めんどくさいこと
それから三日後、バーンズとレンハルトは自警団と共に町を出発していた。町に残ったアランとエリルだったが、エリルは連日のように休みなく動きまわっていて、アランは暇を持て余していた。
まだ朝だというのにベッドに寝ていたアランは右手の人差し指の指輪をいじくっていた。質屋で見つけた指輪は大地の精霊の力によく馴染んでいたので、いざという時に使えるように精霊の力を仕込んでおいている。
そのまましばらく横になっていたが、それにも飽きたアランは起きて外にでることにした。町は到着した日から特に変わることない様子で、不穏な雰囲気は感じられない。
そうしてアランがうろうろしている頃、エリルは町外れの人気のない場所でレノールと向かい合っていた。
「今夜か明日の早朝あたり、なにかありそうな雰囲気でね。こっちのほうで動くとなにも出てこない可能性もあるし、ここはあんたらに警戒しておいてもらいたいんだけど」
「二名だけでは不安ですか?」
「逆に聞くけど、大丈夫なのかね」
「ああ見えても、アラン様の実力は自警団員が束になってかかってもかなわないほどですよ。もちろん私も劣るものではありませんから、心配はありません」
「すごい自信じゃないか」
「二人では仮に町が大規模に襲撃されたら人手不足ですけどね。そちらでも多少は準備してもらいませんと」
「大規模な襲撃なんかはない。向こうだって魔族と手が結べるまでは隠しておきたいはずだし、それに目的はこの町を襲うためじゃないはずだ」
「町興しですか?」
エリルは軽く笑って見せた。レノールはそれにたいして無表情で頭をかいた。
「魔族なんかと関わったら、ノーデルシア王国が黙ってないじゃないか。あそこの王様は魔族や魔物には容赦ないからね」
「町がこのままでいるためには、今の状態を続けたほうがいいというわけですね」
レノールは黙ってうなずいた。エリルは同意するように軽くうなずき、背を向ける。
「では今晩、またここで落ち合いましょう」
「ああ」
エリルはレノールを残してその場から立ち去った。
そして時刻は昼、アランはこの三日来ている食堂に入っていた。入口近くの席に座ると、すぐに店員が近づいてくる。
「いらっしゃい。今日は何にします?」
「てきとうに、なんかおすすめのもので頼むよ」
「少々お待ちを」
料理が運ばれてくるまでアランは店内を見回す。客はそれなりに入っていてその中には常連の顔も多い。そして、店内で食べる客だけでなく、自宅から鍋を持ってきて料理を買っていく者も多い。
アランの横を一人の鍋を持った少年が通ろうとした時、足がもつれて体勢を崩した。アランはすぐに反応して、左手で鍋を、右手で少年の体を支えた。
「大丈夫かい?」
「は、はい、どうも、ありがとうございます」
「ほら、熱いから気をつけて」
アランは少年を立たせてから、鍋を手渡した。少年は頭を下げると、今度は慎重に店を出て行った。
「大したもんだな、あんた」
アランの向かい側に座っていた男が声をかけてきた。鎧を着て剣を提げている傭兵風のまだ若い男だった。
「別に大したことじゃないよ」
「いいや。ところで、見たところあんたもこの町の人間じゃなさそうだが」
「まあね、ここには旅で立ち寄ったんだよ。そっちは?」
「俺は隊商の護衛でな、商売が終わるまではここでぶらぶらしてるんだ。あんたは?」
「僕のほうもしばらくはここで足止めだな」
「そうかい、俺はロニーだ。よろしくな」
「僕はアランだ」
そうしている間にアランの料理が運ばれたきたので、料金を払った。それからは二人とも黙って料理を食べていたが、しばらくしてロニーが口を開く。
「そういや、最近魔物が出てる道っていうのを知ってるか?」
「まあ、知ってるけど」
「なんでも、それが片付けられたらしい。わざわざそんなことをするなんて、物好きな連中もいるもんだよな」
「確かにね。でも、そのぶん安全になるんだし、いいんじゃないかな」
「そりゃそうだ、感謝しないとな。じゃ、また会おうぜ」
ロニーは立ち上がって外に出て行った。アランは軽く手だけ振ると、自分の食事をゆっくりと終わらせてから、店の外に出た。
「お食事はどうでしたか?」
突然エリルが後ろから声をかけてきた。
「おいしかったよ」
それだけ言ってアランはそのまま歩き続ける。エリルはその横に並ぶと歩調を合わせた。
「今夜から明日の朝までの間に何かが起こるかもしれません。自警団の者も数だけ動けるようですが、基本的には私とアラン様で対応することになりますね」
「二人でなんて、ちょっとめんどくさくないかな」
「仕方ないです。それに、この三日ゆっくり休んでいたんですから、そろそろ働いてもいい頃だとは思いますが」
「わかったよ、そういうことなら今のうちに寝とこう」
「寝すぎないようにしてくださいよ」
「大丈夫さ。エリルのほうこそ、ちゃんと休んでおいたほうがいいと思うけど」
「私は問題ありません。時間になったら宿に迎えに行きますので」
「じゃ、よろしく」
アランは宿に、エリルはそのまま町の外に向かった。エリル事前に調べておいた町に進入しやすそうな場所に到着すると、腰のホルダーから一枚のカードを取り出した。
それから、それを目立たない手近な木に押し付けると、それはその場に貼りついた。エリルはそのカードの中心に指を置く。
「発動」
つぶやくと同時にカードがわずかに震えた。エリルは魔力がちゃんと放出されているのを確認すると、その場を立ち去り、次の場所に向かう。そうして町の周囲に次々とカードを設置していった。
それから時間が経ち、時間は夜。寝ていたアランはエリルに叩き起こされていた。
「寝すぎないようにしてくださいと言いましたが」
「ちゃんと起きたじゃないか。それより行き先は?」
「すぐですよ」
そう言っている間に、二人は昼間にエリルとレノールが会っていた場所に到着した。そこでしばらく待っていると、レノールが静かにやってきた。
「そろってるみたいだね」
エリルはうなずき、口を開く。
「町の周囲で何かあればわかるようにしてあります。外からの場合ですがね」
「町の中はあたし達でやる。あんた達は北門と南門を頼むよ」
「わかりました。アラン様は南を頼みます、私は北門に行きます。何かあったら合図を送りますから、注意しておいてください」
「わかった、注意しておくよ」
三人は別れ、それぞれの持ち場に向かった。