商売魂
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──商売魂
ワンも情報軍の撤退で影響を受けたひとりだ。
「情報軍の連中が薄情なのは今に始まったことじゃない」
彼は言う。
「連中は用が済めばささっと撤退しちまう。現地の人間を炊きつけて武器を与えテロリストを育成したあとでもな。そのせいでどれだけの国で新しい性質の悪いテロ組織が生まれ、政情不安を起こしていることか」
まるで情報軍の秘密作戦について知っているようにワンはそう語った。
彼の武器商人としての情報網なのか、あるいはその手の作戦にもワンは関与したのか、私には知る方法はない。
「だが、連中には誤算があった。それは作戦に俺を巻き込んでいたことだ。俺は情報軍の連中より情に厚い。武器を売った後のアフターサービスまでやる。それにまだルナリエンには武器を買う能力があった」
だから、武器を売り続けたとワン。
「ルナリエンには支払い能力があったと?」
「ああ。前にも話したように俺たちは情報軍を省いた取引ネットワークを構築していた。アルフヘイム株式会社、ディザータ、ブリガンテ、そして俺たちのネットワークだ。そしてアルフヘイム株式会社は新しいビジネスを生み出しつつあった」
「新しいビジネス?」
「民間軍事会社の真似事さ」
ワンはそう言って説明を始める。
「これまでルナリエン、というかアルフヘイム株式会社は武器の転売をしていた。俺たちから武器を買って人類諸国に売却することで利益を得ていた。だが、武器だけ与えても使い方が分からなければどうしようもないだろう?」
「それでは彼らも民間軍事会社のインストラクターのように?」
「ああ。連中が抱えている秘密警察──国家保安隊だったか──は軍隊でもあった。それも異世界のようやく現代兵器で武装し始めた国の軍隊よりよっぽど上等な軍隊だ。よく訓練されており、武器の取り扱いだけではなくそれを使った戦術にも精通していた。それを使ってソフィエルは稼ぎ始めたのさ」
「しかし、具体的などのような国の軍隊にそのサービスの提供を?」
「連中が相手にしたのは、まともな顧客じゃない。反乱勢力であったり、犯罪者集団であたりだ。魔族内戦は確かに終わった。地球が注目していた戦争は終わった。だが、世の中が全くの平和になっちまったわけじゃない。人のいるところに争いありだ。その点で俺もソフィエルも商売に困らなかった」
国家保安隊から編成された民間軍事会社のような傭兵たちは、人類諸国のあちこちに派遣されて軍事サービスを提供していたとワンは言う。
それには単純に外貨を稼ぐためという目的以外にも狙いがったとも。
「RLAは実戦経験も豊富であり、何より元ルナリエン遊撃隊という特殊部隊の隊員まで抱えている。戦争になればRLAがリストラされた将兵が行きついただけの国家保安隊では危うい。そこで国家保安隊にも実戦経験を多く積ませ、RLAに対抗するのがソフィエルの狙いでもあったんだろう」
「そのようなことを彼女が言っていたのですか?」
「いいや。やつはRLAを刺激するのを避けていた。だが、状況証拠は国家保安隊の実力向上のためにやつが動いていたことを示している」
国家保安隊から派遣されたチームは軍事教練を実施するだけではなく、実際に戦闘に参加していたとワン。
国家保安隊はNATO式の教本を使い、NATO式の訓練を行う傍らで、その軍事サービスを提供していた国で実戦に参加していたそうだ。
「連中の仕事には助けられた。俺たちは武器を売る販路が増えたし、顧客も満足してリピーターになってくれる。俺たちとソフィエルは大抵は武器と傭兵をセットで販売していたからな。これまでのように武器の扱い方を知らずに、その価値が分からず文句を言う顧客が大きく減った」
そう言って満足げに笑うワン。
「これまでは弓と槍──火薬があればようやくマスケットで戦っていたような連中に銃火器の価値を理解させるのは面倒だったし、軍隊にも既得権益ってやつがある。銃火器が導入されて弓の達人や槍の達人が一斉に失職するのに反発するやつらもいた。それを黙らせてくれたのがソフィエルだ。あいつが国家保安隊による高度な戦術を披露し、従来の軍隊を圧倒する活躍を見せてくれからそういう連中が黙った」
ソフィエルたちは武器を売る前に傭兵として戦争に参加し、そこで実際に銃火器による効率的な戦闘を披露したとワン。
そのパフォーマンスによって取引先の軍にいる保守派は沈黙し、銃火器の大量導入が次々に決まったそうだ。
「とは言え、だ。情報軍の撤退によって売り上げが落ちたのも事実だ。バブルが弾けたって言うべきか。そう異世界バブルは終わったんだ。戦争は終わり、これまでの武器購入っていう過剰投資をやめになり、みんなが緊縮財政で財布の紐を締め始めた。俺たち商売人にとっては辛い時代の到来さ」
そう言って肩を竦めるワン。
「しかし、近いうちにまたデカい戦争が起きて武器が売れるようになるだろう。それまでは地球の側で商売を続ける。こっちも第三次世界大戦ってバブルがはじけたばかりだが、アジアは未だどこも不安定だし、中東情勢もぐらついている。武器はこれからもたんまりと売れることは間違いない」
ワンはそう言って彼にとっては楽観的で、世界にとっては悲観的な見通しをしめして意地悪く笑った。
私は地球の側で彼がどのような国や勢力を相手にしているのか尋ねたが、それについてはワンは回答を完全に拒否した。
そこで私はリリエルの改革をどう思っていたのか彼に聞くことにした。
「ああ。あの改革か。まあ、涙ぐましい努力ってやつだよな。いつまでもドラッグに頼っていたら政情不安や外国からの攻撃を招くってのはよく分かる。だが、あれはちとばかり理想主義すぎた」
ワンははっと嘲るように笑って続ける。
「ルナリエンの独立は保証されたと言っても、それはエルフたちが武器を持っているからだ。その武器はどこからどうやって手に入れたのか? 全てはホワイト・ピーク取引がその疑問に対する答えだ」
もし、エルフたちが武器を手に入れられなくなったら? とワンは問う。
「また魔族たちがルナリエンに攻め込んだと?」
「可能性としてはある。魔族たちだってエルフたちが旧ルナリエン王国の領土を奪還しに来るって恐れていたんだ」
冷戦間ずっと西側諸国は東側に攻撃されるのを恐れていたが、東側も同じくらい西側に攻撃されるのを恐れていたというワン。
「実際のところ、エルフたちが本当に旧ルナリエン王国の領土を諦めたのか、俺にも分からなかった。講和会議で締結された条約原本を見たか?」
「ええ。見ました」
私は彼の問いに頷く。
「おかしいとは思わなかったのか? ソフィエルはルナリエンの指導者とか代表とか記さず、ただ自分の名前を書いただけだ。俺にはこいつがどうにも臭う気がする」
「何故です?」
私がそう尋ねるとワンは理由を語った。
「継続戦争って知ってるか? まあ、第二次世界大戦におけるソ連とフィンランドの戦争なんだが、そこでリスト・リュティってフィンランドの大統領が出てくる」
私はなぜここで第二次世界大戦の話が出るのかと首をひねる。
「当時、ナチは劣勢で、単独講和しようとした同じ枢軸国の連中はそのナチが支援するクーデターを起こされて政権が転覆していた。フィンランドもソ連に押されて講和したかったが、ナチが怖い。そこでどうしたかといえば『これからもドイツと一緒に戦いますよ』って書簡をリスト・リュティって政治家はナチに送ったのさ。しかし、そこに記されていた署名は大統領ではなくリスト・リュティ個人としてサインしていた」
そこがフィンランドのしたたかなところだったとワン。
「個人的にサインしたものだから私が大統領じゃなくなったら知りませんって言い張ってフィンランドはソ連と単独講和。愚かなナチのように全土を蹂躙されるようなことはなかったってわけだ」
「つまり、ソフィエルが役職を記さなかったのも?」
「ああ。やつが退けばエルフたちは再びルナリエン王国の領土を要求するかもな」
そういう意味ではやつは二重に保険をかけているとワンは続ける。
「自分が権力の座から追われれば戦争の可能性があるぞと対外的に脅迫し、内部には自分が退いたときにはルナリエン王国が取り戻せるようにしておきましたよと宥めることができる。ありゃあ生粋の政治家だな」
外部からの政権転覆を防止すると同時に内側の不満も抑えられるとワン。
「それもソフィエルの口から言われたことではないのですよね?」
「ただの外国人の武器商人に陰謀屋の国家元首が全てを打ち明けるとでも思ってるのか? ありえねえ。そんな間抜けな話があった方が信憑性が下がるってもんだ」
私の問いをワンは鼻で笑う。
「まあ、俺の話を信じてもしなくてもいい。いずれ歴史が正しかったか、ただのいかれた男の妄想だったかを明らかにしてくれるだろう」
ワンはそう言って両手をポンと叩いた。
「ルナリエンのエルフたちが王国領を取り戻そうとするならば、俺は喜んで武器を売る。それだけだ。それが武器商人ってもんだ」
無責任な話だと私は思ったが、それを言葉にはしなかった。
もっと彼から話を聞きたかったからだ。
「ディザータがリリエルの改革を妨害しているのは知っていましたか?」
私はそう尋ねる。
「ああ。知っていたが? もしかして、それが悪いことだとでも?」
「あなたもホワイト・ピークのために改革の妨害をしたのですか?」
「俺自身は何もしていない。下手にルナリエンを攻撃してエルフたちの機嫌を損ねたくなった。そういう意味ではディザータの連中は馬鹿だったよ」
トウモロコシ畑や子供たちが通う学校はルナリエンの軍隊であるRLAの保有しているものだったとワン。
RLAはワンの顧客でもあり、それを攻撃するのは買い物に来てくれた金払いのいい客に唾を吐くようなものだったと彼は言う。
「ディザータはそのせいで失敗したんだ。連中に聞けばどういうことか分かる」
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これから完結まで毎日更新します。




