スパイ・傭兵・犯罪者
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──スパイ・傭兵・犯罪者
ネプティスで、リリエルは七尾たち日本情報軍と手を結ぶ決断をした
「それからルナリエンでの作戦が開始された」
リリエルは語る。
「問題はルナリエンからどうやってホワイト・ピークを密輸し、ルナリエンに武器を運び込むかだったが、それについては七尾たちが解決した」
「彼らはどのようにして?」
「飛行機というものを使ったんだ」
あとで分かったことだが、正確には使用されたのはパワード・リフト機だった。
リリエルはまず少数の日本情報軍の人間がやってきて、エルフたちとともに僅かな平地で木々を切り開き、そこにパワード・リフト機の離発着場を作ったという証言をした。
「飛行機は大抵夜にやってきた。魔族連合軍の注意を引きたくなかったのだろう。まずは飛行機は重機という機械を運んできて、それで今の離発着場を拡張していった。武器とホワイト・ピークの取引が始まったのはそれからだ」
ルナリエンのエルフたちの中には不安と期待が入り混じっていたとリリエル。
ドラゴンのようなパワード・リフト機を操る人間たちが、見たこともないような武器を持ってきたことに彼は動揺していた。
「『リリエル、あの空を飛ぶ機械は魔族の仲間じゃないのか?』とか『あの人間たちが自分たちに食料をくれるのだろうか?』とか質問を浴びせられた。私は武器の入ったコンテナの中からアサルトライフルを手に取り空に向けて撃った」
けたたましい銃声が響き、森の木々がざわめく中でエルフたちは静まり返った。
「『聞け、ルナリエンの誇り高きエルフたち。王国の崩壊以来、我々は魔族への屈服を強いられてきた。だが、今こそこの武器を手にして立ち上がり、奴隷の鎖を引きちぎるのだ。私には戦う準備ができている』。私はそうエルフたちに訴えた」
リリエルは当時の様子を思い出すような遠い目をしてそう語った。
「エルフたちは納得したのですか?」
「最終的にはソフィエルが説き伏せた。ソフィエルは私のように演劇染みたセリフは使わなかった。ただ淡々と利害を明らかにし、この取引がエルフたちにとって利益になるということを説明したんだ」
「あなたが檄を飛ばしたことも有効だったのでしょう?」
「否定はしない。若いエルフほどすぐに私に賛同した。『武器をください、戦士リリエル。自分たちも戦います』とそう言ってくれたよ」
彼らは戦争を知らなかったということあったとリリエルは言う。
ルナリエン王国の陥落からすでに60年以上が過ぎていて、戦争を体験していない若者が生まれ始めていた。
彼らは自分たちの置かれた状況に常に不満を持っていた。
「若者たちは王国陥落は大人たちの責任であり、自分たちがどうして今のような貧しくて理不尽な環境を受け入れなければならないのかと思っていた。そこに私が彼らが自分たちの手で環境を変えれる手段を与えたわけだ」
それならば若者は熱狂するはずだと私は納得してしまった。
私も日本において第三次世界大戦の前に聞かれた威勢のいい言葉を知っているから。
「キメラ作戦が始まったときにルナリエンにはエルフと3種類の人間がいた」
リリエルは3本の指を立ててそう言う。
「ひとつは情報軍の人間。七尾たちだ。彼らは飛行機を操り、ネプティスから武器を運んできて、帰りにはホワイト・ピークを積んで帰る」
「彼らはやったのはそれだけですか?」
「いいや。優れた戦士たちを送り込んでくれた。彼らは幽霊のように静かに動き、魔族たちを奇襲することに長けていた。彼らはルナリエンを拠点に魔族の情報を集めるのが仕事だと言っていたな」
リリエルはそう語る。
のちの七尾の証言と統合すると日米の情報軍はルナリエンに航空部隊と特殊部隊を展開させていたものと思われる。
七尾は『魔族の幹部の位置を特定するのに情報が必要だ』と言っていた。
その情報を集める仕事を担うのが日米情報軍の特殊部隊だったのだろう。
「情報軍の人間は謎めいていた。彼らはどこか身分を偽っている節があり、七尾についてもそれは同じだった。彼らは私たちのことは聞きたがるが、自分たちのことはあまり話そうとしなかったこともある」
情報軍は『スパイの顔をした軍隊』だ。
彼らはスパイとして自分たちの素性を隠していたのだろう。
七尾一郎という名も偽名であることは間違いない。
「だが、彼らは決して我々を無視していたわけではない。医薬品が必要であれば運んできてくれたし、武器以外にも食料などを提供してくれた。彼らが供与してくれた何年も日持ちする保存食は味は塩辛かったが、飢えを満たしてくれた」
情報軍の支援は武器弾薬だけではなく、一応医薬品や食料も含まれていた。
それもそうだろう。これから魔族連合軍と戦争を始めれば、ホワイト・ピークを彼らに売って食料を仕入れるということはできなくなるのだ。
「次に存在したが傭兵たちだ。私たちに銃の扱い方やそれを使った近代的な戦い方を教えてくれた。彼らは一見すると情報軍の軍人と似ていたが、彼らより老齢であり、軍服も違っていた。『自分たちはあくまで傭兵だ』と彼ら自身そう言っていたね」
次は傭兵たち。
「彼らは民間軍事会社のインストラクターだったのでは?」
私はそう指摘する。
「ああ。正確にはそういうものらしかった。彼らは最初は訓練だけを担当していて、あとから戦闘が激化するとそれに参加するようになった。情報軍の人間も社交的だったが、傭兵たちはさらに社交的だった。我々はすぐに打ち解けたよ」
傭兵は一匹狼の印象があるが、実際にはコミュニケーションが取れなければ傭兵というものは勤まらない。そう聞いたことがある。
ましてそれが軍事訓練を行う立場であれば、一匹狼は必要とされないだろう。
「彼らはいろいろと語ってくれた。地球という惑星についてや、そこにある彼らの故郷についてなど。日本という国から来た傭兵もいて、日本のことは彼から聞いたよ」
「その傭兵はどのように日本を語っていたのです?」
「『リリエル。君が日本のアキハバラにいけば人気者になれるだろう』と言っていた。日本人はエルフが好きだからと。『どうしてエルフが好きなのだ? 地球にはエルフがおらず、あったこともないだろうに』と問うと『日本人というのはみんなオタクだから』だよとアメリカの傭兵が笑っていたね」
リリエルが僅かに笑みを浮かべて言うのに私も思わず微笑んだ。
「さて、最後の人間だ。その人間は明らかに情報軍の軍人や傭兵たちとは違っていた。彼らは一番最後にルナリエンにやってくると離発着場のそばに小屋を建て、そこに私たちから受け取ったホワイト・ピークをため込んでいた」
「ホワイト・ピークを?」
「ああ。それから小屋から嫌な臭いを立てさせ始めた。何をしているんだと尋ねても連中は馬鹿にするようににやにやと笑うだけで答えなかった」
それからリリエルは七尾にも彼らが何をやっているかを尋ねた。
「『彼らはホワイト・ピークを運びやすくしている』と七尾は言っていた。ホワイト・ピークの果汁をさらに凝縮させたものを小屋で作り、そのことでホワイト・ピークをもっと大量に運搬できるようにしているという旨のことを私に言っていた」
「つまりホワイト・ピークをより高濃度にしていたのですか?」
「ああ。多分そういう意味だと思う。そのことはソフィエルが主に仕切っていた。彼女は軍事を私に任せ、ホワイト・ピーク関係に集中していたから」
ソフィエルはその怪しい人間たちと積極的に話し合っていたとリリエルは思い出しながら語る。
「彼れは軍人でもなく、傭兵でもなかった。あとで知ったが彼らはブリガンテと同じような犯罪組織の人間だったんだ」
今思えばあの小屋を焼き払うべきだった、と。
目を伏せてリリエルはそう呟き、それから自らの手を見つめる。
まるで汚れたものに触れていたことを悔いるかのようにして。
「七尾はホワイト・ピークは人類国家が魔族の代わりに買い取ると言っていた。だが、その表現は適切ではなかった。ホワイト・ピークは売りつけられたんだ。この世界の人類国家の民衆に対して」
「……そのことに犯罪組織が関与していたと?」
「まさにその通りだ。非合法なドラッグの売人は軍人や傭兵には勤まらないから、七尾は犯罪組織をキメラ作戦に引き入れた。七尾は否定はしなかった。もっとも、肯定もしなかったけどね」
リリエルは私の問いにそう答える。
「その組織の名前は……?」
「覚えているとも。その組織の名前はディザータというものだ」
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