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傷を持つ者

 宿を出たアランはレモスィドを先導して歩いていた。


「ところで、宿代はどうしてるんだい?」

「人間の金くらいいくらでも作り出せる」

「それは大変だ。そんなことができるなら、ひっぱりだこだろうね」

「俺は人間のことにはほとんど興味がないから、自分が使いたい時しか使う気はない」

「なら安心だ。いや、もったいないか」


 そんな調子で歩いていると、二人はいつの間にか町の南門の近くまで到着していた。昨晩のことがあった直後だが、特別物騒な雰囲気もなく、町に新しく来た人間などで賑わっていた。


 その中でフードつきのケープをまとった一人の人間が町に足を踏み入れた。その視線はアランとレモスィドを見つけると、そこで止まった。そして真っすぐにその二人に向かって近づいていく。


 アランがそれに気がついた時にはその人間は二人の目の前に立っていた。アランよりも身長が高く、顔はフードで影になっているのでよくわからない。


「おい」


 押し殺した声が響いた。アランはその迫力をいなすように首をかしげる。


「なにか用かな?」

「あんたじゃない、そっちのほうだ」


 フードの奥からの鋭い視線がレモスィドに注がれる。レモスィドはそれを笑みを浮かべて見返した。


「それは面白い。だが、確か人間は顔を見せないのは失礼というんじゃなかったか」


 その言葉に応えて、フードが後ろに下ろされた。見えてきたのは、鮮やかな真紅の髪を頭の後ろで結わえ、顔に無数の傷跡を持った女だった。


「お前は魔族だろう。あたしにはわかるんだよ、お前らの臭いが」

「臭いか、それは初めて聞いた」

「ついてこい、ここは人が多い」

「いいぞ、面白そうだ」


 レモスィドが先に歩き出し、女がその後に続き、さらにアランはその後ろについていった。そして三人は人気のない林の中で立ち止まる。


 それから女は振り向くと、まずはアランを見た。


「最初に聞いておくけど、あんたはそっちの魔族とはどういう関係なんだ」

「昨日戦ったけど、色々あって町を案内していたんだ」


 アランの一言に女はあきれたようにため息をついた。


「つまり、魔族だと知ってて一緒にいるっていうのか。大した神経だ」

「たまに言われるよ」

「まあいい、邪魔をしなければ用はない」


 それから女はケープを取ってその場に投げ捨てた。装備は軽装で、皮でできた胸当てをしているくらいでしかない。


「魔族、お前の名前を聞かせてもらおう」

「人間は先に名乗るものだったと思うが、まあいい。俺はレモスィドだ」

「じゃあ聞かせてやろう。あたしの名はティリス」


 そしてティリスは姿勢を低くして構えた。アランはその姿を見て、その中に精霊の力を感じた。だが、その力はなにか普通とは違い、違和感があった。


 それが何かを確かめる前に、ティリスはレモスィドに向かって飛び出していった。その速度は人間に出せるものではなく、アランでも目で追いきれなかった。


 だが、そのスピードに乗った突きはレモスィドの手で受け止められていた。それでもその体は突きの威力でいくらか押される。


「やるな」


 レモスィドはにやりと笑った。ティリスは軽く舌打ちしてから後ろに下がる。


「お前のその力、妙だな。だが、強力であるのは間違いない」


 レモスィドは自分の手を確かめるように見た。それからおもむろに曲刀を抜く。ティリスはその鞘がついた剣を見て顔をしかめる。


「どういうつもりだ」

「少し本気を出そうというだけだ。鞘は気にするな」

「そうかい!」


 ティリスは再び一直線に突っ込んでいく。レモスィドはそれを避けずに、正面から曲刀で一撃を受けた。素手の突きが打ちつけられたとは思えないような音が響いたが、今度はレモスィドは全く押されずに、突きを曲刀で受け止めている。


 ティリスはそこからさらに下段の回し蹴りを叩き込むが、それもレモスィドは曲刀で受け止める。レモスィドはティリスの足を弾くと、曲刀の柄をその体の中心に向けて突き出した。ティリスはそれをなんとか左腕で防いだが、衝撃で後ろに吹き飛ばされる。


 なんとかそのまま片膝をついて着地したが、ティリスは突きを受けた腕を痛めたらしく、顔を若干しかめた。


「力はあるが、動きが単調だな」


 レモスィドはそう言ってからアランのほうを見た。


「単純な力ならお前のほうが上だが、実力はそっちのアランのほうがあるな」


 ティリスはアランのことを睨みつけるようにして見てから、視線をレモスィドに戻した。


「まだ本気じゃないぜ」


 そしてティリスは自分右腕を真っすぐ前に伸ばした。それが力強く握り締められると同時に、炎がその腕からほとばしった。


 アランはそれを見てエクサを思い出したが、ティリスの炎は圧倒的に強い力と精霊の存在が感じられた。その上、ティリス自身の力も明らかに増大していた。


「ハアッ!」


 今までとは比べものにならない速度でティリスが飛び出し、今度は急激に方向転換を繰り返してその背後から殴りかかった。


 レモスィドはそれも曲刀で受ける。しかし、さっきとは違い、受けきれずにレモスィドは攻撃をいなしながら地面を蹴って横にかわす。標的を失ったティリスはそのまま一直線に地面を削りながらも、無理矢理停止した。


 そこにレモスィドが上から曲刀を振り下ろした。ティリスがそれをなんとか横にかわすと、地面を打った曲刀はその場をえぐり大きな穴を開ける。


 ティリスは大きく跳躍して体勢を立て直す。だが、レモスィドはそこで曲刀を鞘に収めた。


「これ以上やる意味はない。まだ力はあるんだろうが、その動きではな。そっちのアラン達にでも鍛えてもらったらどうだ」


 そう言うとレモスィドは背中を向けてその場から立ち去った。ティリスは歯を食いしばりながらも、レモスィドの言葉には納得していたのか、なにもせずにそれを見送った。それから、構えを解くとアランのほうに顔を向ける。


「アランとかいったな、付き合ってもらうぞ」

「付き合うって、どうするつもりなんだい? えーっと、ティリス、でいいかな」

「呼び方なんて好きにしろ。それよりあの魔族が言ったことだ。強いんだろ、お前と仲間は」

「まあ、強いと思うよ。とりあえずこんなところじゃなんだし、僕達の宿に行こうか」

「そうだな、ちょうどいい」


 ティリスは投げ捨てたケープを拾ってそれを羽織り、先に歩き出したアランの後を追った。


 アランはそれを肩越しにチラリと見ると、その張り詰めたものを感じさせる雰囲気に、かすかにため息をついた。


 しかし、それと同時に、アランはティリスのことに強い興味も持った。

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