転生魔法学園記
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【転生魔法学園記】~女神たちの世界で俺だけが男!~
全24話 完全版
■登場人物一覧(全員)
【主人公】
・ライト・アシュトン(15歳)
前世は三百年生きた世界最強の魔法使い”アルバート・クロノス”。
金髪金瞳の整った顔立ち。無表情クールだが実は面倒見がよく、
前世の孤独から「今世は誰かのそばにいたい」と密かに思っている。
使い魔は白フクロウのフロスト。
【第一期ヒロイン(既存5人)】
・シャルロット・エルヴィア(15歳)…第三王女。桜色の髪。天真爛漫。ライトを「先生」と呼ぶ。
・レイア・ヴァルテ(15歳)…首席生徒。黒髪紫瞳。クールなライバル。先天性魔力症を抱える。
・メル・フォーゲル(15歳)…図書館の主。茶色癖毛。天然魔法理論オタク。よく寝る。
・アリア・クロード(16歳)…生徒会長。銀髪三つ編み。腹黒策士。いつもにこにこ。
・ルナ・ベルフォート(15歳)…騎士家の娘。赤茶ショートヘア。ツンデレ魔法剣士志望。
【第二期ヒロイン(新登場6人)】
・エリス・サンローゼ(15歳)…転入生。炎の国・サンローゼ王国の王女。赤い長髪と赤い瞳。
気性が激しく勝気。前巻の「紅蓮の魔女」本人。トーナメントで負けてライトに弟子入りを志願。
「あなたに負けたなら、あなたに勝つまで側にいてやるわ」が口癖。
・フィア・ルナリア(16歳)…学園の保健医。水色の長い髪と穏やかな青い瞳。
二十歳に見えるが実は百年以上生きるエルフの半血族。
温和で包容力があり、生徒たちの「お姉さん」的存在。
前世のライト(アルバート)を知っている唯一の存在。
・ソフィア・グレイシア(14歳)…氷の使い手。白銀の髪と淡い水色の瞳。無口で感情が乏しい。
学園の特待生として飛び級入学した天才。実は孤児で魔法しか居場所がなかった。
ライトに「あなたは私と同じ目をしている」と言われてから態度が変わり始める。
・リナ・マーシュ(15歳)…庶民出身の料理魔法使い。栗色のポニーテール。明るい茶色の瞳。
魔法で料理を作ることに特化した珍しい才能の持ち主。「戦闘向きじゃないから」と
コンプレックスを持っていたが、ライトに「魔法に優劣はない」と言われて救われる。
食事担当で頻繁にライトに手料理を持ってくる。
・ミラ・シェイド(17歳)…二年生の先輩。黒と紫のグラデーションの髪。神秘的な金の瞳。
闇魔法の使い手で学園の「禁忌の使い手」と恐れられているが本人は至って普通。
「怖い先輩」キャラだが実は猫好きで乙女ゲーム好きのギャップ萌えキャラ。
ライトに闇魔法を堂々と見せられ「初めて怖がらない人に会った」と懐く。
・ユイ・ハクレン(15歳)…東方の国・白蓮国からの留学生。黒髪を高い位置で結んだ凛とした少女。
刀と魔法を組み合わせた「魔刀術」の使い手。礼儀正しく真面目だが、
初めて見る西洋文化に毎回驚いてリアクションが大きい。ライトの刀の扱いを見て「師と認める」。
【使い魔】
・フロスト…白フクロウ。前世から仕えている毒舌ベテラン。ライトの恋愛事情を逐一コメントする。
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第一章 入学編
(第1話~第4話)
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◆第1話「世界最強、転生して女の子だらけの学園に入学する」
十五年後。エルヴィア王国の首都、マジカルクロス。
石畳の坂道を、金髪の少年が鼻歌を歌いながら歩いていた。
身長は百七十センチ超え、整った顔立ち、涼しげな金の瞳。その肩には小さな使い魔――白いフクロウのフロストが止まっている。
「フロスト、明日からいよいよ王立魔法学園だぞ」
《ホウ。ご主人様が学校とは、三百年ぶりでございますな》
「前世では自分が学園を作る側だったからな。生徒として入るのは初めてだ」
ライト・アシュトンは十五歳。
エルヴィア王国が誇る最高学府、“星詠み魔法学園”に今年度から入学が決まっている。
この学園は五百年の歴史を持つ名門だが、女性しか入学を認めていなかった。理由は単純――この世界では、女性しか魔法が使えないからだ。
ところがライトだけが例外として、男性でありながら膨大な魔力を持って生まれた。
「まあ、学園に行けば魔法の勉強ができる。それだけで十分だ」
《ご主人様は相変わらず研究馬鹿でございますな》
「前世から変わらん。……ただ、今世はモテたいとも思っているが」
《それはまた欲張りな》
フロストが呆れたように羽を広げた時だった。
ドシャアアアァ!!
「きゃあああッ!!」
「うわっ!?」
角を曲がった瞬間、頭上から何かが落ちてきた。
ライトは咄嗟に重力操作を発動し、落下してきた”何か”を両腕で受け止めた。
……人だった。
ふわふわとした桜色の長い髪。大きな翡翠色の瞳がぱちぱちと瞬いている。上品な紺色のドレスを着た美少女。
「あ……あの……」
「ん?」
「……おろしてもらえますか? お姫様抱っこされてます、私」
沈黙が三秒続いた。
「すまん」
ライトが我に返って彼女を立たせると、少女の顔が真っ赤に染まっていた。
「ご、ごめんなさい! 上の窓から転んで……! 助けてくれてありがとうございます!」
「魔法は使えないのか? 浮遊術くらいなら初歩だが」
「それが……私、魔法の制御が苦手で。魔力量はあるんですけど、緊張するとうまく使えなくて……」
「基礎訓練が足りていないな。根の部分から魔力回路を作り直せば一ヶ月で安定する」
「え……?」
「まあ、縁があれば教えてやる」
「あの、お名前は!?」
「ライト・アシュトン」
「私はシャルロット・エルヴィア……です!」
ライトは足を止めた。
エルヴィア――それはこの国の王家の名前だった。
《ご主人様、姫君をお姫様抱っこされましたな》
「……知らなかった」
《初日から大物でございます》
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翌朝、王立魔法学園の正門前は新入生たちで溢れていた。全員女性。
ライトが正門をくぐった瞬間、広場全体がざわめいた。
「あの人が噂の……男の魔法使い?」
「思ったより整ってるか……?」
「シャル!!」
凛とした声が響き、艶のある黒髪を高く結い上げた少女がずかずかと歩いてきた。切れ長の紫の瞳、すらりとした長身。
「私はレイア・ヴァルテ。首席入学者よ。あなたが本当に魔法を使えるか証明してもらうわ」
「好戦的だな」
ライトはゆっくりと右手を持ち上げ、指を一本立てた。
次の瞬間、直径二十メートルの魔法陣が広場に静かに展開された。七層構造、古代エルフの紋様を組み込んだ複合術式――それが朝の光を受けて金色に輝いた。
「っ……! これは……古代語の術式? エルフ系、ドワーフ系、神聖系が一つの陣に……」
「統一魔法理論を使えば可能だ」
「そんなものは百年前に否定されてる」
「論文の穴を塞いで再構築した。やってみるか? 説明に三時間かかるが」
長い沈黙の後、レイアは言った。
「……面白いことを言う人ね。追いかける価値がありそう」
そうして入学式が始まった。
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◆第2話「図書館の住人と本棚崩壊事件」
入学から三日後、ライトは学園図書館を訪れた。
蔵書量は前世の帝国図書館に及ばないが、それでも充実している。古代魔法書のコーナーを探していると、一番奥の棚の前に、床に直接座って本を読んでいる少女を見つけた。
ふわふわした茶色の癖毛、眠そうな翡翠の目。膝の上に本が五冊積まれている。
「……そこの席、使っていいか」
「……どうぞ」
返事だけして、少女は全く顔を上げなかった。
ライトが隣に座って古代魔法書を開くと、十分後に少女がようやく顔を上げた。
「……あの」
「ん?」
「その本の第三章の解釈、間違ってます」
ライトは少し驚いた。その箇所は現代の魔法学者の間でも解釈が分かれている難解な部分だ。
「根拠は?」
「著者が別の論文で使ってる術式記号の体系が違うんです。第三章だけ古エルフ語の第二方言を混ぜてて、現代訳だと意味がずれる。正しく読むと”魔力の収束”じゃなくて”魔力の拡散と再集約”なんです」
ライトは思わず本を閉じて少女を見た。
「……名前は」
「メル・フォーゲルです。……あなた、ライトさんですよね。噂の」
「そうだ。お前、なかなか面白い解釈をする」
メルの眠そうな目が少しだけ輝いた。
「本当ですか? 先生たちは”面白い着眼点だけど根拠が弱い”って言うんですけど」
「根拠は十分だ。俺も同じ解釈をしていた」
「……!」
メルがぱっと顔を上げた。それから同じ本を手に取って「じゃあ第七章も聞いてもらえますか、私の解釈が」と身を乗り出してきた。
二人で同じ本を覗き込む。顔が近くなる。
メルが動こうとして椅子から落ちた。ライトが咄嗟に掴んだ。本棚にもたれかかった。本棚が倒れた。ドミノ式に三列が倒れた。
本の雪崩の中で、ライトとメルは床に転がった。
メルがライトの上に乗っていた。
二人の目が合った。
「…………」
「…………」
メルの顔が、耳の先まで真っ赤になった。
「……本棚、直します……」
「そうしよう」
司書の先生が飛んでくるまでの五秒間が、二人にとって永遠のように感じられた。
その日からメルはライトの隣の席を「定位置」にした。本棚には二度と近づかない距離で。
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◆第3話「生徒会長の罠と騎士家の娘」
入学一週間後、ライトは生徒会室に呼ばれた。
「はじめまして、ライトくん♪ 生徒会長のアリア・クロードよ。よろしくね♪」
銀髪を三つ編みにした少女が、満面の笑みで立っていた。笑顔が完璧すぎて逆に怖い。
「……何の用だ」
「ご挨拶ね。ただ、うちの学園で初めての男子生徒なんだから、少しお話がしたくて♪」
「正直に言え。何を企んでいる」
アリアの笑顔が一瞬だけ固まった。それからまた笑った。今度は少しだけ本物の笑みが混じっていた。
「……直接的な人ね。好きよ、そういう人。じゃあ正直に言うわ。あなたを学園の広報に使いたいの」
「断る」
「あら、理由を聞く前に?」
「どうせ男の魔法使いを珍しがって見物客を集めたいんだろう。俺はサーカスの見世物じゃない」
アリアは少し考えてから言った。
「……一つだけ提案がある。年に一度のマジカルトーナメントに出てくれたら、学園での特別研究室の使用権を付与する。二十四時間好きに使っていい個人の研究スペース」
ライトは黙った。
研究室は欲しかった。
「……考える」
「よかった♪ じゃあ前向きに検討してね♪」
(この生徒会長、絶対に腹黒い)
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その日の午後、鍛錬場を使おうとしたライトに、赤茶色のショートヘアの少女が立ちふさがった。
「お前が噂の男か。男のくせに魔法使いとは笑わせる!」
「……誰だ」
「ルナ・ベルフォート! 騎士家の娘にして魔法剣士志望! お前に勝負を申し込む!」
「断る。理由もなく戦う趣味はない」
「男が魔法を使うのが気に入らないのよ! この世界は女が守るものって決まってる! お前みたいな例外が来ると秩序が乱れる!」
「……それはお前の都合だ」
「なんですって!?」
「お前が不満なのは、女性だけが魔法を使えるという事実が自分のアイデンティティになっていたからだろう。それが崩れるのが怖いんだ。俺と戦うのは感情の問題で、論理の問題じゃない」
ルナの顔が赤くなった。
「……うるさい! とにかく戦え!」
「わかった」
ライトが魔力で作った壁でルナの剣を止め、無詠唱で拘束魔法をかけた。三秒で終了。
ルナは地面に座り込んだまま、しばらく黙っていた。
「……どうやった、それ」
「無詠唱の拘束術だ。魔力の密度を局所的に上げて空気を固める」
「……そんなの、聞いたことない」
「現代魔法にはない技術だからな」
また沈黙。
「……教えてほしい」
「弟子入りか?」
「ちっ、違う!! ちょっと相談に乗ってほしいだけ!!」
「……好きに呼べ」
ルナはそっぽを向いたまま「……ありがとう」とぼそっと言った。
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◆第4話「王女の涙と星空の約束」
入学から三ヶ月が経ったある夜。
ライトは中庭で鍛錬をしていると、噴水の縁に座って夜空を見上げているシャルを見つけた。
「こんな時間に何をしている」
「……ライト先生」
シャルの目が赤かった。
「どうした」
「……何でもないです」
「嘘だ」
シャルは少し黙って、噴水の水面に視線を落とした。
「お父様から手紙が来て。私、婚約者が決まったって……」
「……そうか」
「まだ十五歳なのに。王女だから、仕方ないんですけど」
ライトは隣に座った。
「嫌か?」
「……会ったこともない人ですよ。怖くないって言ったら嘘になります」
「私、魔法が好きなんです。でも……お妃様になったら魔法なんて使えないじゃないですか。王妃は魔法使いじゃいけないって、昔から決まってるから」
「誰が決めた」
「……え?」
「百二十年前の旧王法だ。その時代は魔法使いの貴族が政治に口を出しすぎるのを防ぐために作られた法律で、現代では形骸化している。王妃が魔法を使うことへの直接的な禁止規定は存在しない」
「え……そうなんですか?」
「法律の解釈は弁護士に確認しろ。俺は魔法使いだから断言はできない」
シャルはくすっと笑った。
「ライト先生、変なところで律儀ですね」
「……三百年生きて、死ぬ間際に思ったのは”もっと誰かのそばにいればよかった”という事だった。研究も魔法も大切だ。だが……隣に誰かがいる時間の方が、たぶん価値がある」
「……先生」
「だからお前が泣いている時に放っておけない」
シャルは静かに、泣いた。声も出さずに、ただ涙が溢れた。
「……私、頑張ってみます。婚約のことも、魔法のことも。全部諦めないで」
「そうしろ」
二人は月が中天に上るまで、そこに座っていた。
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第二章 深まる絆編
(第5話~第8話)
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◆第5話「温泉合宿と眠れる魔法理論家」
入学から一ヶ月後。学園行事「魔力回復合宿」が山奥の保養地で開催された。
温泉に魔力が含まれており、三日間浸かると魔力の器が広がるという。
「一応、時間をずらして男女で入れ替えにする予定ですので」
アリアがにこにこしながら説明した。ライトは頷いた。
夜の九時。ライトが脱衣所に入ると、明かりがついていた。
(もう俺の時間のはずだが)
恐る恐る入ると――
霧のような湯気の中、白い背中が見えた。湯に浸かったまま、壁に背を向けて眠っていた。
茶色の癖毛がお湯の中でふわふわしている。メルだった。
(……本当に温泉の中で寝てるのか)
ライトは即座に目を逸らし、バスタオルを魔法で浮かせてメルの肩にかけると声をかけた。
「おい。起きろ」
「……んあ……」
「温泉で溺れるぞ」
「……溺れてません……ちゃんと底に足が……」
「起きてから言え」
むにゃむにゃとメルが目を開けた。そして自分の状況を確認し――
「――ふぎゃあああああッ!!」
温泉から飛び出したメルは湯気の中でタオルを引っ摑み、風呂場の壁を激しく叩いた。
「みたああああ!?みましたかああああ!?」
「何も見ていない。目を逸らした」
「みてないですかああああ!?」
「見ていない。誓う」
「どの程度誓えますかああああ!?」
「神かけて」
十秒の沈黙。
「……信じます」
メルはぽつりと言った。
「……本読んでたら眠くなって……時間忘れてました……ごめんなさい」
「俺も確認不足だった。後で扉に鍵をかける仕組みを作る」
「……ありがとう、ございます」
翌日、メルはライトを見るたびに顔を赤くして逃げ回った。
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二日目の朝、朝食の時間にリナ・マーシュという少女がライトのテーブルに大量の料理を持ってきた。
「はい、どうぞ! 私が作りました!」
栗色のポニーテール、明るい茶色の瞳の少女が元気いっぱいに言った。
「……誰だ」
「リナ・マーシュです! ライトさんのこと、前から気になってて。私、料理魔法が得意なんですけど、戦闘系じゃないからって馬鹿にされることが多くて……ライトさんはどう思いますか?」
ライトは料理を一口食べた。
「……うまい」
「え?」
「魔力が料理に均一に染み込んでいる。これは相当な制御技術だ。戦闘魔法より精密さが求められる分野もある。馬鹿にするやつはただの無知だ」
リナが固まった。
それから、ぽろっと泣いた。
「……ありがとう、ございます。そう言ってもらえたの、初めてで」
「事実を言っただけだ」
「それでも、ありがとうございます! これからも食事作らせてください! 嫌じゃなければ!」
「……断る理由がない」
その日からリナは毎朝ライトの朝食を作るようになった。
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◆第6話「洗濯魔法の悲劇と闇の先輩」
ある晴れた午後、ライトが中庭で練習をしていると上から何かが降ってきた。
ふわり。顔に張り付く。手で取って確認する。
白くて小さくてレースがついていた。
「――!?!?」
上を見ると、洗濯魔法の練習をしていたシャルが青ざめた顔でバルコニーから身を乗り出していた。
「あ……あ……あわわわわ……」
「持ってくる」
「来なくていいいいいいいいいい!!!!!」
ライトは魔法でそれを浮かせてバルコニーに送り返した。シャルは数分間バルコニーから出てこなかった。
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その夜、ライトが廊下を歩いていると、暗い角から声をかけられた。
「……あなたが、ライト・アシュトン?」
振り向くと、黒と紫のグラデーションの髪を持つ少女が壁に寄りかかっていた。神秘的な金の瞳が夜の廊下でぼうっと光っている。
「……誰だ」
「ミラ・シェイド。二年生よ。闇魔法の使い手で、みんな私のことを怖がってる。あなたは怖くない?」
「なぜ怖がる必要がある」
「闇魔法は禁忌に近い魔法だから」
「禁忌に指定されてるのは応用の一部だ。闇魔法の本質は光魔法と同じく”エネルギーの操作”だ。闇だから悪というのは思い込みだ」
ミラが目を丸くした。
「……本当に怖くないのね」
「お前が何かしてくる気配もないしな」
「……初めてよ、そんなこと言う人。みんな私のことを遠巻きにして」
「それはお前じゃなくて周りの問題だ。気にするな」
ミラはしばらく黙っていた。それからぼそっと言った。
「……猫、飼ってるんだけど。見る?」
「好きに見せろ」
ミラの部屋には黒猫が三匹いた。ライトが近づくと全員懐いた。
「あなた、猫に好かれてる」
「前世も好かれた」
「……ずっとそばにいていい?」
「猫が?」
「……私が」
ライトはフロストを見た。フロストは羽を広げて何も言わなかった。
「好きにしろ」
その夜からミラはライトの後ろを黒猫と一緒についてくるようになった。
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◆第7話「レイアの秘密と古代魔法医術」
入学から二ヶ月後のある日。
ライトはレイアが鍛錬中に右手を押さえるのを何度も目にしていた。
「右手の魔力流が乱れている。いつからだ」
「……何でもないわ」
「嘘だ」
「あなたに関係ない」
「ある」
レイアが振り向いた。
「なぜ」
「同じ魔法使いだからだ。放っておけない」
長い沈黙の後、レイアは言った。
「……魔力症よ。先天性の。放置すれば魔法が使えなくなる」
「治療は」
「高い。家が没落しかけているから……払えない」
「治し方は知っている。古代の魔法医術だ。前世の記憶で知っている」
「……なぜそこまでしてくれるの」
「弟子を見殺しにしたくない」
「私はあなたの弟子じゃない」
「なりたいなら歓迎する」
また沈黙。
「……考えてみる」
「その間に右手が悪化したら困る。応急処置だけ受けろ」
ライトは静かにレイアの右手を取った。魔力を流し込んで、乱れた流れを整えていく。
レイアは何も言わなかった。ただ、顔を少しだけ俯けていた。
「……温かい」
「魔力はそういうものだ」
「……あなたのは特に」
それはとても小さな声だったので、ライトには聞こえなかった――ということにした。
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◆第8話「紅蓮の魔女、転入してくる」
二学期の始業日。
ホームルームの扉が勢いよく開いて、赤い長髪の少女が入ってきた。
「転入生のエリス・サンローゼよ。サンローゼ王国から来たわ。よろしく」
赤い瞳がまっすぐライトを見た。
「あなたに負けたから来たの。負けたままで終われないから」
クラス中がざわめいた。
「……あのトーナメントの」
「そう。紅蓮の魔女よ。本名エリス」
ライトは少し考えてから言った。
「何をしに来た」
「修行よ。あなたに勝つまで、ここにいる」
「俺を師として認めるということか」
「師なんて認めてない。ただライバルとして追いかける」
「……勝手にしろ」
「ええ、そうするわ」
エリスはライトの隣の席に堂々と座った。
シャルが「ライト先生、あの人はなんですか」と小声で聞いた。
「前のトーナメントで戦った相手だ」
「あんなにきれいな人……先生、また面倒なことになりそうですね」
「……そうかもしれない」
《ご主人様のハーレムが拡大中でございます》
「うるさい」
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第三章 新たな出会い編
(第9話~第12話)
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◆第9話「氷の天才と孤独の共鳴」
二学期の最初の週に、飛び級で入学した新入生がいると噂になった。
ソフィア・グレイシア。十四歳。白銀の髪、淡い水色の瞳。感情の起伏がなく、まるで氷のような少女だ。
飛び級というだけあって魔法の腕は折り紙つき。授業中も一人黙々と魔法を行使し、他の生徒と一切話さない。
ライトはある昼休みに、校舎裏で一人練習しているソフィアを見つけた。
練習内容は氷の彫刻を作ることだった。繊細な氷の薔薇が、無表情の少女の指先から次々と生まれていく。
「……上手い」
ソフィアが振り向いた。警戒した目だった。
「……何の用ですか」
「通りかかっただけだ。邪魔するつもりはない」
しばらく沈黙が続いた。ソフィアが視線を戻して練習を再開する。
ライトは近くの石に座って、黙って見ていた。
十分後、ソフィアが言った。
「……なぜまだいるんですか」
「綺麗だから見ていた。嫌だったか」
「……別に」
また沈黙。
「……あなたは、ライト・アシュトンですか」
「そうだ」
「前世の記憶がある人」
「ある」
ソフィアが細い指で新しい氷の薔薇を作りながら、静かに言った。
「……私、幼い頃に家族を亡くしました。魔法の暴発事故で。それから孤児院で育って……魔法しか、自分の居場所がなかった。だから魔法だけ磨いた。そうしたら飛び級になって、ここに来た。でも……誰とも話せない。怖くて」
「怖い?」
「また、誰かを傷つけるかもしれないから。私の魔法は強すぎて、感情が乱れると暴発する。だから感情を消した。そうしたら誰も近づかなくなった」
ライトはしばらく考えた。
「俺も似たようなものだ。三百年一人で生きた。誰かに近づくのが怖かった」
「……でも今は」
「今は違う。怖くてもそばにいる方がいいと思った」
ソフィアが初めて、ほんのわずかに表情を動かした。
「……どうすれば、そう思えますか」
「誰かに居場所をもらうことだ。……俺でよければ、ここを居場所にしていい」
長い沈黙の後、ソフィアは氷の薔薇を一輪、ライトに差し出した。
「……一つ、あげます。溶けないように魔力をかけてあります」
「ありがとう」
「……どういたしまして」
それが、ソフィアが誰かに微笑んだ、三年ぶりの瞬間だった。
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◆第10話「東方の剣士と魔刀術の秘密」
二学期の半ば、東方の国・白蓮国からの留学生が学園に現れた。
ユイ・ハクレンは黒髪を高い位置で結んだ、凛とした佇まいの少女だ。背中には細長い刀を背負っている。
「失礼します。ライト・アシュトン殿はどちらでしょうか」
図書館で調べ物をしていたライトに、ユイが丁寧にお辞儀をした。
「俺だが。何の用だ」
「白蓮国より参りました、ユイ・ハクレンと申します。魔刀術の修行のためにこの国に参りましたが……あなたの戦い方を、遠くから拝見しました。あれは、白蓮国の古代魔刀術に似た動きでした。どこでお学びになりましたか?」
「前世の記憶だ」
ユイが目を丸くした。
「前世……あなたは白蓮国の術をご存知で?」
「大陸統一魔法理論を作る過程で、東方の術式を研究した。白蓮国の古代秘法は当時の俺が解析した」
「――!」
ユイが深々と頭を下げた。
「では……師と仰がせてもらえますか! あなたは我が国の先人の技を現代に受け継ぐ者。ならばあなたこそが私の目指す境地を知る方!」
「そこまで大げさにしなくていい。俺はただ勉強したかっただけだ」
「東方では、技を受け継ぐ者は師弟の縁があると言います。この出会いは縁です」
「……好きにしろ。ただし師という言い方はやめてくれ。一緒に研究する仲間だと思ってくれ」
「……では。ライト殿」
「ライトでいい」
「……ライト。よろしくお願いします」
ユイはにっこりと微笑んだ。普段の凛々しい表情とのギャップで、周囲の女子たちが「可愛い!」とざわめいた。
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その夜の練習中に事件が起きた。
ユイが魔刀術の型を見せているとき、魔力が暴走してライトの袖が斬れた。
「も、申し訳ありません! 魔力の制御が!」
「大丈夫だ。傷はない」
「し、しかし……お召し物が……!」
ユイの顔が見る見るうちに赤くなった。
「あの……上半身が……少し……」
「ああ」
ライトは淡々と修復魔法で衣服を直した。
「なおしました」
「わ、私は……大変なことを……! 武人として失格です……!」
「気にしなくていい。次は魔力の流し方を調整しよう」
「ライト……あなたは何故そんなに動じないのですか……」
「前世でも似たような事が何度もあった」
「そ、そうなのですか……」
ユイはその後しばらく修行に集中できなかった。
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◆第11話「保健室の百年の秘密」
ある日、魔法の練習中に魔力過消費でライトが倒れた。
目が覚めると、保健室の白いベッドだった。
「気がついた?」
水色の長い髪の女性が覗き込んでいた。穏やかな青い瞳、二十歳前後に見えるが——どこか雰囲気が普通じゃない。
「……俺を運んだのか」
「生徒が倒れてたら保健医として運ぶわよ。私はフィア・ルナリア。学園の保健医よ」
「若い」
「見た目だけね」
フィアがお茶を差し出しながら、窓の外を見た。
「ねえ、ライト。一つだけ聞いていい?」
「何だ」
「あなた……前世の記憶、ちゃんと全部あるの?」
ライトは少し警戒した。
「なぜそれを聞く」
「私ね、ハーフエルフなの。だから百年以上生きてる。そして百年前……アルバート・クロノスという魔法使いを知ってた」
ライトは黙った。
「あなたの前世ね。アルバートが晩年に作った魔法陣、あなたが入学式で展開した陣と全く同じだった。だから確かめたかった」
「……知っていたなら、なぜすぐに声をかけなかった」
「人が変わって転生してる。同一人物じゃないかもしれないと思って、慎重に見てたの」
フィアは微笑んだ。
「アルバートはね、弟子思いのいい人だったわ。でも自分のことはいつも後回しにして……死ぬ前に”もっと誰かのそばにいればよかった”って言ってたって、弟子の一人から聞いた」
「……俺が言った言葉だ」
「そうね」
フィアはライトを真っすぐ見た。
「今世では、ちゃんと誰かのそばにいられてる?」
ライトは少し考えてから答えた。
「……今世は違う」
「そう。よかった」
フィアは安心したように笑った。その笑顔は、どこか前世で見た顔に似ていた。
「フィア。お前はアルバートの何だった?」
「……友人よ。五十年だけ、友人だった」
「そうか」
「今世でも友人でいてくれる?」
「……もちろん」
フィアはそっと微笑んだ。百年分の想いが、その笑顔に込められていた。
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◆第12話「ラッキースケベ祭り!体育祭の悲劇と奇跡」
学園の秋の風物詩「魔法体育祭」が開催された。
種目は魔法を使った競技ばかり――魔力綱引き、空中リレー、魔法障害物競走など。
ライトは「目立ちたくない」と言ったが、アリアに「出ないならシャルちゃんを重い競技に出すわ♪」と言われてあっさり参加させられた。
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午前の部・魔法障害物競走。
コース上に張られた魔法障害物を回避しながら走るという競技で、ライトはどんな障害物も見切って軽々と回避し、ゴール寸前に差し掛かった。
そこに強風の罠が発動した。
ゴール付近にいたエリスが風魔法を誤射してしまい、ライトの服が嵐に巻き込まれた。
次の瞬間、ゴール地点に倒れ込んだライトの上に、バランスを崩したルナが落ちてきた。
「――きゃっ!?」
「……っ」
ルナがライトの上に見事に着地。顔が至近距離にあった。
「…………」
「…………」
「……み……みた……?」
「スカートが風で巻き上がってたのは見た」
ルナの顔が茹でダコになった。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!!!!!!!!」
正拳突きが腹に刺さった。ライトは今度も防御を忘れていた。
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午後の部・魔法綱引き。
両チームが魔力を込めた綱を引き合う競技。ライトのチームに突然エリスが加わり、過剰な魔力を込めた瞬間、綱が爆発四散した。
チーム全員が吹き飛んだ。
ライトが気づくと、エリスが抱きついた状態で池の縁に着地していた。
「……大丈夫か」
「大丈夫よ……でも」
「でも?」
「……落ちる」
ぼちゃん。
二人仲良く池に落ちた。
エリスの赤い髪が水中でゆらゆらと広がる。ライトは素早く水上浮遊術を使って二人を引き上げた。
池から上がったエリスの制服が、水を含んで体に張り付いていた。
「…………」
「…………」
「……見ないで」
「見てない」
「絶対見たでしょ」
「見てない」
「なんでそんなに動じないの!!?」
「前世で似たことが何度もあった」
エリスが魔法で水を吹き飛ばして制服を乾かしながら、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「……覚えてなさい」
「……はい」
《ご主人様の受難は続くでございますな》
「黙ってろ」
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体育祭のフィナーレ、打ち上げの夕食時。
リナが一人で大量の料理を作って全員に配っていた。
「はい、みんなの分! 体育祭頑張ったから、ちょっと豪華にしました!」
全員が一口食べて「うまい!」と声を上げた。
リナがこっそり泣きそうになっているのを、ライトだけが気づいた。
「どうした」
「……ううん、なんでもない。みんなが美味しいって言ってくれて、嬉しくて」
「前に言っただろう。料理魔法は精密な術だ。お前の魔力制御は本物だ」
「……ライトさん」
「何だ」
「……ありがとう。私のこと、ちゃんと見てくれてる人、あなただけで」
リナはそっと笑った。その笑顔は夕陽の光の中でとても綺麗だった。
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第四章 学園最強の証明
(第13話~第16話)
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◆第13話「マジカルトーナメント前夜」
三学期。マジカルトーナメントの開催が近づいていた。
今年の学園代表の選考試験が行われた。
選考試験は学園内のトーナメント形式。上位四名が学園代表として全国大会に出場する。
ライトは黙って参加した。アリアに「シャルちゃんを出す」と言われたためだが、それ以外にも理由があった。
(メルの研究、ソフィアの治療費、リナの設備費……俺が優勝して賞金を使えば、みんなの問題が少し解決できる)
前世の自分が一人で積み上げた財産は、今世にはない。今世の自分が稼ぐしかない。
ライトは黙って選考試験会場に向かった。
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選考一回戦、対ルナ。
「またお前か」とルナが言った。
「またお前か」とライトも言った。
「……今回は前回よりはうまくやれると思う」
「楽しみにしている」
「なめんな!」
ルナが魔法と剣を組み合わせた攻撃を繰り出した。確かに前回よりずっと洗練されていた。
ライトは受け流しながら内心で感心した。(一ヶ月でここまで成長するか)
それでも五秒で終わった。
「……ぐ……」
「悪くなかった。次は十秒かかるかもしれない」
「次は絶対十秒以上もたせる……!」
「期待している」
ルナは悔しそうに笑った。
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選考二回戦、対エリス。
「……あなたと戦えるの、楽しみだった」
「本気で来い」
「もちろん!」
エリスの炎が解き放たれた。今回は前のトーナメントとは段違いの精度だ。
ライトは炎の術式を分解しながら、同時にカウンター魔法を組み上げた。
五秒後、エリスの炎が消え、ライトの拘束魔法がエリスを捕らえた。
「……負けた」
「だが前より遥かに強くなってた」
「まだ負けるのは悔しい。でも……少し嬉しい」
「なぜ」
「追いかけるべき人が、ちゃんと前にいるから」
エリスが素直に笑った。ライトはその顔に少し動揺した。
(前世ではこういう素直な笑顔を見ることがなかった)
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選考最終戦、対レイア。
学園中が注目していた。
「……正直に言う。あなたに勝ちたい」
「俺に勝てれば大したものだ」
「挑発してるの?」
「事実を言ってる。お前は俺より実力が低い。でも今日の俺が全力を出さなければ勝てるかもしれない」
「……どういう意味?」
「俺は今日、六割で戦う。それで勝てたら本物だ」
レイアの目が燃えた。
「……馬鹿にしないで」
「馬鹿にしてない。本気で期待してる」
戦闘が始まった。
レイアの魔法は完璧に制御されていた。右手の魔力症をライトに治療してもらってから、その実力は別次元に上がっていた。
七割を超えた。
八割を超えた。
ライトは本気で驚きながら、最後の一手を繰り出した。
レイアは膝をついた。
「……負けた」
「悪かった。十割出さないと負けてた」
「嘘をつかないで」
「本当だ。六割で試合するつもりだったが、途中から本気になった」
レイアは顔を伏せた。
しばらくして、ぼそっと言った。
「……また教えてもらっていい?」
「いつでも来い」
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◆第14話「全国大会と紅蓮の魔女の本気」
全国マジカルトーナメント当日。
会場は王都の大魔法競技場。観客は三万人。全国の魔法学園から精鋭が集まっていた。
星詠み学園代表:ライト、レイア、エリス、ルナの四名。
ライトの試合は連戦になった。
一回戦・二回戦・三回戦・準決勝——全て開始数秒で終了。
解説席の魔法省高官たちが毎回立ち上がって騒ぐのが恒例になった。
決勝の相手は王立第一学園の最強生徒、“雷帝”の異名を持つ少女だった。
彼女の雷魔法はこれまで誰も防いだことがないと言われており、会場は固唾を飲んで見守っていた。
「あなたが今年の話題の男の子。面白い。全力でいく」
「どうぞ」
雷が走った。
それはこれまでライトが見た中でも最上位の魔法だった。速度、威力、精度——全てが一流だ。
ライトは動かなかった。
雷が着弾する寸前に、魔力の”避雷針”を空中に展開し、雷の軌道を地面に誘導した。
「――なっ!?」
「雷は電位差で動く。電位差を操作すれば軌道を変えられる」
「そんな……電位差の魔法操作なんて、理論上は……!」
「可能だ。やり方を教えようか?」
会場が笑いと歓声に包まれた。
相手の少女は茫然としていたが、やがて大きく笑った。
「負けた! でも楽しかった! あなたと戦えてよかった!」
「お前も強かった。それは本当だ」
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表彰式の後、控室でルナがライトの上着を引っ張った。
「あの……ちょっと聞いていいか」
「何だ」
「……俺、今日の試合、初めて相手より先に動けた。それで……なんか、泣きそうになった」
「ルナ」
「なんだ」
「お前は成長してる。本当に」
ルナの顔が赤くなって、それからそっぽを向いた。
「……べつに、そんなの、嬉しくないし」
「そうか」
「……少し嬉しい、かもしれない」
「そうか」
「……絶対にそんな顔するな」
「どんな顔をしてた」
「なんか……やさしい顔」
ライトは何も言わなかった。ルナもそれ以上何も言わなかった。
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◆第15話「闇魔法の真実とミラの過去」
優勝の翌週、ミラが珍しく魔法の練習を休んでいた。
ライトが理由を聞くと、ミラは淡々と答えた。
「魔法省が来た。闇魔法の使用について”調査”したいって」
「調査の名目か」
「実質的な圧力よ。闇魔法は禁忌に近い、自主的に使用を控えるように、って」
「断ったのか」
「当然。でも……怖くはなった。魔法を取り上げられたら、私には何もない」
ライトは少し考えた。
「闇魔法の正式な定義と法的根拠を調べる。不当な圧力なら対抗できる」
「……そんなことまでしてくれるの?」
「お前が理不尽に魔法を奪われるのは筋が通らない」
ミラはしばらく黙っていた。
「……アルバート・クロノスについて、少し調べたわ。百年前の最強魔法使い。本の中の人だと思ってたけど……あなたがそうなのね」
「前世の話だ」
「彼はね、闇魔法を禁忌から解放しようとしてた。“闇魔法は光魔法と同等の価値がある”って文書を残してた」
「……知らなかった。前世の記憶にない部分だ」
「あなたが書いたものよ。間違いない。当時の帝国魔法省の記録に残ってた」
ライトは少し驚いた。
「前世の俺が、そこまで考えていたとは」
「きっとあなたは、誰かが不当に虐げられるのを見過ごせない人だったのよ。今も、そうでしょ」
ライトは何も言わなかった。
ミラがそっと笑った。猫のような、穏やかな笑顔だった。
「……ありがとう。あなたがいてよれて、よかった」
「俺もだ」
「え?」
「前世の俺がやりかけた仕事を、今世の俺が続けるのは悪くない」
ミラはくすっと笑った。
「じゃあ一緒に闇魔法を正式な魔法として認めさせましょう。二人で」
「……ああ」
それが、ライトとミラの小さな誓いになった。
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◆第16話「料理魔法と笑顔の理由」
ある休日、ライトは珍しく何も予定がなかった。
図書館に行こうとしたところを、リナに捕まえられた。
「ライトさん! 今日暇ですか!?」
「暇じゃないが」
「じゃあ暇ですね! 料理手伝ってください! 今日、みんなに大きな夕食を作ろうと思って!」
「俺が手伝う必要があるか」
「あります! 魔力が大量に必要で、一人じゃ足りないんです!」
ライトはため息をついてエプロンを受け取った。
「……何をすればいい」
「火力魔法をこのくらいの温度で維持してください! あとこの鍋を一定速度でかき混ぜる魔法と!」
「同時か」
「できますよね?」
「……余裕でできる」
「よかった! はじめましょう!」
ライトは魔法で三つの鍋を同時に管理しながら、リナが走り回って調理するのを眺めた。
リナの料理魔法は確かに一流だった。素材の魔力を引き出し、最適な調理温度を感知し、仕上げに香り魔法を添える。
「……これは何の料理だ」
「エルヴィア風シチューです! シャルさんが好きな料理で。今日はシャルさんの誕生日なんですよ!」
「そうか。知らなかった」
「ライトさん、シャルさんに教えてもらってないんですね」とリナがくすくす笑った。「シャルさん、誕生日のことを自分から言うの恥ずかしいって言ってて」
ライトは少し考えた。
「……後で、シャルに渡すものを一つ作れるか」
「え? 何ですか?」
「前世で作り方を覚えた、星詠みの魔法灯だ。消えない小さな光で、願いを込めて作る」
「素敵! 一緒に作りましょう!」
その夜の夕食パーティで、シャルは魔法灯を受け取って、本当に驚いた顔をして、それから泣きながら笑った。
「……先生、ありがとうございます」
「誕生日おめでとう。遅れたが」
「知ってたんですか?」
「今日知った」
シャルがまた笑った。
「もう、先生ったら」
その夜は全員でテーブルを囲んで、とても賑やかだった。
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第五章 それぞれの想い
(第17話~第20話)
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◆第17話「アリアの本当の顔」
ある夜遅く、ライトが廊下を歩いていると、生徒会室の扉が少し開いていた。
中を覗くと、アリアが一人で机に突っ伏していた。
にこにこ顔ではなく、疲れた顔で、書類の山に埋まっていた。
「……入るぞ」
「――!? ライトくん!? なぜここに!?」
「扉が開いていた。何かあったか」
「な、何もないわよ♪ ただ書類仕事してただけ♪」
「その顔で言っても説得力がない」
アリアは少し黙った。それから笑顔を外した。
それは初めて見る、アリア・クロードの本当の顔だった。疲れていて、心細そうな顔だった。
「……クロード商会の跡取りとしての仕事と、生徒会長の仕事と、魔法の勉強と……全部同時にこなさないといけなくて」
「一人でやっているのか」
「当然でしょ。クロード家は私が全部やらないといけない家だから」
「手伝えることはあるか」
「……え?」
「書類で何か手伝えることがあるかと聞いた」
アリアはしばらくライトを見ていた。
「……なんで手伝おうとするの? 私、あなたのことを都合よく使ってきたのに」
「それはそうだ。腹も立った」
「でも手伝うの?」
「お前が一人で追い詰められてるのを放っておくのは性に合わない」
アリアはしばらく黙っていた。
それからぽろっと笑った。作った笑顔じゃなく、本当の笑顔で。
「……ありがとう。じゃあこの予算書、計算が合ってるか確認してくれる?」
「わかった」
二人で夜中の二時まで書類仕事をした。
帰り際、アリアがぼそっと言った。
「……ライトくん。私の笑顔、作り物だって気づいてた?」
「最初から」
「それでも気にしなかったの?」
「作り物でも笑顔は笑顔だ。ただ、本物の顔の方が俺は好きだ」
アリアが固まった。
「……変なこと言う人ね」
「そうか」
「……悪くないけど」
アリアはそっと笑って、ライトを見送った。
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◆第18話「ソフィアの氷が溶ける日」
三学期の終わり近く、ソフィアが授業中に倒れた。
原因は魔力過負荷。感情を抑制しすぎた結果、魔力の流れが滞って体に負担がかかっていた。
保健室でライトが見舞うと、ソフィアは青ざめた顔でベッドに横たわっていた。
「……来なくてよかったのに」
「来たくて来た」
「……弱いところを見せたくなかった」
「俺に?」
「……みんなに。私は強くないといけないから」
「なぜ強くないといけない」
「……強くないと、居場所がないから」
ライトは椅子を引き寄せてベッドの傍らに座った。
「以前俺が言った。ここを居場所にしていい、と」
「……はい」
「居場所は強さで勝ち取るものじゃない。そこにいていい、と思えればそれでいい」
「……でも、弱い人間は……」
「弱くていい。俺がそばにいる」
ソフィアが黙った。長い沈黙の後、ぽつりと言った。
「……怖いです。誰かに頼るのが。また失ったら」
「俺も同じだ。前世でも今世でも、誰かを失う怖さはある。でも怖いからといって一人でいる方が、もっと怖かった」
「……ライト」
「何だ」
「……泣いていいですか」
「好きにしろ」
ソフィアが静かに泣いた。氷のように固まっていた何かが、少しずつ溶けていくように。
ライトはそばにいた。ただそれだけで、十分だった。
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◆第19話「ユイの故郷と刀の誓い」
春先、ユイが学園の屋上で一人、遠くを見ていた。
「故郷を思っているか」
「……はい。白蓮国は今頃、桜が満開でしょう」
「桜は?」
「春に咲く花です。西方にも似た花がありますが……故郷のものは特別で」
ライトはユイの隣に立った。
「留学の期限はいつまでだ」
「一年です。あと半年で帰らなければなりません」
「帰ったら何をする」
「……魔刀術を継ぎます。白蓮国の守護者として」
「それはお前が望んでいることか」
ユイが少し黙った。
「……家の役目ですから」
「それは答えになっていない」
「……はい。正直に言えば……まだ、ここにいたい気持ちがあります。もっと学びたい。もっと……あなたと研究したい」
「それを故郷の家族に伝えたか」
「言えません。家のために来ているのですから、わがままを言うのは」
「わがままじゃない。お前の本心だ」
ライトはユイを見た。
「手紙を書け。自分がここで何を学んでいるか、何を感じているか。ちゃんと伝えろ。返事が来てから判断しても遅くない」
「……ライト」
「何だ」
「あなたは、私に正直に生きていいと言ってくれますか?」
「当然だ」
ユイはゆっくりと微笑んだ。
「……ありがとう。では、今日は思い切り練習しましょう。気持ちを整えるために」
「付き合う」
「本当に? 嬉しいです」
二人で夕暮れまで練習した。
ユイの刀と、ライトの魔法が交差するたびに、夕陽が二人の影を長く伸ばした。
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◆第20話「フィアの涙と百年の想い」(感動エピソード)
春の終わりのある夜。
ライトは保健室を訪ねると、フィアが古い写真集を眺めていた。
「何を見ている」
「昔の写真よ。百年前の」
覗き込むと、黒白の写真の中に見覚えのある顔があった。
白髪の老人が、若い女性と並んで笑っていた。
「……これは」
「アルバート。七十歳くらいの頃かしら。まだ元気だったわ」
ライトは写真を見た。前世の自分の顔だ。こんな顔をして笑っていたのか、と思った。
「その隣は?」
「私よ。百年前の私」
フィアが写真に触れた。長い沈黙の後、静かに言った。
「アルバートと過ごした五十年は、私にとって一番大切な時間だったわ。でも彼は……最後まで自分が大切にされることを怖がってた。誰かに甘えるのが苦手で、弱みを見せるのが苦手で……」
「……そうだったか」
「あなたはどう? 今世の自分は」
ライトは少し考えた。
「……まだ苦手だ。でも、前よりは」
「そう」
フィアが写真集を閉じた。
「ねえ、ライト。一つだけ聞いていい?」
「何だ」
「前世で、私と過ごした時間……覚えてる?」
ライトは正直に言った。
「……部分的に。記憶がある期間とない期間がある。お前と過ごした五十年の多くは——霧がかかっている」
「そう」
「すまない」
「謝らないで」とフィアは首を振った。「あなたが覚えていなくても、私は覚えてる。それで十分よ。一人で抱えてきた百年が、あなたに会えて、少し軽くなった気がするから」
「フィア」
「何?」
「……今世でも、そばにいてくれ。友人として」
フィアは少し目を潤ませて、それからにっこりと笑った。
「もちろん。今世では、もう少し長く付き合ってもらうつもりよ」
「俺は今世では普通の寿命しかないぞ」
「大丈夫。エルフの友人を持つ人間は、魔力の影響で少し長生きするの。前世のアルバートが三百年生きたのも、私との縁のせいかもしれない、って密かに思ってたりするけど」
「それは初耳だ」
「嘘かもしれないけどね」
フィアが笑った。その笑顔の中に、百年分の想いがあった。
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第六章 試練と成長の季節
(第21話~第24話)
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◆第21話「魔法省の陰謀と仲間たちの決意」
三学期の中盤、王国魔法省から学園に通達が届いた。
「“男性魔法使いは自然の摂理に反する可能性がある。ライト・アシュトンの魔力を精密に調査する必要がある”」
学園長がライトを呼んで内容を伝えた。
「……つまり、魔法を禁止するかもしれないと」
「そういうことになります。調査の結果次第では、学園への在籍も……」
「わかりました」
部屋を出ると、廊下でシャルたちが待っていた。全員の顔が険しかった。
「先生、聞きました。絶対に黙ってないから」とシャルが言った。
「私も調査する。法的根拠を探す」とレイアが言った。
「古代の文献を全部調べる。前例がないか探してみる」とメルが言った。
「魔法省に直接乗り込んでもいい」とルナが言った。
「情報収集は生徒会でやるわ♪ ルートがあるから♪」とアリアが言った。
「私の国に働きかけることもできます。サンローゼ王国は魔法省に影響力がある」とエリスが言った。
「白蓮国の大使に手紙を書きます。国際的な声明があれば動きやすい」とユイが言った。
「私のネットワークで魔法省の内部情報を入手できるかもしれない」とミラが言った。
「魔力症の治療記録で、ライトの魔力が安全なことは証明できる」とフィアが言った。
「……氷の彫刻、作った。お守りに」とソフィアが小さな氷の薔薇を差し出した。
「私は料理を作る。みんなが動くなら腹ごしらえが必要」とリナが言った。
ライトは全員を見回した。
(前世の俺には、こんな人たちはいなかった)
「……ありがとう。ただ、俺がまず動く。お前たちは後方支援に留まれ」
「なぜ」
「お前たちに迷惑はかけたくない」
「迷惑じゃない」とシャルが真っすぐ言った。「先生がいたから、私たちは変われた。今度は私たちの番です」
「シャルの言う通りよ」とレイアが言った。「あなた一人に全部抱えさせない。それがあなたの言う”誰かのそばにいる”ということでしょ」
ライトはしばらく黙っていた。
「……わかった。頼む」
「任せて!」
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◆第22話「審問会と奇跡の魔法陣」(感動エピソード)
魔法省の審問会当日。
王都の魔法省大会議室に、ライトが一人で入った——はずだった。
ところが後から、シャルが「王女として陳述する権利がある」と言って入ってきた。
続いてレイアが「ヴァルテ家代理として」と言って入ってきた。
続いてアリアが「生徒会長として学園を代表して」と言って入ってきた。
続いてエリスが「サンローゼ王国の王女として国際的声明を」と言って入ってきた。
続いてユイが「白蓮国の公式代表として」と言って入ってきた。
続いてフィアが「エルフ族の証人として百年の記録を」と言って入ってきた。
最終的に全員が入ってきた。ルナは「付き人として」、メルは「資料担当として」、ミラは「魔法省への陳述として闇魔法の件も含めて」、リナは「……みんなと一緒にいたくて」、ソフィアは「……ライトのそばにいたいので」と言った。
魔法省の高官たちが唖然とした。
その中でシャルが立ち上がって言った。
「ライト・アシュトン先生は私に魔法を教えてくれました。でも魔法だけじゃなく、諦めないことも、誰かのそばにいることも教えてくれました。この人を危険だと言うなら、その前に、この人がどれほど多くの人を救ってきたか、聞いてください」
それから一人ずつ、証言が続いた。
レイアが魔力症を治してもらったこと。
ミラが闇魔法の正当性を証明してもらったこと。
ソフィアが居場所をもらったこと。
ルナが魔法の本質を教えてもらったこと。
リナが自分の才能を認めてもらったこと。
フィアが百年ぶりに古い友人に再会したこと。
全員が話し終わった後、ライトは最後に立ち上がった。
「一つだけ言う。俺の魔力が危険かどうかは、調べれば証明できる。だが——この場にいる全員が、俺を守るために来てくれた。俺はそれを誇りに思う。前世では一生得られなかったものを、今世で得た。それが俺の答えだ」
会議室が静まり返った。
魔法省の最高顧問が、長い沈黙の後に言った。
「……調査の結果、ライト・アシュトンの魔力に危険性は認められない。審問はここで終了する」
会議室の扉が開いた。
廊下でメルとリナとソフィアが固唾を飲んでいた。
「……終わった?」
「終わった」
リナがその場で泣き崩れた。メルが「よかった……」と呟いた。ソフィアが珍しく笑顔になった。
ライトは全員の顔を見た。
(これが、今世の俺の居場所だ)
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◆第23話「ラッキースケベ最終決戦!卒業式前夜の大混乱」
一年の学園生活の最後の夜。
卒業式……ではなく進級を前に、学園で夜の交流会が開かれた。
ライトはフロストと一緒に廊下を歩いていたが、どういうわけか今夜は事件が多発した。
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まず、暗い廊下でエリスとぶつかった。
「きゃ!」
「……どうした」
「バスルームから出てきたら消灯してて! 暗くて方向が!」
ライトが魔法で明かりをつけると、エリスがバスタオル一枚で廊下に立っていた。
「…………」
「…………」
「……み、見た?」
「消灯してた。暗かった」
「じゃあ見てないのね!?」
「……ほんの一瞬だけ明かりをつける前に」
「ライトォォォォォォ!!!!!!!!」
炎が廊下に走った。ライトは防御魔法で防いだ。今回は準備していた。
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次に、図書館の近くを通ると中から音がした。
入ると、メルが本棚を直そうとして盛大に崩していた。
「――んわわわわ!!」
「またか」
「助けてください!!」
ライトが魔法で本を全部浮かせて棚に戻す作業をしていると、均衡が崩れた本棚の一つが倒れてきた。
ライトが庇ったため、二人が床に転がった。
メルがライトの上に乗っていた。三度目の正直。
「…………」
「…………」
「今回こそ本棚と永遠に縁を切ります」
「そうしろ」
「……ありがとうございます。毎回」
「こちらこそ、毎回」
メルの顔が赤くなった。
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続いて廊下でソフィアとすれ違うと、ソフィアが氷魔法の練習中だった。
「ライト……」
「どうした」
「……練習してた。うまくできなくて」
「見せろ」
ソフィアが氷の術式を展開した瞬間、魔力が一瞬溢れて氷が爆散した。
「きゃ……!」
ライトが瞬時に防護魔法を張った。氷の破片が二人を包む防護膜に当たって弾け飛んだ。
静まり返った廊下で、二人が見つめ合う。
ソフィアの白銀の髪に小さな氷の欠片が散っていた。
「……きれいだ」
「え?」
「髪に氷が散っている。きれいだと思った」
ソフィアが固まった。
それから顔が桜色になった。珍しい光景だった。
「……ありがとう、ございます」
「練習の続きをするか?」
「……はい」
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夜も更けて、ライトが自室に戻ろうとすると、廊下でルナが木剣を振っていた。
「こんな時間に何をしている」
「……眠れなくて」
「緊張か? 明日の進級式」
「違う! ……ちょっとだけ、そうかも」
ライトは近くの窓枠に腰掛けた。
「何が不安だ」
「……二年生になったら、もっと難しくなるだろ。私、ついていけるか不安で」
「ついていけなかったら教えてやる。俺がここにいる間は」
「……ここにいる間?」
「俺もいつかはここを卒業する。その前に、お前に必要なものは全部伝える」
「……全部?」
「全部は無理でも、できる限り」
ルナは少し黙った。
「……卒業しても、いなくなるわけじゃないよな」
「学園を出てもいなくなりはしない」
「……そっか」
ルナはそっと笑った。夜の廊下で、その笑顔は珍しいくらい柔らかかった。
「……おやすみ、ライト」
「おやすみ、ルナ」
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◆第24話「春の光の中で――それぞれの未来」(最終話・感動エピソード)
進級式の朝、学園の桜の木の下に全員が集まった。
去年も同じ場所に立ったことを、ライトは思い出した。
「先生!」
シャルが駆けてきた。
「先生、これ見てください! 魔力制御、完璧にできるようになりました!」
シャルが両手を広げると、掌から光の蝶々が生まれた。百匹以上が舞い上がって、桜の花びらと混ざり合う。空全体が光に包まれた。
「……うまくなった」
「えへへ! 先生が教えてくれたから!」
「俺が教えたのは最初の一ヶ月だけだ。後はお前自身の力だ」
「でも、先生が言ってくれたから諦めなかったんです。それは先生の力です」
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レイアが来た。
「……右手の調子がいい。今朝、治療が完了した」
「完治か」
「フィア先生の見立てでは、もう再発しないと。あなたが治してくれた古代医術のおかげで」
「よかった」
「……ありがとう。素直に言うのが苦手だけど、本当に感謝してる」
「素直に言えてるぞ」
レイアが少し赤くなった。
「……うるさい」
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メルが来た。本を六冊抱えて。
「ライトさん、この夏に古代語の論文を書こうと思うんですけど、一緒に書きませんか? 二人の名前で出したい」
「……俺の名前も入れるのか」
「ライトさんの解析がなければ書けない内容だから。当然です」
「……考える」
「考えてるうちに書き始めてもいいですか?」
「……好きにしろ」
メルがにこっと笑った。眠そうな顔のままで、でもとても嬉しそうに。
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アリアが来た。今日は作り笑いじゃない本物の笑顔で。
「ライトくん、二年生も生徒会の仕事を手伝ってくれる?」
「また脅すつもりか」
「今回は脅さないわ。ちゃんとお願いしてる」
「……それは珍しい」
「あなたが本物の顔の方が好きって言ったから、練習してるの」
「……練習か」
「笑顔を作るより、本音を言う方が難しいわね。人生で初めて気づいた」
「そうか」
「……お願い。手伝って」
「わかった」
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エリスが来た。赤い髪を揺らして、まっすぐ立って。
「今年こそあなたに勝つ」
「来い」
「宣言しておく。あなたが私の目標である間は、私はあなたのそばにいる」
「……それは目標がなくなるまでか」
「目標がなくなることはないから、永遠にそばにいる、ということ」
ライトはしばらく考えた。
「……それは遠回しな告白じゃないか」
「気づいてたの!?」
「今気づいた」
「じゃあ答えを聞かせなさい!」
「……考える」
「いつまで!?」
「気長に待て」
エリスが歯ぎしりした。でも笑っていた。
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ユイが来た。凛としたいつもの立ち姿で、でも少しだけ柔らかい目で。
「ライト。故郷に手紙を送りました」
「何と書いた」
「……正直に。ここでもっと学びたいと。ライトと一緒に研究を続けたいと」
「返事は」
「父が……了承してくれました。“お前の師がそれほどの人物なら、一年の延長を許す”と」
「師と認めたのか」
「はい。私も認めることにしました」とユイは微笑んだ。「でも、それだけではありません。……師であり、大切な人として」
「……大切な人」
「はい。西方の言葉では、どう表現するのが正しいですか?」
「……複数の表現がある」
「ではいずれ、全て教えてください」
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ミラが来た。黒猫を一匹抱いて。
「闇魔法の正式認定、動いてる。ライトが審問会で言ったことが効いたみたいで、議会に提案が上がった」
「そうか」
「……一緒に動いてくれてありがとう。私一人じゃ絶対に諦めてた」
「諦めるな。お前の魔法は正当だ」
「……うん」
「猫は何頭になった」
「四頭。また増えた」
「増やしすぎだ」
「あなたに似た猫が生まれたから仕方ない」
「どんな猫だ」
「金色の目で、クールで、でも実は面倒見がいい猫」
「……それはお前の主観だ」
ミラがくすっと笑った。
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フィアが来た。水色の髪を春風になびかせて。
「調子はどう?」
「問題ない」
「嘘ついてない?」
「ついていない」
「……本当に変わったわね、アルバート」
「ライトだ」
「そうね。ライト。……百年前の写真の男と、今のあなた、全然違う顔してる」
「そうか」
「昔は笑わなかったわ。でも今は……時々笑うのね」
「誰かに気づかれていたか」
「私だけが知ってるわ♪」
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ソフィアが来た。氷の薔薇を新しく作って持ってきた。
「……今日は消えない魔法をかけました。ずっとそばに置いてください」
「ありがとう。大切にする」
「……ライト」
「何だ」
「私、友達ができました。初めて」
「誰が」
「……みんな。ここにいるみんなが友達です。あなたのおかげで」
「俺のおかげじゃない。お前が心を開いたからだ」
「……でも、最初に居場所をくれたのはあなたです」
ソフィアが初めて、ライトの前で声を上げて笑った。
清冽な、春の光みたいな笑い声だった。
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リナが最後に来た。大きなバスケットを抱えて。
「みんなに朝ごはん作ってきました! 今日は特製のサンドイッチとスープです!」
「また大量に作ったな」
「みんなの分ですから! それに……ライトさんが美味しいって言ってくれた料理を、もっとうまくなりたくて。毎日練習した甲斐がありました」
「お前の腕は学園一だ」
「ライトさん! また大げさなことを!」
「大げさじゃない。事実だ」
リナが笑って泣きそうになりながら「もう!」と言ってスープをライトに渡した。
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全員で桜の木の下に集まった。
光の蝶々が舞い、春の風が吹いた。桜の花びらが降り注ぐ。
フロストがライトの肩に止まって言った。
《ご主人様。今年一年、いかがでしたか》
ライトはしばらく考えた。
三百年の前世で、一度も持てなかったものを、今年一年で全部手に入れた。
研究仲間。ライバル。弟子。友人。古い友。そして――
「……悪くなかった」
《それだけですか》
「……最高だった」
《ようやく素直になりましたな》
「うるさい」
シャルが振り向いた。
「先生! 来年も一緒にいてくれますよね?」
「いる」
「約束ですよ!」
「約束だ」
レイアが言った。
「来年こそあなたに勝つ」
「楽しみにしている」
エリスが言った。
「来年は本気でいく」
「毎年本気で来い」
ルナが言った。
「来年は十秒もたせる」
「期待している」
メルが言った。
「論文、一緒に書きましょうね」
「……ああ」
アリアが言った。
「来年も生徒会を手伝ってね♪」
「……考える」
「もう決まってるわ♪」
ユイが言った。
「来年も、よろしくお願いします、ライト」
「こちらこそ」
ミラが言った。
「闇魔法、一緒に認めさせましょう」
「ああ」
フィアが言った。
「また保健室においでね。いつでも待ってる」
「……ありがとう」
ソフィアが言った。
「……来年も、そばにいてください」
「いる」
リナが言った。
「明日も朝ごはん作ります! 好きな料理を教えてください!」
「……好きに作れ。全部うまいから」
「もう! ちゃんと答えてください!」
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光の蝶々が空に舞い上がった。
桜が散った。
春の光の中で、十一人と一羽が笑っていた。
前世では一人で見上げていた空を、今世では十人と並んで見ている。
それが、ライト・アシュトンの答えだった。
世界最強の魔法使いが、三百年かけて学んだことは、魔法ではなかった。
誰かのそばにいること。
それだけで、世界はこんなにも明るい。
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了
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次巻予告
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二年生になったライトたちに、新たな試練が待ち受けていた。
魔法省の一部が「男性魔法使いを研究施設に移送する」という過激な計画を進めていることが発覚。
さらに、西方大陸の向こうから「古代魔法の封印が解け始めている」という報告が届く。
前世のアルバートが封印した”何か”が、三百年の時を経て目覚めようとしていた。
ライトの前世の記憶に残る「空白の三年間」——その時に何が封印され、何を犠牲にしたのか。
エリスの故郷・サンローゼ王国で起きた異変、ユイの故郷・白蓮国からの緊急使者、そしてフィアが「百年間、誰にも言えなかった秘密」を明かす時が来る。
全員で挑む”前世の清算”。
ライトが今世で得た居場所を守るために、最強の魔法使いが本気で戦う。
★第二巻「転生魔法学園記 ~前世の封印と守るべきもの~」近日刊行!★
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登場人物一覧(完全版)
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【主人公】
・ライト・アシュトン(15→16歳)
前世は三百年生きた世界最強の魔法使いアルバート・クロノス。
金髪金瞳。無表情クールだが実は面倒見がよく、今世では
“誰かのそばにいること”を大切にしている。
【第一期ヒロイン】
・シャルロット・エルヴィア(15→16歳)
第三王女。桜色の長い髪と翡翠色の瞳。天真爛漫。
ライトを「先生」と呼ぶ。洗濯魔法が苦手。一年で魔力制御を完璧にした。
・レイア・ヴァルテ(15→16歳)
首席生徒。黒髪紫瞳。クールなライバル。
先天性魔力症をライトに治してもらい、実力が格段に上がった。
・メル・フォーゲル(15→16歳)
図書館の主。茶色の癖毛。眠そうな翡翠の目。
天然魔法理論オタク。本棚との相性が悪い。
・アリア・クロード(16→17歳)
生徒会長。銀髪三つ編み。腹黒策士だったが
ライトに本物の顔を引き出してもらい、少しずつ素直になっている。
・ルナ・ベルフォート(15→16歳)
騎士家の娘。赤茶ショートヘア。琥珀色の瞳。
ツンデレ魔法剣士志望。ライトに毎回正拳突きをするが、
実は一番素直に慕っている。
【第二期ヒロイン】
・エリス・サンローゼ(15→16歳)
転入生。炎の国・サンローゼ王国の王女。
赤い長髪と赤い瞳。気性激しく勝気。
「紅蓮の魔女」の異名を持ち、ライトへの想いを宣言している。
・フィア・ルナリア(見た目20歳・実年齢100歳以上)
学園の保健医。水色の長い髪と穏やかな青い瞳。
ハーフエルフで百年以上生きており、前世のライトを知る唯一の存在。
・ソフィア・グレイシア(14→15歳)
飛び級入学の天才。白銀の髪と淡い水色の瞳。
孤児で感情を封じていたが、ライトに居場所をもらってから変わり始めた。
氷の薔薇を作るのが得意。
・リナ・マーシュ(15→16歳)
庶民出身の料理魔法使い。栗色のポニーテール。
戦闘向きじゃないとコンプレックスを持っていたが
ライトに才能を認められて吹っ切れた。毎日ライトに料理を作る。
・ミラ・シェイド(17→18歳)
二年生の先輩。黒と紫のグラデーションの髪。
闇魔法の使い手で学園の「禁忌の使い手」と恐れられていたが
ライトに初めて対等に扱ってもらい、深く懐いている。猫四頭飼い。
・ユイ・ハクレン(15→16歳)
東方・白蓮国からの留学生。黒髪を高く結んだ凛とした少女。
魔刀術の使い手。礼儀正しく真面目。
ライトを師と仰ぎながらも、それ以上の想いを抱いている。
【使い魔】
・フロスト
白フクロウの使い魔。前世から仕えているため毒舌。
ライトの恋愛事情を逐一コメントして楽しんでいる。
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END
【転生魔法学園記】全24話 完全版




