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邪な力

 ロニーは空の巨大な火の玉を立ち止まって見上げていた。


「おい、あれはやばいんじゃないか」


 アランも同じようにして立ち止まり、鋭い視線で空を見ながらうなずいた。


「確かにね。ロニー、君は自分の武器を取ってきておいたほうがいい。剣は得意じゃないんだろ」

「ああ、それもそうだな。で、お前は行くのか?」

「あんなことになってるなら、様子を見に行かないとね」

「気をつけろよ」


 ロニーに見送られ、アランは火の玉の真下に向かって移動し始めた。


 一方、エリルも同じようにその場所を目指していた。その途中、少し焦った様子のレノールと合流した。


「あんた、あれがなんだかわかるか?」

「いいえ。しかし、門番が倒されていたのと関係があるかもしれません。アラン様のほうでも何かあったようですし、急ぎましょう」


 レノールは無言でうなずき、エリルと並んで走り出した。二人が到着してみると、そこにはたくさんの野次馬が外に出てきて空の火の玉を見上げていた。


 それ以外に変わったところはないようだったが、エリルはその場を見回してからレノールに鋭い視線を向ける。


「すぐにこの人達を避難させたほうがいいですよ。あれが落ちてきたりしたら、大変なことになります」

「確かにそうだ。あんたはあのでかいのを頼むよ」

「なんとかしてみましょう」


 レノールはすぐにその場の自警団員を集め、野次馬達をその場から立ち去らせるべく動き出した。エリルはそれを横目で見ながら眼鏡を外すと、魔法槍を組み上げ、火の玉の真下に立った。


 しばらくの間そうしていたが、火の玉は動かず、野次馬だけはほとんど姿を消していた。エリルはその間もずっと気を抜かずに魔法槍を構えたまま、上空をじっと見ている。


 数秒後、上空の火の玉が突然収縮していった。その中心に見えてきたのは一つの人影。


「あれは」


 レノールはわずかに驚きを滲ませた声でつぶやいた。エリルも若干驚いた表情を浮かべている。


「まさか、立場のある人とここで会うとは思いませんでしたね。エクサさん」


 名を呼ばれた人影は、軽く首をかしげてから降下し、エリルの前に立った。


「こんな予定ではなかったんだがな」


 そのつぶやきにレノールが一歩前に出た。


「予定というのは、どういうことかですかね」


 エクサはそれにたいして少し考え込むような仕草をしてから口を開く。


「私の行動はこの町のためだ。そのためなら、なんだってするのはわかっているだろ」

「もちろん。でもその力も、予定というのも知りませんがね」


 レノールは投擲用のナイフを手に取った。だが、エクサはそれを全く無視したあたりを見回す。


「しかし、誰があれを倒したのか。並みの実力でできることとも思えないが」

「あれというのは、魔物かなにかですか?」


 エリルは魔法槍を構えたまま、エクサの側面に移動しながら話しかけた。エクサはそれにも目立った反応をせずにさっきと同じ調子で答える。


「そう、魔物だ。私の力のお披露目として考えていたのだがな。軽い手違いだ」

「では、手違いついでにあなたにその力を与えた者が誰か、聞かせてもらいましょうか」


 エクサは体の向きを変え、エリルと正面から向かい合った。そして、嘲笑を浮かべる。


「知る必要はないな」


 そこでエリルは魔法槍の先端に氷の穂先を出現させた。


「では、少々手荒い方法をとらせてもらいましょう」


 エクサは嘲笑を顔に貼り付けたまま、レノールに視線を送る。


「レノール、お前はどうするんだ?」


 それにたいしてレノールは黙ってナイフを構えた。


「そういうことか。まあいい、この力を試させてもらうとしよう」


 言葉が終わると同時にエクサの右腕が炎に包まれた。そして、一直線にエリルに向かって突進する。腕が振り下ろされたが、エリルはそれを左にステップしてかわした。


 だが、すぐにその足元から細い火柱が噴出した。エリルは体をひねってそれをかわしたが、体勢を崩したところにエクサの右腕が再び襲いかかる。


「くっ!」


 直撃直前になんとか魔法の盾を展開したが、それはせいぜい衝撃を弱める程度でしかない。エリルの体は吹き飛ばされて地面を転がった。


 エクサはさらに追撃をかけようとしたが、そこにレノールがナイフを投げつける。しかし、それは右腕の一振りで弾かれてしまう。レノールはすぐに次のナイフを手にするが、エクサはあっという間に間合いを詰めてきた。


 そして右腕が振り下ろされようとした時、レノールの目の前の地面が一瞬で隆起して壁となった。エクサは腕を止めると、その壁を蹴って一度後ろに下がり、あたりを見回した。壁はすぐにもとの地面に戻る。


「面白い力だな」


 エクサの視線の先、エリルの後ろに地面に片手をついたアランがいた。


「エリル、大丈夫かい」


 声をかけられたエリルは立ち上がり、もう一度魔法槍を構えた。


「遅かったですね。それよりも、あれは私がなんとかしますから、アラン様は周囲に被害がないようにバックアップをお願いします」

「わかった、そっちは任せるよ」


 アランは片手だけでなく両手を地面につけた。エリルはそれを横目で見てから、魔法槍に魔力を集中させる。その手から放電が発生し、先端に集まっていく。


「生かしておくのが面倒ですね」


 エリルは魔法を使い自分の足元で爆発を起こし、その勢いで一気に加速した。エクサも少し反応が遅れたが、右腕の炎をよりいっそう大きくしてそれに向かい突進する。


 二人がぶつかる瞬間、エリルの魔法槍からまるで炎を飲み込むように閃光が走った。そして、交錯したエリルがすぐに振り返ると、エクサの右腕は黒焦げになっていて、ぼろぼろと崩れ始めた。


 だが、エクサが顔色を変えずに左腕で右腕を引きちぎると、すぐに新しい腕が生えてきた。エリルはその光景に舌打ちをする。


「人間辞めてますね、これは。仕方ありません」


 エクサは新しい腕を確かめるように一振りする。すると、そこから周囲に数発の火の玉が放たれた。アランが両手に力を込めると、その火の玉の前全ての地面が隆起し、それを遮る。それから間髪入れずに水が勢いよく湧き出し、火は完全に消えた。


 そこにエリルが踏み込み、魔法槍でエクサの足元を薙ぎ払う。それは後ろにさがりかわされたが、その軌道から爆発が発生し、エクサは体勢を崩される。エリルはその隙に魔法槍の中心を持ち、それを中心から二つに分離させた。


「ファントム」


 つぶやくと同時にその二本を交差させる。そこから青い光が発生し、ロングソードのような形を作った。


 エリルは前傾姿勢でエクサに突っ込んでいく。エクサは両腕に炎をまとわせてそれを迎え撃とうと構えた。しかし、エリルが逆袈裟に振り上げた剣に右腕が切られ、さらにそこからその剣を振り下ろし右腕を完全に切り落とす。そしてそこからさらに一歩踏み出し、左手の剣でエクサの体の中心を貫いた。


 エクサは体を貫いた光の剣をつかもうと左手を動かすが、その動きは途中で止まった。その体からは見るからに力が抜けていき、末端から霧のように消え始めた。


「まさか、そんな」


 呆然としたエクサの声に、エリルは笑みを浮かべた。


「あなたのような魔の力を得た者にこれはよく効くでしょう。せいぜい邪な力を求めたことを後悔することですね」

「違う! 私はあ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 断末魔の叫びを上げ、エクサの体は霧散した。

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