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珍客

 アラン達四人は町の外、人気のない林の中に来ていた。ローブの男はてきとうな木によりかかって三人を見回す。


「さて、まずは自己紹介をしようか。僕はファスマイド、そっちのレモスィドと同じように魔族さ」

「ファスマイド? 聞いたことがありますね」


 エリルがつぶやくと、ファスマイドは軽く笑う。


「そう、僕は君達の王様と会ったこともあるからね。最近はちょっとご無沙汰してるけど」

「思い出しました。たしか、伝説の勇者と面識がある魔族がいるという噂を聞いたことがあります」

「よく知ってるね。まあ話は伝わっててもおかしくはないか」

「勇者と共にあった、あの方のことは知っているのですか?」

「ああ知ってるよ、彼女は恐ろしく強かったしね。僕だって怖いくらいだった」

「そうですか」


 エリルは満足げにうなずいてから、アランに目配せをして一歩下がった。ファスマイドはそれを見てからアランに視線を移す。


「アラン君、いや王子と言ったほうがいいかな」

「元王子だから、別に気にする必要はないよ。それより、何をしにきたのか教えてもらいたいな」

「それもそうだね。まあ簡単に言うとノーデルシア王国でおもしろいこと、つまり君のことがあったから、それを見物させてもらおうと思ってね。そうしたらこいつが張り切ってでしゃばってきたわけだど」


 レモスィドは顎を手でかく。


「仕方がないだろう。あれだけ面白そうなことをやってたら手を出さないほうが難しい」

「時と場所を選んでもらいたいね。あんな状況でアラン君が本気を出せるとでも思ってるのかい?」

「それなりの力は出せるだろう。とりあえずはそれで十分だ」

「まったく、困ったものだね」


 ファスマイドは肩をすくめてアランに同意を求めた。だが、アランはそれにはつき合わずに首を横に振る。


「それより、あの人に自分の力を与えた魔族について知りたいんだ。あなた達は何か知っているようだから、教えて欲しい」

「知ってどうするつもりかな?」

「あんなことをする魔族を放っておくわけにはいかない」

「なるほどね。それならわかった、と言いたいところだけど、その魔族に心当たりはあっても、今どこにいるかとか、そういうことはわからないんだよね」


 ファスマイドの言葉に、レモスィドもうなずく。


「そうだな、あいつは用心深い。なかなか自分で何かしようという奴ではないしな。だが、いつまでも隠れているような性格でもない」


 レモスィドはそこで言葉を切り、エリルを見た。


「自分が力を与えた者を倒されたんだ。たぶんお前達に興味を持って、色々しかけてくるだろう。そのうち直接会える」

「そう、だから焦らないでのんびりしてればいいよ」


 レモスィドとファスマイドの言葉を受け、アランは少し考える姿勢をみせた。そして、答えはすぐに出る。


「そういうことなら、むこうがしかけてくるまで待つことにしよう」

「そうか、じゃあ僕は邪魔にならないように見させてもらうとしよう。それじゃあ」


 それだけ言うと、ファスマイドの姿はその場から霞のように姿を消した。レモスィドはそれを見ると軽く舌打ちをしてアランのことを見る。


「俺はお前達の近くにいることにしよう。あいつが出てくるのなら会っておきたいからな」


 そう言ってレモスィドもその場から立ち去ろうとした。


「待ってください」


 だがそれをエリルが止めた。


「先ほどから言っているあいつというのが誰だか、具体的に教えてもらえますか?」

「出てくればわかる。だがそうだな、あいつの名前はフィエンダ。見た目はなよなよしてるが、油断しないことだな。ま、互いに用心しておくことにしようじゃないか」


 レモスィドは今度こそその場から立ち去った。残されたアランとエリルはしばらくの間黙って立っていたが、どちらからということもなく、宿に足を向けた。



 翌朝、宿の食堂に行ったアランを待っていたのは、大量の朝食を自分の前に並べているレモスィドだった。


「よお、意外と早いな」

「ここでなにを?」

「お前達の近くにいると言っただろ。ここが一番都合がいい。それと、俺のことは呼び捨てでかまわないぞ、仲良くやろうじゃないか」

「わかったよ、レモスィド」


 そこでエリルが食堂に入ってきて、アランよりも先にレモスィドの向かい側に座った。


「それより、あなたが信頼できる証拠でも見せてもらいたいですね」


 その隣に座ったアランを見てから、レモスィドは薄く笑う。


「俺はしばらくは手を出すつもりはない。なんなら、この剣を預けておいてもいいぞ」


 レモスィドは剣の鞘をつかんだが、エリルは首を横に振った。


「そんないかにもいわくのありそうなものはいりません。妙な動きをしたらこちらにはいつでも準備があるというのを覚えておいてください」

「それは楽しみだ」


 レモスィドは楽しそうな様子でそう言うと、自分の朝食を片っ端から食べ始めた。アランとエリルもそれぞれのテーブルについて朝食にすることにした。


「それで、今日の予定は」

「私は自警団のほうに行ってきます。色々と面倒なことがあるでしょうから、しばらくかかりますね」

「しばらくっていうと、何日くらいかな?」

「それはわかりません。まあ長くなるのは間違いないので、暇にまかせておかしなことはしないようにしてくださいね」

「大丈夫だよ。もうすぐバーンズ達も帰ってくるし」

「だといいですね。くれぐれもそこの人、いや人ではありませんか、とおかしなことを始めたりしないでください」

「まさか」


 アランは首を横に振ってゆっくりと朝食を食べ始めた。エリルも食べ始めたが、パンを少し食べてからすぐに立ち上がった。


「では、私は出かけてきます」


 エリルはそう言って宿から出て行った。アランはそれを手を振って見送ると朝食を再開する。そして、気がつくとレモスィドが向かい側に座っていた。


「何か用かな」

「ちょっとお前のことを聞きたいと思ってな。旅をしているらしいが、どこから来たんだ」

「あのファスマイドっていうのから聞いてなかったのかい?」

「知らん。俺はお前達人間のことにはそんなに興味がないからな」

「ノーデルシア王国は、知ってるね」

「ああ、それは知ってる」

「僕達はそこから来た。とりあえず言えるのはそれだけだよ」

「そうか、まあ別にどうでもいいことだが。それより、少しつき合えというか、町を案内しろ」

「まあ、町の案内だけならいいか。行こう」


 アランは朝食を切り上げて立ち上がった。同じように立ち上がったレモスィドの顔には笑顔があった。


「楽しみだな。まあ礼はしてやる」

「期待しておくよ」

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