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刃は降ろされた

本日10回目の更新です。本日の更新はこれにて終了!

……………………


 ──刃は降ろされた



 魔族王を射程に収めたと笑う七尾。


「もっとも勝利を祝うにはまだ早い。まだ失敗する可能性はあった。それも複数の可能性があった」


 七尾はひとつずつその失敗する可能性のシナリオについて語る。


「単純に貴族から選られた情報ががせだったと言う可能性。まだ情報が100%信頼できるものかは分析官たちの間で意見の隔たりが見えた」


 まず彼らが考えたのは手に入れた情報が偽りである可能性のシナリオ。

 何せ情報は捕虜が尋問の結果、証言したものであり敵の機密文章でもなんでもない。

 捕虜が苦し紛れについた嘘というの恐れはあったのた。


「次に暗殺作戦そのものの失敗。現場に派遣する部隊が何らかの形で魔族王を仕留めそこなう可能性のシナリオだ」


 精鋭が揃う情報軍特殊部隊だとしても全くミスを犯さないわけではないと七尾。

 それゆえに情報が正しく、その場に魔族王がいたとしても暗殺に失敗するという可能性のシナリオはあった。


「それから確認の実行が妨げられることも我々は恐れていた。爆撃で殺害した場合が特にそうだ。どうやって黒焦げのミンチになった魔族王と彼自身だと特定するのか。魔族王本人や親族のDNAがあれば照合できる可能性はあったが、当時はまだ魔族のDNAについての研究はほとんど進められていなかった」


 魔族のDNAは人間と同じ二重螺旋なのか。それすら分かっていなかったのだ。


「と、まあ様々な失敗の可能性があり、私たちはそれをひとつずつ排除する必要があった。確実にギロチンの刃を魔族王の首に叩き込むために」


 まずは今の情報を複数のルートで確認したと七尾。

 他の捕虜を尋問し、複数の捕虜の証言が一致するかを調べたと言う。

 また可能な限り文章になっている情報を手に入れ、それとも照合したと。


「結果はヨハンの証言は正しかったとかなりの確信が持てた。間違いなく魔族王は前線に出る。その場所も我々は特定できている」


 次にやるのは暗殺を確実に遂行し、かつ殺害した目標が本当に魔族王であると確かめることである。


「暗殺に爆撃を使うのは最初からオプションになかった。死体が判別不能になっては意味がない。実行部隊にはリスクになるが、今回の殺害は相手の目を見て頭に銃弾を2発叩き込むもので決定した」


 魔族王という厳重に警備されていることは間違いない目標に肉薄し、銃弾によって暗殺を実行する。

 それは大変困難な任務のように思われた。


「その場合、暗殺部隊は魔族の軍勢のど真ん中に突っ込むことになるのでしょう」


 私はそう問う。

 七尾は躊躇った様子もなく、イエスと言った。


「勝利にはリスクがともなうものだ。虎穴に入らざれば虎子を得ずということわざの通りに。そして、この作戦には私たちがそのリスクを犯す価値があると判断した。魔族王を殺すことができれば地球の民衆は大喜びする。それには政治的価値が大きくある」


 七尾はさも当たり前のことにようにそう言ったのだった。


「鉱山のカナリアに選ばれたのはマイク・フォースだ。マイク・フォースは情報軍の士官や下士官が指揮し、ルナリエン遊撃隊の兵士たちがその指揮下で戦う部隊だ。彼らは浸透部隊が確保した着陸地点(LZ)に降下し、そのままいつものように魔族王のいる砦のドアを蹴り破り、目撃情報やこれまで得られた生体情報で魔族王が替え玉などではないと確認したのちに銃弾を叩き込むのが仕事だ」


 七尾は淡々とギロチン作戦の詳細について語っていく。


「そして、決行の日。現地の浸透部隊はマイク・フォースの強襲のための破壊工作にも従事した。浸透部隊は敵の注意をそらすために各地で兵站物資などを狙って爆破を行い、魔族連合軍の注意も逸れた」


 浸透していた少人数の部隊は魔族王の護衛の注意をそらすために、魔族連合軍の後方で破壊工作を繰り広げた。

 弾薬庫に火を放ち、橋を爆破し、輜重部隊を襲ったのだ。


「魔族連合軍がそれによって戦力を分散させ始めてかいよいよギロチンの刃が落とされることになった」


 七尾は続ける。


「場所はオデーリアと呼ばれる街だった。今は逆侵攻を仕掛けた人類国家との前線になっている場所で、そこに魔族王がやってくる。これからは反転攻勢の指揮を執るために、そして魔族たちの士気を上げる宣伝のために」


 そう語る七尾。

 私は七尾にオデーリアの場所を教えられた取材に向かった。

 かつて魔族の前線基地であったオデーリアすでに魔族のものではなくなっていた。

 城壁に囲まれた街の中で暮らすのは人間であり、ここに魔族が板という痕跡はほとんど何も残っていない。

 当然ながら魔族の王の墓などもなかった。

 しかし、魔族王が襲撃された場所について今も健在だった。

 それはこのオデーリアの街の中心地に位置する城塞であり、そこで魔族王は情報軍とルナリエン遊撃隊の混成部隊によって襲われた。


「我々は深夜に動いた。パワード・リフト機を密かに飛ばし、城塞に直接乗り付けて強襲し、そののちにやはりパワード・リフト機で兵士たちを回収すると言う計画だ」


 七尾はこの作戦のために空軍も待機していたと語る。

 いざというときは彼らは近接航空支援(CAS)を行うとして。

 大規模な空軍まで動員された作戦に私はその結果を知りたくなった。


「強襲作戦は予定通り実行された。隊員12名を乗せて夜の空に飛び立ったパワード・リフト機は魔族王がいる城塞に向けて飛行した」


 2機のパワード・リフト機に搭乗したマイク・フォースの兵士たちは、恐らく自分たちがこれから行うことにそれなりの重責を感じていたはずだ。

 少なくともルナリエン遊撃隊の兵士たちはそうだろう。

 この暗殺に成功すれば彼らにとっては長い魔族との因縁が終わるときがくるはずなのだから。


「パワード・リフト機は気づかれることなく城塞に接近した。静音性の高い特殊作戦用の機体を使ったから夜の闇の中で相手は我々の接近に気づかなかっただろう。兵士たちはファストロープ降下で素早く城塞の練兵場に降り立ち、魔族王の捜索を始めた」


 城塞のどこに魔族がいるかまでは情報がなかったと七尾。


「素早く城塞内を調べる必要があった。それも騒ぎを起こさずに。騒ぎが起きれば魔族連合軍でいっぱいのオデーリアでマイク・フォースの隊員たちは孤立してしまう。彼らには隠密(ステルス)だけがこの作戦の唯一の選択肢だと伝えてあった。決して騒ぎを起こすな、とね」


 幽霊のように行動しろと七尾はマイク・フォースに伝えたらしい。


「彼らはサプレッサーの装着されたアサルトライフルと最新の暗視装置、無人地上車両(UGV)が与えられていた。支援は可能な限り与えた。もし、オデーリアで情報軍の兵士が捕虜になるか殺害され、その死体が街中を引き回されるような光景が生まれるのは絶対に避けたかった」


 ファルージャの戦闘で死んだブラックウォーターのコントラクターの死体が晒されたようなシーンが1枚でも写真として漏洩すれば、異世界での軍事作戦は突然全面的に否定されただろうと七尾。


「幸い現地の魔族は眠っているように静かだった。攻撃を全く予想していなかったのだろう。マイク・フォースは砦内を確実に捜索していき、魔族王を探した」


 七尾は障害となる警備の魔族は喉笛を掻き切られるか、銃弾を受けて死んだという。


「我々は司令部から隊員の付けているカメラで情報を得ていた。オバマがビンラディンの暗殺をSEALsの隊員のカメラで見ていたようにね。だから、現地の情報についても見てきたように説明できる」


 そう言って彼は暗殺現場の様子を説明した。


「当日は新月であり、かつ砦の中には僅かな光源があるだけ。ほとんどは暗闇だ。ところどころにあるのは篝火でそれは光源としてかなり弱い。石造りの城塞の中をマイク・フォースの隊員は縦列で移動する。先頭を進むのは小型の無人地上車両(UGV)。隊員も無人地上車両(UGV)も足音はひとつも立てない」


 私は七尾の説明を聞いて当時の様子を思い浮かべることができた。


「部屋から部屋へとクリアリングして進んでいく。魔族王の外見特徴のある魔族を探した。そうでなくとも魔族は殺したがね」


 七尾はそう肩を竦める。


「『厳重に警備された部屋がある』とそう報告が入ったとき、私は徹夜の作戦に堪えてコーヒーで眠気を覚ましていた。やっとかと思ったね。『警備を排除して確認しろ』と私は指示した」


 それから警備は頭に銃弾を受けて排除された。

 マイク・フォースの隊員たちは扉の前で配置につく。

 ドアを破るため爆薬の準備をし、扉の両側に兵士が立った。

 扉を爆破すればすぐさま兵士たちが飛び込んで中にいる魔族を殺害するのだ。

 それが魔族王なのかはまだ分からない。


「カウントダウンが始まった。3カウントののち突入だ」


 3、2、1と短く隊員たちがカウントする。


「ドアが小さな爆発音とともに爆破されてマイク・フォースは突入した」


「どうなったのですか?」


「サプレッサーに抑制された数発の銃声が響いた。それから連絡があった。『魔族王らしき目標を殺害』と」


 魔族王の身体特徴と一致し、生体情報とも一致する。

 だが、まだ魔族王かどうか分からないという情報だった。


「『確認しろ』と私は指示した。写真が撮影され、これまで魔族王のものとされてきた写真と照合された。結果はすぐにでた」


「どうだったのです?」


 これは5回中4回の失敗した暗殺のエピソードなのか、成功したそれなのか私にはまだ分かっていない。


「一致した。我々が殺したのは魔族王だ。私は言った。『目標を確認した』と。それから頭に2発確認殺害が行われ、撤退が始まった」


 魔族王という大物を殺害したという話なのに七尾はほとんど感情を見せなかった。

 そこに興奮もないし、喜びや後悔もない。


 作戦は終わったとそれから七尾が続ける。

 魔族王は死にあとは撤退するだけだ。


「長居は無用だった。すぐにパワード・リフト機で引き上げて、この魔族王殺害という戦果を宣伝広告として誇れるようにしておきたかった」


 しかし、そこでトラブルが起きたと七尾。


「パワード・リフト機の現地への到着が遅れた。そして、魔族はそのときになって我々の侵入を検知した」


 彼は警報が鳴り響き、魔族たちが城塞に押し寄せてきたと言う。


「待機していた空軍の戦闘機が近接航空支援(CAS)を実行して、航空爆弾で魔族を薙ぎ払う。それでも魔族たちは押し寄せ続ける。マイク・フォースは銃弾をばらまき、さらに爆撃、爆撃、爆撃」


 戦闘機がはるか上空から爆弾を落とし続けたと七尾は語る。


「ハリウッド映画ならば後半の派手な盛り上がりができたと満足するかもしれないが、我々としてはたまったものじゃない。作戦は滅茶苦茶になりかけていた」


 魔族は矢の届く範囲までマイク・フォースに迫っていたとも彼は言った。


「そこでようやくパワード・リフト機が到着した。魔族が迫る中、マイク・フォースの隊員たちは着陸したパワード・リフト機に素早く乗り込んだ」


 そこでようく安堵の息が出たと七尾。


「魔族王は死んだ。これで魔族は弱体化する。戦争の終結は近い。そう我々は考えていた。だが、それは少しばかり甘い見通しだったことは認めなければならない」


 七尾は続ける。


「魔族が内戦を始め、今度はそれに巻き込まれたからだ」


……………………

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