帰還
次の日の昼、バーンズとレンハルトが自警団の本部に戻ってきていた。ちょうどそこに居合わせたエリルは二人を出迎えた。
「何も変わったことはなかったか?」
バーンズにそう聞かれ、エリルは首を横に振った。
「何もないどころではありませんでした。自警団の責任者が魔族の力を得たり、それとは違う魔族が現れたり、他にも色々なことがありました」
「大変だったようだな。話は後で詳しく聞かせてもらうとして、とりあえずは休ませてもらおう」
「はい。では今晩に詳しく」
「わかった、頼むぞ」
それからバーンズとレンハルトは宿に戻り、エリルは元エクサの部屋に戻ってレノールと一緒に雑事をこなしたりしてすごした。
そして夕方になってエリルが宿に戻ると、昨日は調べがついてないので門前払いにしたロニーが宿の前に立っていた。
「あなたを雇う件なら、まだ時間がかかると言ったはずですが」
「いや、俺を知るなら直接のほうが早いと思うんだけどな。どうだい、明日あたり一日一緒に」
「必要ありませんね。あまりふざけたことを言ってると出入り禁止にしますよ」
「わかった、わかったよ。そいつは勘弁してくれ。できるだけ早く頼むぜ」
「まあ、アラン様から言われたことですからまともにはやりますよ。わかったらお引取りを」
「そういうことなら、俺には後ろめたいことはないし、よろしくな」
そしてロニーはその場から去っていった。エリルがため息をつきながら宿に入ると、食堂にはバーンズとレンハルトだけがいた。
「アラン様はどうしているのですか?」
「日が落ちる前に出かけられたのだが」
「そうですか、それなら私は少し外を探してきます。バーンズ様達はここで待っていてください」
そう言って外に出たエリルだったが、そこにはちょうど帰ってきたアランがいた。
「アラン様、どこに行っていたんですか?」
「ちょっと散歩してきたんだよ。それよりも夕食にしようか、バーンズ達の話も聞きたいし」
「そうですね、今はとりあえずそうしましょう」
それから四人は食堂に集まった。まずはバーンズとレンハルトが自警団と共に行った確認のことについて話した。
そっちであったことは、多少の魔物との戦闘をしたくらいで、後はアラン達が魔物と戦ったということの確認もできたので、予定通りすぐに帰ってくることができた、というそれだけの話だった。
もちろんアランとエリルのほうはそれどころではない。だが、そこにティリスが現れて四人のほうに近づいてきた。
「なんだ、その二人があんたらの連れか。けっこう強そうじゃないか」
バーンズはそれを見て、エリルに問うような視線を向ける。エリルはそれを受けてため息をついてから口を開いた。
「こちらはティリス、色々あって私が面倒を見ています」
「よろしくな、えーっと」
「こっちがバーンズでそっちがレンハルトだよ」
アランが紹介すると、ティリスは手を差し出して、握られて手を勢いよく上下に振った。二人ともそれにたいして特に動じることもなく、落ち着いて対応した。ティリスは手を引いてから数回うなずき、近くの椅子に勢いよく座った。
「で、何の話をしてたんだ?」
「色々やっかい事が起きたという話です。あなたも含めて」
「あの野郎もだろ? って来やがったな」
ティリスの視線の先には入口から入ってきたレモスィドが立っていた。レモスィドはその位置からアラン達を見ると、バーンズのところで視線を止めた。
「ほう、これは中々できそうな男だな」
そのつぶやきに反応してバーンズはレモスィドのことをまっすぐ見た。
「あなたは?」
「おっと、これは失礼。俺の名はレモスィド、まあお前達と同じように旅をしているといったところだ」
「なるほど。私はバーンズだ」
バーンズはレモスィドに今にも食いつきそうな顔をしているティリスを見たが、とりあえず放っておくことにした。
「そのうち手合わせをしてもらおうか、バーンズ殿」
それだけ言うとレモスィドは自分の部屋に向かった。
「あいつのことは後で話すよ」
アランはレモスィドのことをその一言で片付けてから、エリルのほうに顔を向けた。エリルはうなずいてから話を始める。
「まず、自警団員のレノールから自警団内部で妙な動きがあるという話がありました。それから数日して、具体的に何かがありそうだという話になったので、私とアラン様で警戒していました。そして、まずは魔物が現れ、次には魔族の力を得たと思われる、自警団の責任者、エクサが姿を現しました」
「魔族の力、ですか?」
レンハルトが首をかしげると、それにはバーンズが答える。
「人間でも魔族や悪魔の力を得ることができるのだ。もちろん、そうなったら人間とは言えないのだが」
「その通りです。それは私が片付けたのですが、そのあとにさっきのレモスィドという男が現れ、アラン様と戦闘になりました。ですが、そこにファスマイドと名乗る者が現れ、戦闘を止めました」
「ファスマイド、久しぶりに聞く名だな」
「やはり、バーンズ様はご存知でしたか」
「ああ、あの男はかつてタマキ様にも関わったことがある。何を考えているかはわからないが、特別に害のある存在でもないと思うが」
「はい、二人を止めた以外は特になにもしていません。そして翌日に、このティリスが現れました。レモスィドと戦ったようですが、ろくに相手にされなかったようで、非常に不本意ですが私が稽古をつけているような状況です」
バーンズとレンハルトは、その話のあまりの盛り沢山さに少なからず驚いているようだった。それからバーンズが口を開く。
「アラン様、レモスィドという男はどの程度の力なのですか」
「強いよ、ちょっと底が見えない感じだね。まあとりあえず危険はないと思うから、気にしないで放っておけばいいよ」
そこでティリスが舌打ちをしたが、他の四人はそれを流した。
「そんな者が私に興味を持ったとなると、これは大変なことですね」
バーンズが苦笑いしながらそう言ってため息をついた。それを見てティリスは身を乗り出す。
「なあおっさん。あんたそんなに強いのか?」
「何を言っているんですか」
エリルがあきれた表情でそれを遮った。
「バーンズ様は剣の達人ですよ、あなたでは相手になりません」
「そりゃいいな、明日あたり手を貸してくれ」
ティリスは後半は聞いていないようだった。
「わかった。アラン様、よろしいですか?」
「別にいいよ、というかよろしく」