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未熟な戦士

 ティリスがアラン達と同じ宿に転がり込んで数日、エリルには色々と悩みが増えていた。


 まず、ティリスは持ち合わせが少なく、アランの意向でなぜかその宿代を負担していること。


 さらにレモスィドも相変わらず宿にいて、ティリスがいつも突っかかろうとしているということ。これはレモスィドが相手にしていないので今のところ大事にはいたっていない。


 しかし、何よりも困るのは、ティリスが手合わせを要求してくることだった。とにかく馬鹿力だが、直線的な戦い方しかしないので、それをいなしてさばくのは難しくはない。とは言っても疲れることなのは間違いなかった。


 そのうえ、ロニーというアランの知り合いになった男が頻繁に宿に訪ねてくるのもうっとうしいことだった。


 唯一の救いはバーンズ達がそろそろ戻ってくることくらいで、エリルはその日が一日も早く来て欲しいと思っていた。


 だが、その日はまだこないようで、今日も朝からティリスが部屋に訪ねて来ていた。


「おいエリル、今日も付き合え」


 エリルはうんざりしたが、アランから頼まれているので嫌とは言えない。まだ寝ているアランを見てから立ち上がった。


「わかりました。アラン様、私は出かけますから、あまり寝すぎないようにしてください」


 アランは横になったまま手を振ってエリルを送り出した。エリルは弁当としてパンと水だけ受け取ると、町を出て最近ティリスと手合わせをするのに使っている町の外の空き地に向かった。


 空き地に到着すると、ティリスはすぐにケープを脱ぎ捨てて構えた。エリルも仕方なく魔法槍を連結して構える。


「別に殺し合いではないんですから、加減してくださいよ」

「チッ」


 ティリスは舌打ちをしてからエリルに突進してきた。エリルはその突進をひきつけてから最小限の動きでかわしてみせる。ティリスはタイミングを外されてよろめきながらも、体勢を立て直す。それにたいしてエリルはため息をついた。


「何度言ったらわかるんですか? いくらあなたが馬鹿力でも、そんな直線的な動きでは簡単に先が読めますから、初動さえよく見ておけば、かわすのは簡単なんですよ」

「じゃあ、どうすればいいんだ」

「そうですね、動きをもっと速くして、わかってても対応できないくらいにまでになるか、それともフェイントを使うか、どちらにせよ、今の正面からの攻撃だけでは話になりません。そもそも、なぜ素手で戦うんですか?」

「武器はすぐに駄目になっちまうんだ。そんなに金もないから、壊れない自分の拳を使うことにしてるんだよ」

「一体、どんな体なんですかね。しかし、その頑丈な体のわりには傷がたくさんあるようですけど」

「こんなのは大した傷じゃない。あたしが生きてるのが証拠だ」

「わかりましたよ。次は少しは頭を使ってしかけてきてください」

「言われなくてもそうするぜ!」


 ティリスは勢いよく地面を蹴ったが、今度はエリルの直前で無理矢理方向転換をして横に跳ぶ。ティリスの体は大きく流れてしまうが、そこからさらに地面を蹴って上空に飛び上がると、そこからエリルに向かって拳を振り下ろしていった。


 だが、エリルは目だけ動かしてティリスの動きをとらえると、軽く後ろにステップしてそれをかわしてみせる。ティリスの拳が地面に突き刺さると、そこは大きくえぐれ、多くの破片が周囲に飛んだ。


 エリルはそれを魔法槍の一振りで防いでから、一歩踏み出してティリスの首筋にそれを突きつけた。


「この程度では駄目ですね。まあ、さっきよりはずいぶんましですが」


 そこでエリルは素早いステップで反対側に動いた。


「ですが、やはり動きが大きすぎですね。とは言っても、あなたに細かいことができるとも思えませんから、今の調子でやっていけば少しはましになるでしょう」

「そうなのか?」

「ええ、それなら一人でもできるでしょうから、好きなだけ練習できますよ。これで私もあなたとの手合わせから開放されるわけです」


 エリルは非常に晴れやかな表情だった。



 その頃、朝食には少し遅い時間に起きたアランは黙々と食べることに集中していた。


「よお、アラン」


 そこにロニーが訪ねてきた。アランは軽く手を上げてそれに応じる。


「おはよう。エリルなら今はいないよ」

「え、そうなのか」


 ロニーは残念そうな顔をしてからアランの向かい側に座った。アランはその顔を見ながらパンをかじる。


「で、今日は何の用だい?」

「いや、実はな、まあなんというか、俺を雇う気はないか?」

「仕事ならもうあるんじゃないのかい?」

「それだけどな、なんか隊商のオーナーが言うには最初に予定してたよりもこの町に長く居つくらしくてよ。一応引き続いて雇ってはくれるっていう話なんだが、仕事の内容が俺には合わなくて、他にいい仕事がないか探してるんだが」

「それで、僕達が何か面白ことでもやってると思ったとか、そういうことかな?」

「そうだ。俺は傭兵としてはけっこう経験豊富だし、色々と役に立つぜ」


 ロニーにそう言われて、アランは鼻の頭をかいてからすぐに口を開いた。


「まあ、僕たちはこの間みたいな新種の魔物とそれから魔族を追ってるんだけど、正直言って危険だと思うよ」

「そんなことだろうと思ってたぜ。お前は只者じゃなさそうだし、やりがいのありそうなことじゃないか。どうだ、俺を雇うのは?」

「僕はそうしてもいいと思うけど、問題はエリルがどう言うかだね。夕方には戻ってくるだろうから、その時にまた来てくれればいいよ」

「それなら、よろしく言っておいてくれよ。じゃ、また来る」


 ロニーが出て行ったのを見送ってから、アランは朝食を再開した。それが終わる頃に、多少疲れた雰囲気のエリルが戻ってきた。


「早かったね。ティリスは?」

「一人で練習してもらってます。とりあえずそれくらいまではなんとかできたので」

「そうなんだ。で、エリルから見て彼女はどうかな」

「馬鹿力と頑丈さ以外はまるで素人ですね。あれは本当に精霊の力なんですか?」

「本人も気づいてないみたいだけど、僕は確かに彼女の中に精霊の力を感じたんだよ。たぶん火の精霊の力だと思うけど、何か妙な感じではあったね」

「もしかしたら、バーンズ様なら何かご存知かもしれません」

「それはあるかもね。ああ、それから、さっきロニーが来てたんだけど」


 そこでエリルは若干嫌な顔をしたが、アランはかまわずに続ける。


「色々あって、僕たちに雇って欲しいって言ってきたんだけど、どうかな? 僕としては別にいいと思うんだけど」

「雇うんですか」


 エリルはため息をついてから、諦めの表情を浮かべた。


「とりあえず私があの男に関して少し調べます。何も後ろめたいことがないなら、そうしてもいいのではないでしょうか」

「レンハルトの時はそんなことやったっけ?」

「あの人はバーンズ様が保証してくださったので問題ありません。アラン様のようにいい加減ではないんですから」

「ま、それもそうか」

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