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ギロチン作戦

本日9回目の更新です。

……………………


 ──ギロチン作戦



 七尾に私が再び接触できたのは最初の接触から2年が過ぎた冬のことだった。

 その日の東京は雪空でちらほらと雪が舞っていた。

 七尾はそんな中で以前とは別のアパートの一室で私とあった。


「まだ記事にできていないのかね?」


 七尾はまず皮肉るようにそう言ってきた。


「ええ。まだ確認すべきことがありますから」


 私はその皮肉を流してインタビューを開始しようとする。


「モリやワンに会っても、なお分からないことが?」


 私はその言葉に背筋に寒いものを感じた。

 モリに会ったことはすぐに分かるだろう。刑務所を情報軍は監視しているはずだ。

 だが、ワンに会ったことまでバレるとは思って見なかった。

 情報軍は私をずっと監視しているのだろうか……?


「そうです。リリエルから聞きました。あなた方が魔族王を暗殺した、と」


「ああ。その話か……」


 七尾はやはり私の言葉に動揺したりはしなかった。

 彼は全く表情を崩さず、厳重にカーテンが閉められた窓の方を見る。


「公式発表では手を下したのは我々じゃない。ネプティスだ。だが、君は調べているのだろう。だから、こう前置きした上で語るとしよう。私がこれから語るのは日本情報軍の公式の見解ではない、と」


 芝居めかして七尾はそう言い、魔族王暗殺までの情報軍の動きを語った。


「我々が何度魔族王の暗殺を謀ったかという話だが、5回だ。そのうち4回は失敗している。この失敗の多さは我々が現地の政治メカニズムについて理解していなかったことに起因している。そう、間違いの原因は『王は城にいる』という思い込みだ」


 仮にも王と名乗るならば王城で政務を行っているはずだと情報軍は当初魔族王について考えていたと語る。

 確かにアメリカ大統領はホワイトハウスにいて、日本の首相は首相官邸にいることを最初にイメージするからそれは別におかしなことではないように思えた。


「かなり早期から我々は魔族王の暗殺を考えていた。一種の斬首作戦だ。国王不在の状況は政治的に、軍事的に魔族連合軍にお大きな麻痺を生むだろうという考えからね。そう考えて我々がまず攻撃したのは魔族連合軍の首都にある王城だ」


 地球による軍事介入が始まってまず彼らは首都の王城を爆撃していたのだ。

 随分と無茶苦茶だ。

 講和の交渉相手がいなくなることを考えなかっただろうかと私は指摘する。


「講和? 最初からそんなものは考えていない。前にも言ったように私たちに必要だったのは保安官に盛大にやられてくれるアウトローであり、毎週のように爆撃で消えてくれるテロリストたちだ。それなのに魔族と講和するなど」


 下手に講和した方が余計な政治的問題を地球側に生むと七尾。


「我々は異世界の平和がどうこうということには、最初から関心はなかった。どうして異世界の安全保障に我々が責任を持つ必要がある?」


「魔族を批判して軍事介入したのに?」


「そう、エルネスト・レポートの巻き起こしたヒステリーが原因でね。理由が理由だけに深入りするつもりはなかった。どうせCNNやG24Nが報じない世界のことなど、有権者は1年もしないうちに忘れる。そのために軍事費を割き、兵士を死なせるのは愚かだ」


 七尾は無茶苦茶なことを言っているようで、実のところ私よりずっと冷静に世界を見ていた。

 確かに地球の異世界への熱は数年で冷めた。事実だ。

 今ではニュースにもならないし、何が起きているかにそもそもみんな興味がない。

 私の専門分野内で調べたところでは、それは異世界がこれまでファンタジー小説で語られていたような、ある種の理想郷ではなかったことも理由である。

 異世界行けば魔法が使えて、地球の人間はその技術でまさに王様のようになれ……というのはありえない妄想だとはっきりしていたからだ。

 佐藤という民間軍事会社(PMSC)のコントラクターが実際に異世界で過ごしたことについて証言した内容を見てもそれは明白だろう。

 彼らは地球の技術を持っていたが、王様にはなっていない。


「とは言え、王城を爆撃しても魔族王は殺害できなかった。我々は2度も魔族王を狙って王城を爆撃したが、後日我々が確認したところやつは生きていた。王は城にいなかったというわけだ」


 なぜか情報軍による魔族王暗殺は空振りに終わった。

 魔族王はどこに隠れていたのだろうか?


「ここで地球の歴史を思い出すとしよう」


 不意に学生に講義するように七尾が言う。


「古代ローマの時代だ。カエサルは執務室からガリア遠征を指揮しなかった。なぜならばそんなことを可能にする通信インフラは当時存在しなかったからだ」


 ガリア戦記は学生の頃、私も読んだことがある。

 確かにカエサルは安全な後方の執務室からガリア遠征の指揮を執っていない。

 彼は守られてはいたが前線にいた。


「この状況は長く続く。それは単純に通信インフラの問題だけではない。下手な人間に軍の指揮権を任せれば反乱を起こすかもしれないという懸念もあった」


 戦国時代の日本がいい例だと七尾。


「アウステルリッツの戦いでもフランス、オーストリア、ロシアの皇帝が戦場に出ていた。つまり、そういうことだ。魔族王は安全な後方で部下に戦争を任せているのではなく、まさに前線の近くにいたというわけだよ」


 これが自分たちが犯した政治メカニズムへの誤解だと七尾は語ったのだった。


「ようやく自分たちが盛大な勘違いをしていたということを把握してから、魔族王が前線で目撃されたという情報を我々は確かめようとしていた。そのためにルナリエン遊撃隊が必要だったこともある」


 ここでリリエルのルナリエン遊撃隊の名が出る。


「情報軍の特殊部隊を大規模に展開するのは当初の前提が崩れる。我々の軍隊から戦死者を出さないということ。それが前提だ。地上軍の大規模投入はその前提に反する結果になるのは目に見えている」


「だから、RLAを動員した?」


「ああ。彼らは高度に訓練されていた。特に我々の必要とする偵察活動に動員できる人材が存在していた。そして、彼らは我々が投資して育てた存在だ。我々のために役に立てても罰は当たらないだろう」


 それに魔族王が死んで戦争が終わることはルナリエンの利益になったと七尾。


「我々の立てた作戦はギロチン作戦と呼ばれていた。言っておくが公式名称ではないから調べても無駄だ」


 ギロチンの刃で魔族の首を斬り落とす。

 これまでの謎めいた情報軍の姿を見れば、作戦内容に対して作戦名が率直すぎていると確かに感じた。

 公式名称は恐らくもっと不可解で、当たり障りの舞いものになっているのだろう。


「我々の作戦は3段階で構築されていた。敵地への浸透、魔族王のスケジュールおよび所在の確認、そして殺害の実行だ」


 浸透から情報収集、そして殺害の実行の3段階。


「浸透は敵地に深く浸透する必要から、いくつかのチームに分かれた」


 大人数でうろうろしていれば魔族側に探知されると七尾は説明。


「情報軍の士官1名とルナリエン遊撃隊の兵士3名で構成される偵察隊をいくつか編成した。そして、我々が無人航空機(UAV)で確認した魔族の大規模な拠点を監視させ、さらにその中に潜入させた」


 魔族王暗殺に必要なのは無人航空機(UAV)を飛ばして得られる空からの情報だけではなかったと七尾。


「空から見ただけでは誰が前線指揮官で誰が魔族王なのか区別がつかなかったし、魔族王が次にどこに姿を見せるという情報がなければ暗殺は準備できない。我々は今度こそは確実に魔族王を仕留めなけれならず、爆弾を意味のない目標に落とし続けるわけにはいかなかったのだ」


 爆撃が恒常化すれば魔族側もシェルターを作ったり、航空機に察知されないよう偽装するなどの対策を立て始めてしまう。

 七尾たちはそう懸念していたそうだ。


「魔族王の居場所を掴むのには……苦労した。我々にはとにかく広い前線のどこかにいるという情報しかなく、具体的な情報を探すのにどこから手を付けていいのかも最初は分からなかった。そこで我々は魔族連合軍の司令官たちをこれまでのように暗殺するのではなく、尋問して情報を得ることにした」


 情報軍とルナリエン遊撃隊の兵士たちは、魔族連合軍の後方に浸透することには成功しており、彼らはそこで魔族の司令官たちを拘束する作戦を開始した。


「まずは浸透している偵察隊が司令官を探し出す。発見した場合、彼らが直接司令官を拘束するのではなく、マイク・フォースが対処した」


「マイク・フォース?」


機動(Mobile)部隊(Force)だ。これも情報軍とルナリエン遊撃隊の混成部隊だった。空軍の援護の下、パワード・リフト機で機動して作戦に当たる空中機動部隊」


 七尾はそう短く説明した。


「マイク・フォースは浸透部隊が掴んだ司令官の居場所のドアを蹴り破り、そこから司令官を引きずり出して後方連行するのが仕事だ。あとは情報軍の尋問のプロが対処した」


「捕虜を拷問したのでは?」


「拷問の定義による。身体を損傷しない限りは拷問ではなく強度の尋問、という言葉は聞いたことがあるだろう。私たちはそういう観点からすれば拷問はしていない」


 強度の尋問。それは拷問と何が違うのだろうか?

 私はそこにジョージ・オーウェルのダブルスピークに似た欺瞞を感じた。


「尋問は最初はなかなか有力な情報がなかった。というのも、我々が捕まえていた司令官というのは、大抵の場合は中央にコネのない下っ端だったからだ。ピラミッド型の組織図において中層に位置している存在だ」


 魔族をトップに王族、中央の貴族、地方の貴族、そして平民というピラミッドが魔族連合軍を構築していたと七尾は説明する。


「しかし、我々は考えた。これだけシンプルな組織なら下から突き上げていけばいずれは魔族王に辿り着くとね」


 七尾たち情報軍は下からの突き上げを始めた。

 まずは地方の貴族からなる司令官たちを拷問し、それからその情報を下に中央の貴族に手を伸ばし、中央の貴族から魔族王を捉えようというわけだ。

 その作戦は順調な滑り出しを見せていた。

 忌まわしいことだが『強度の尋問』とやらは魔族に対して有効であり、情報は集まっていった。


「我々はついに中央の貴族のひとりに狙いを定めた。そいつは間違いなく魔族王の情報を持っているという確信があった。我々が現地で作った情報網が、そいつが魔族王にもっとも近いという確信を抱かせていた」


 その情報網については今も生きているので明かせないという七尾。


「仮にその貴族の名をヨハンとしよう。我々はヨハンが城にいるところを襲撃した」


 深夜にパワード・リフト機が密かに城に近づき、ドアを蹴り開けてスタングレネードを放り込み、マイク・フォースはヨハンを拘束して連行したの多と語る七尾。


「すぐさまヨハンの尋問が行われ、そいつの口から近々魔族王が自ら指揮を執って攻勢に出るという情報が入った」


 七尾は意地悪くにやりと笑った。


「これでチェックメイトだ。そう思ったよ」


……………………


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