自警団
宿ではアランとエリル、バーンズとレンハルトの二組にわかれて部屋をとっていた。自分達の部屋に入ったアランは早速ベッドに横になる。
「あーあ、これからどうしようか」
「まだ昼ですから、起きて行動するのが一番ですよ」
「行動って、具体的にはなにをするつもりだい」
「とりあえずこの町の自警団と接触するのがいいですね。魔物の情報があるのはそこでしょうし、魔物を相手にするなら一応話を通しておいたほうがいいでしょう」
「協力でもとりつけるの?」
「いいえ、黙って見ていてくれるようにするだけです。変な横槍が入ると面倒くさいですからね」
「なるほどね、じゃあそれは」
「とりあえず私が行ってきます」
「そういうことならよろしく。僕はここで待ってるよ」
そう言ってアランはもっとリラックスした体勢になった。エリルはため息をついて眼鏡の位置を直した。
「いいえ、アラン様はこの町のことをよく知っておいてください。しばらくここに滞在することになるんですからね。それと、できれば住人に名前でも売っておいてください、評判がよければ色々便利ですし」
「評判をよくするって、一体何をすれば?」
「思うように行動すればいいんですよ。アラン様なら大丈夫です。すぐに始めてください」
今度はアランがため息をついて起き上がった。
「わかったよ。夕方まで町を散歩してくる」
部屋を出たアランは、隣の部屋をノックしてドアを開ける。中ではバーンズとレンハルトがテーブルについて何かを話していた。アランが入ってきたのを確認するとバーンズは立ち上がってそれを迎えた。
「これから町を夕方までぶらつくんだけど、どっちか付き合うかい?」
「そういうことでしたら、私はまた外を見てきますので、レンハルトと一緒に行ってはどうでしょう」
「さっきはすぐに別れちゃったし、そうしようか」
「わかりました、アラン殿」
レンハルトは剣と盾を身につけた。二人はバーンズに見送られて部屋を出ると、そのまま宿を出て町に繰り出していった。
それを見送ったエリルは素早く身支度を整え、自分も宿から出た。向かう先はこの町の自警団の本部。ほぼ町の中心に位置している大きな建物は、まさにこの町の象徴と言えるような雰囲気で、住人からすれば頼りがいのあるものに見えるはずのものだった。
エリルはその建物をじっくり見張れる位置を確保すると、できるだけ目立たないようにして監視を開始した。
しばらくそうしていると、巡回が戻ってきて、新しい巡回の者達が出発した。エリルはその後を距離をとってつけ始める。
巡回は町の中を決められた順路でまわっていて、特に事件も何も起こらない。エリルはそれでも飽きずに根気よく巡回の後をつける。その間に巡回の一挙手一投足から、住人の反応まであますことなく観察した。
巡回は真面目に行われていて、住民達の反応も悪くない。あてにされている様子からは、自警団は統率がとれていて、実力もあるのが見てとれた。だが、どこからか厳しい視線が注がれているような気もした。
とりあえずはそれは頭に入れておくに止め、エリルは自警団の本部に足を向ける。そして建物の中に入り、手近な団員をつかまえた。
「責任者と会いたいのですが」
「責任者って、あんたは?」
「旅の者ですが、道中で魔物と遭遇したので、そのことを報告しようと思いまして」
「魔物? それならちょっと待っててくれ」
団員はエリルをその場に残して奥のほうに行った。しばらくして戻ってくると、無言でエリルに手招きをする。エリルはそれについていき、こじんまりとした二階の部屋に通された。
そこには机について仕事をしている、一人の中年の男の姿があった。男は顔を上げただけでエリルを迎えた。
「私がここの責任者のエクサだ。魔物と遭遇したということだが、詳しい話を聞かせてもらいたい」
エリルはまず椅子に座ってから、十分に間を取って口を開く。
「初めまして、私はエリルといいます。単刀直入に言いますと、私達は四人で旅をしているのですが、諸事情で魔物が出ると噂の道を通って来て、立ち寄った村で魔物と遭遇しました」
「魔物が出る道か、ずいぶん無茶をしたようだな。それで、無事ということは片付けてきた、ということでいいのか?」
「ええ、村付近の魔物と、道の付近の魔物、両方を片付けてきました」
「それはありがたい。そういうことなら、すぐに人をやって確認させよう。そちらのうちの誰かにも同行してもらいたいのだが、どうだ?」
「もちろんいいですよ、明日にでも出発しましょうか?」
「いや、こちらにも準備がある。三日後に出発ということでどうだ?」
「いいですよ、では三日後に。ああ、それから私達の宿の場所も教えておきましょう」
エリルはエクサに宿を教えてから立ち上がった。
「では、今日はこれで失礼します」
そう言ってエリルが部屋から出て行くと、エクサは立ち上がって人を呼んだ。そうするとエリルと似たような年齢の短髪の女が部屋に入ってきた。
「レノール、調べておいてもらいことがある」
「今度はなんです?」
レノールと呼ばれた女は面倒くさそうな表情で投げやりな返事をした。
「あの魔物が出るという噂があった道を通ってきたという者がここに来ていた。魔物を片付けたということは三日後に確認するが、その一行というのは気になる」
「だからそいつらを調べろ、ってことですか」
「そうだ。怪しい者ではないかどうか、すぐに調べてくるんだ」
「了解。でも、さっきの女ならそこですれ違いましたけど、あれはなんかやばそうですよ。まあ、なんとなくっていう勘ですけど」
「お前の勘なら当るかもしれんな、慎重にいけ。宿はここだ」
「はいはい。てきとうにやってきます」
レノールはエクサの差し出した紙を受け取ると頭をかきながら部屋を出た。そのまま自警団の本部を出ると、まっすぐにアラン達が滞在している宿に向かう。
そして、レノールは宿にそのまま入っていき、アランの部屋に向かった。部屋をノックしてみたが当然反応はなく、隣の部屋もノックしたが、そこも反応がない。レノールは軽く首をかしげてから、その場を立ち去って外に出た。
「まあ、夜ならいるはずか。品定めはそれからでも遅かない」
そうつぶやいてからレノールは町の中に姿を消した。そして、それを物陰から見ていたエリルは珍しいものを見るような表情でそれを見送った。