた。
「はかどってるじゃないか。もう少しゆっくりしていって明日出発してもいいと思うけど」
「そうのんびりもしていられませんから」
エリルはそう答えてから荷馬車の御者台に登った。
「では私たちはこれで。とりあえず手はうっておきましたが、あとはあなた達次第ですよ」
「ああ、わかってる。あんた達も気をつけてな」