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X-デイ


……………………


 ──X-デイ



 動き始めた麻薬取締局(DEA)

 その動きはリリエルにも伝わっていた。


「私たちが異世界から地球へのホワイト・ピークの密輸ルートを麻薬取締局(DEA)に明らかにしてから2カ月ほど経ったときだ。佐藤がやってきて言った。『麻薬取締局(DEA)がついにディザータを攻撃し始めた』と」


 リリエルはそのときのことを覚えていると語った。


「地球で逮捕者が出たとモリたちが騒いでいた。ディザータの幹部が逮捕されたのは初めてだったらしく、彼らはかなり動揺した様子だった。未だ仕掛けたままだった盗聴器にはディザータの幹部たちがルナリエンから撤退して逃げるべきか話し合っているのが記録されていたよ」


 ディザータのモリたちはリリエルや佐藤たちの予想に反して、すぐに内部密告者を疑わなかった。

 彼らは幹部が逮捕されたのがアメリカ国内であったことからも、ルナリエンが直接関与しているとは思わなかったのだろうとリリエルは語る。


「それから地球の側で逮捕されるディザータの幹部が連続した。麻薬取締局(DEA)だけではなく日本の厚労省や他の国の警察機関もディザータの幹部をホワイト・ピークへの取引の関与の疑いで逮捕していったんだ」


 ディザータはルナリエンから確認できるだけでも大混乱だったとリリエル。


「『潮時だ』とモリが言った。『ホワイト・ピークはもう金にならねえ。リスクばかりが高くなっちまっている』と。私はもしかしたらこのまま彼らが私が麻薬取締局(DEA)に協力したことに気づかないのではないかと期待した」


 ディザータは地球側での逮捕者が相次いだことから、地球側での自分たちが何かをミスしたとそう思い込んでいる様子だったと彼女は言う。


麻薬取締局(DEA)は私たちが提供した名簿の人間を最初に逮捕しなかったんだ。彼らの電話やSNSを調べ、そこから繋がりのある人間を拘束していったらしい。少なくとも佐藤はそう分析していたよ。彼は『これなら俺たちの関与は発覚しないかもしれない』と言っていたかな」


 彼自身それを楽観的な考えだが、と常に前置きしていたことを彼女は覚えており、佐藤が全面的な麻薬取締局(DEA)による捜査で、自分たちが全く被害を受けないとは考えていなかったようである。


「地球側での摘発が続き、ルナリエンに逃げてくるディザータの幹部も出てきた。彼らは設備などをアルフヘイムに売却したりしていたが、それとは別に幹部たちが暮らすセーフハウスというものをルナリエンに作りつつあった」


 豪華な建物が建てられ、高級SUVがガレージには収められ、雇ったエルフの女性がメイドとして勤めるディザータのセーフハウスが何件もルナリエンに存在したとリリエル。


「確かにルナリエンならば麻薬取締局(DEA)の追及は届かない。ルナリエンではホワイト・ピークは違法ではないので、犯罪者として引き渡されることもなかった。しかし、ソフィエルはそのようなディザータの幹部たちを嫌い始めていた。彼らのことを不良債権呼ばわりしていたね」


 ディザータの幹部たちはルナリエンに逃げてきたが、彼らは歓迎されない客であったと語るリリエル。

 彼らはルナリエンにただ居座るだけで、これまでのように富をもたらさず、まともに働きもしなかったそうだ。

 その上、酒に酔って暴れたり、エルフの女性に暴行したりすることから、ソフィエルからすらも嫌われていたとリリエルは語る。


「それでもソフィエルは積極的に彼らを追い出そうとはしなかった。恐らくディザータの幹部たちはソフィエルを脅したのだろう。自分たちを追い出すならば、ルナリエンのことを全て麻薬取締局(DEA)に喋ると……」


 それは証拠のないリリエルの憶測にすぎなかったが、ソフィエルに利益をもたらさず、好まれてもいなかったディザータの幹部たちが、一時期ルナリエンに滞在し続けたことは事実である。


「それから物事はさらに動き始めた。モリが複数の国から指名手配されたんだ」


 ディザータの幹部であり、ホワイト・ピーク取引を拡大したモリ。

 彼にもついに司法の手が伸び始めた。


「モリはそのときルナリエンにいた。彼はスマートフォンを見て叫んでいた。『ふざけんなよ、クソッタレの麻薬取締局(DEA)め!』と。後で佐藤から聞き知ったことだが、彼は指名手配になった時点で口座や物件を差し押さえられたということだった。一瞬で何十億も彼は失ったというわけだ」


 モリを嫌っていた佐藤はそのことを喜んでいたという。


「佐藤は『ざまあみろ』と言っていた。佐藤はモリを嫌っていたから。モリがエルフたちをそそのかしてホワイト・ピーク取引に引き入れたと信じていたんだ。だが、実際には私たちはそれよりずっと前からホワイト・ピークを生活の糧としていた。モリはやったのは……そうだね。ただの販路の拡大とでも言うべきなのかもしれない」


 リリエルは声高にモリを批判しなかった。

 彼女からすればホワイト・ピークという現在はモリという部外者がくる以前から存在していたものなのだ。


麻薬取締局(DEA)と地球の警察組織の追及は激しさを増した。空港で突然逮捕されるディザータの幹部や警察と撃ち合いになっているディザータのメンバーの映像を、私は佐藤に見せてもらった。私はディザータが倒れていく様子を見て、もしかしたらアメリカや国際社会が支援をしてくれるかもしれないという淡い期待を描いた。それぐらい逮捕劇は劇的だったから」


 確かに一連の捜査によってディザータの幹部10名とメンバー100名以上が逮捕されたと発表されている。

 ディザータの多くは第三次世界大戦における脱走兵でもあったので、彼らの多くがまず脱走の罪で軍法会議にかけられたとメディアは報じている。

 またアメリカ国内で押収されたホワイト・ピークの量は麻薬取締局(DEA)の発表によれば50トン近いということだった。


「しかし、アメリカ政府や国際社会は私たちルナリエンがどこにあるのかも知らなかったらしい。彼らの大使はルナリエンを訪れることはなかったし、ルナリエンには10名ほどの指名手配されたディザータの幹部たちがセーフハウスで暮らしていた……」


 ルナリエンへの援助の手は全くなく、ただディザータが猛攻にさらされただけであったとリリエル。


「それから自体が動き始めた。ネプティスがアメリカや複数の国と犯罪者引き渡しの条約を締結した。それから彼らはホワイト・ピークを違法薬物として取り締まる法律を制定したんだ。つまりはX-デイがついに訪れたんだ」


 X-デイ。リリエルとソフィエルがタイムリミットとした異世界の側でもホワイト・ピークの取り締まりが始まる瞬間である。


「ネプティスの動きに他の国々も続いた。なぜならば彼らはそれと引き換えに支援を受けることを約束されていたからだ。インフラの整備や教育、医療の提供を国際援助という形で得たんだよ」


「それはあなたが目指してたことですね……?」


「ああ。私がルナリエンに引き入れたかったものだ。私たちがそれが得られないまま、他の国々は支援を受けていった。理由はシンプルだと佐藤は言った。『それらの国々には地球の企業が進出しており、支援は事実上そのような企業を助けるためのものだ』と」


 異世界でレアアースなどの資源が採掘できても、それを運ぶ道路や港がなければ意味がない。

 それに異世界に劣悪な医療や司法の環境を見ては企業は進出にしり込みする。

 それを解決するためにの支援が行われたのだと佐藤たちは語ったそうだ。


「道路を作ればトラックが走れ、港を作れば輸送船が接舷でき、病院を作れば地球の人間が治療を受けられ、学校を立てればその国の司法のレベルが上がる。そういうことだと佐藤は言っていたよ」


 だから、ホワイト・ピークしか資源のないルナリエンにはそのような支援がないと。


「残念だった。ルナリエンにも何かの資源がないだろうかと佐藤に言ったが、そういう調査を行うには今のはルナリエンは危険すぎると彼に言われた。何かあればソフィエルの国家保安隊が令状もなく拘束し、さらには指名手配されているディザータの幹部たちが武装した護衛とともにいる、と」


 そう、ルナリエンの状況は最悪だった。

 まだ大量殺人などのようなことは起きていないが、一歩間違えばディザータがメキシコの麻薬カルテルのように敵対者を殺し始めるリスクもあったのだ。


「ルナリエンは世界から取り残されてしまっていた。我々の世界でもホワイト・ピークが禁止され、地球の国家から支援を受けているのに我々だけは未だにホワイト・ピークに頼った経済のままだったのだから」


 その懸念をあなたはソフィエルに伝えたのですかと私は尋ねた。


「ああ。伝えたよ。彼女もついにX-デイを迎えて焦りを感じていた。ホワイト・ピークは違法薬物にされたことで流通が困難になった。そのときは利益そのものは末端価格を引き上げることで落ちていなかったが、いずれ赤字に転落するのではないかとソフィエルも恐れ始めていた」


 それからリリエルはソフィエルにディザータを切り捨てるように求めたそうだ。


「『ソフィエル。君も言ったようにディザータはもはや不良債権でしかない』と。『ならば、彼らと縁を切って私たちも他の国のように地球から支援を受けよう』と」


「彼女は何と?」


「『私もそのことを考えている』と。『今のままで駄目なことは理解している。だが、だからといって急激な方向転換を行えば反発が生じ、血が流れる』と彼女は言っていた。彼女も改革の必要性は理解していたが、今日明日にいきなりものごとを変えることには反対していた」


 そう言ってリリエルは僅かに沈黙する。


「私は彼女が保身のためにホワイト・ピークや国家保安隊を武器にしているとは思っていなかった。今でもそうだ。彼女はルナリエンのエルフのことを真剣に考えてくれていた。だが、それでも彼女の行動は遅かったんだろう。多少の流血は覚悟してでも動くべきだったと思う……」


 リリエルは目を伏せてそう思い返す。


「X-デイの7日後。麻薬取締局(DEA)や地球の警察機関はルナリエンこそがホワイト・ピークの原産地であることを発表したんだ。我々エルフが麻薬の密売人であるとして」


……………………

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