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協力者

 その日の夜、アラン一行は宿の食堂に集まっていた。なぜか五人分の食事を前に、まずはエリルが口を開いた。


「さて、これから来客があると思うのですが、特に緊張する必要はないと思いますから、楽にしていてください」

「来客? 誰かこの町に知り合いでもいるのかい?」


 アランが不思議そうな顔でたずねると、エリルは首を横に振った。


「いいえ、違いますよ。誰の知り合いでもありません。まあ私達に非常に興味を持っている人物ですね」


 アランは黙ったまま、なんとなく宿の出入り口を見た。


 それから少し経って、ドアが開きレノールが入ってきた。入口から数歩のところで立ち止まると食堂内を見回し、アラン達を見ると真っすぐ向かってくる。それに反応してエリルが立ち上がり、レノールをじっと見る。


「初めまして」


 まずはエリルが口を開いた。レノールは少し間をおいてから首だけ曲げるような礼をする。


「こちらこそ。あたしはレノールっていうんだけど、あんた達に興味があってね」

「興味ですか、それならこちらにもありますよ。とりあえず座ったらどうです?」

「待っててくれたわけか。じゃあ遠慮なく」


 レノールは椅子に座ると、その場の全員の顔を見回した。


「なるほど、これは頼もしそうな雰囲気ってやつか」


 そしてレノールはアランの目をじっと見る。


「見たところ、リーダーはそちらさん?」

「まあ、一応そうだよ。僕はアランだ、よろしく。で、そっちがバーンズとレンハルト」


 アランが残りの二人を紹介してから手を差し出すと、レノールはそれを軽く握り返した。


「どうぞよろしく。で、単刀直入に聞きますが、あんたがたは何者ですか?」


 そのレノールの問いに、アランとエリルは顔を見合わせた。それからエリルが口を開く。


「私達はただの旅人ですよ。魔物を倒しながら旅をしているだけです」

「じゃあそのためにわざわざ危険な道を通ってここまで到着したと、物好きなことで。ただの旅人がそんなことをしたりはしないと思うけどもね」

「それなら、私たちはただの旅人じゃないんでしょうね。それで、そろそろあなたが持っている興味というのを教えてもらえますか? いや、その前にあなたの本来の仕事はいいんですか?」

「なんだ、わかってたわけか」


 レノールはため息をついて首を横に振った。


「ま、ばれてるなら言っておくけど、あたしは自警団の所属でね。でもまあ、それより重要なことというか、本来の目的のためには勝手にやらなきゃいけないこともあんの」

「本来の目的っていうのは、いったいなにかな」


 アランがそう言うと、レノールは薄く笑ってみせた。


「自警団なんだから、その名の通りのことでしょ」


 その答えを聞いたアランは少しの間レノールをじっと見てから、うなずく。


「わかった、そういうことならちゃんと話し合おうか。まずは夕食を済ませてからね」


 アランの言葉を合図に食事が始まった。レノールはリラックスした様子でその場の全員を見ながら、料理をてきとうに口に放り込んでいた。


 レノールの見たところ、一見アランはたんなるいいところのぼっちゃんという感じがするが、他の三人から敬意を持たれているのはすぐにわかった。実力は未知数だが、二本の大振りなナイフはおもちゃではないはずだし、他にも何か力があるのは予想できた。


 次にさっきから会話をリードしていたエリルを見る。自分が来るのを予期していたようだし、かなりの切れ者であることは間違いない。丁寧な口調と眼鏡の奥の読めない目、そして見たこともないような武器らしきもの、どうにもよくわからない人物だった。


 そして一行のなかで一番大柄な中年の男、バーンズを見た。外されて立てかけてある大剣は妙な形をしていて、いかにも使い古されている。髪には白いものが目立つが、一行の中では最も体格がよく、まさに歴戦の戦士という雰囲気だった。


 最後はレンハルト。バーンズほどではないががっちりとした体格で、浅黒く精悍な容貌をしている。剣はベルトに、盾は椅子に立てかけてあり、借り物か何かなのか、それはどちらもあまり馴染んでいないように見えた。雰囲気もあまり馴染んでいない感じなので、恐らく途中から加わったのだろうと見当をつけた。


 そうしているうちに食事は終わり、まずエリルが口を開いた。


「では、あなたの用件を詳しく聞かせてもらう前に場所を変えましょうか、レノールさん」


 そうして立ち上がると、五人でアランとレノールの部屋に向かい、思い思いの場所に陣取った。椅子に座ったレノールは四人を見回し、しゃべり始めた。


「まずはあらためて自己紹介するけど、あたしはレノール。この町の自警団で主に斥候とかをやってるんだけど、今回はあんたらを調べろって言われたわけ」

「それで、なぜまともに調べずにこんなことを?」

「簡単に言うと、最近うちの自警団に妙な動きがあってね。それを調べるために外部の連中で力があるのを探してたんだけど、やばい道を通ってきたっていうあんたらなら、十分な力があるだろうと思ったってわけだ。ま、あとは人物だからそれを確認してやろうとここに来たわけ」


 アラン達四人は黙って話の続きを待つ。レノールはそこから声のトーンを若干落とした。


「実は自警団の上のほうに魔族とつながりを持とうとしているっていう噂があってね。確証もないし、わかったところで手のうちようもないんで、静観してたんだけど、ちょうどあんたらのことを調べろっていう仕事がきてね」

「それで動こうと思ったわけですか。中々悪くない勘ですね」

「まあそういうこと。で、そちらの返答は?」


 エリルは返答を促すようにアランに顔を向けた。アランはそれを受けて少し考える様子を見せてから、口を開いた。


「魔族と聞いたら黙って見過ごすわけにはいかないね。力を貸すよ」


 レノールはその答えを聞き、しばらくしてから立ち上がった。


「礼を言うよ、アランさん。ところで、魔物の件を確認しに行くのはどちらさん?」


 バーンズがレンハルトを見てうなずいて見せた。


「それは私とレンハルトで行く。何か注意しておくようなことはあるのか?」

「別に、普通以上の警戒は必要ないだろうね。うちのほうからもちゃんとしたのがつくだろうから、心配はいらない」


 そこまで言ってレノールは立ち上がった。


「じゃ、あたしはこれで。また明日来るよ」

「ええ、じっくりやっていきましょうか」


 エリルとレノールは視線を交わし、それから人は並んで部屋から出て行った。アランはそれを見送ってため息をつく。


「うまくいくような、なんだかめんどくさいことになるような」


 それにバーンズは笑って応じる。


「どちらにせよ、エリルならば必ず何かの成果をあげるでしょう。できれば我々が戻るまでは待っていてもらいところですが」

「エリルのことだから、やるとなれば自分だけでもやるだろうけどね」

「そうですね。できるだけ早く戻ってこられるようにします」

「よろしく。レンハルトも気をつけて頼むよ」

「はい、アランさんも気をつけてください」


 それからバーンズとレンハルトは自分達の部屋に戻り、アランはエリルの帰りを待たずにさっさと寝ることにした。

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