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受験生に魔法少女は荷が重い  作者: 発狂済みの受験生
6/6

受験生にクリスマスは荷が重い

遅ればせながら、メリークリスマス。前回の更新に書き忘れてました。


短めです。

クリスマスも過ぎちゃったし、書いちゃったので出しますが、ほぼ確実にこの話の前に差し込みでストーリーを入れると思います。

 光陰矢の如し、とはよく言うが、最近は矢なんてもんじゃない。弾丸、いやまさしく光の速さとでも言おうか、いや光陰には光の意味があるんだっけ、ないんだっけ。

 現実逃避は得意だけど、流石にそろそろ逃げてもいられなくなってきた。


 ざっざっという軽快な音と共に砂埃が舞う。それを風が攫って地面に還していく。そして地面からまた風が砂を運んでくる……嗚呼、雪泥鴻爪せつでいのこうそう、外掃除の宿命かな。


 今日は年に数度の大掃除だ。

 とはいえ私が通うこの学校は2学期制なので、冬休みに入るからといって終業式などの行事があるわけでもなく、ふっつーに授業を受けてからここにいる。今日の最後の授業は体育だった。それも、高校生活最後の体育だ。

 今日で体育も人生最後かぁ、と終わってから実感する。大学によっては必須授業に体育があるところもあるそうだけど、私の志望校には体育の授業はない。運動は苦手だし、正直ホッとするような、けど寂しいような気もする。

 少なくとも、卓球、テニス、サッカー、バスケにバドなど、多種多様なスポーツを、ちゃんとした設備のもと無料でプレイすることができる機会は体育以外にないだろう。もう体力テスト、ひいてはシャトルランをする必要がないことは狂喜乱舞し叫びながら道路を爆走するに値する朗報であることは確かだが……あれ、結局走ってる?


 閑話休題。

 とにかく、体育の授業の終わりという明確な区切りを迎え、かつ年末という最大の節目に立たされた私は、時間の流れの残酷さにメタメタに打ちのめされているわけだ。


 しかしそれにしても、地球まで私に追い討ちをかけてくるとは。


「暑い……」


 まさかクリスマスともあろう日に『暑い』という感想が出るとは思わなかった。

 体育からそのままのジャージ姿だが、これは上下いらなかったかもしれない。私、寒いより暑い方が嫌いなんだよ……。

 本当にクリスマスか、と問いたくなるほど強い日差しの中で、早くも汗が吹き出るのを感じる。


「地球温暖化は怖いねぇ」


 と、思わずぼやいてしまうほどだ。

 本当にこの冬は異常だ。全然寒くない冬とか、冬とは呼べない。

 この時期で最高気温18℃とかありえんでしょ……。


「ここ2、3年で急に暑くなりすぎだよ」

「ほんとは地球温暖化じゃない何かのせいかもしれないねぇ」

「まさかぁ……って、いたの」


 いつの間にかサクヤが居てちょっとびっくりした。

 サクヤは本物の猫みたいにぺろぺろと毛繕いしながらニヤニヤするという、器用なまねをして見せている。割とむかつく。こいつ、本性みたくねっとりしてるんだよなぁ、性格。


「なに、この暑さも魔法のせいだとか言いたいの?」

「さあねぇ」

「なにそれ」


 全く……砂ぶっかけてやろうか。


「ていうか、もうクリスマスかぁ……暑さとか抜きにしても、クリスマスって感じしないなぁ」


 普通に授業あるし、なんかいつの間にか来てた感がすごいし、特になにも変わった感じもしないし。

 昔はこう、クリスマスと言えば、冬休みの始まりで、クリスマスプレゼントを心待ちにしててーーなんというか、すごく、特別感があったな。クリスマスといえば、非日常のワクワクする行事だったはずだったのに。

 今では、昨日も今日も変わらずに勉強漬け。今日の晩御飯はきっと豪華なものになるだろうし、プレゼントも頼んだし、楽しみな気持ちがないではないけれど、それ以上に「もうクリスマスが来てしまった」という絶望と焦りに苛まれて純粋に楽しむ気にもなれない。

 どんより気分が顔に出ていたのか、サクヤが毛繕いをやめて、でんと居座る構えを見せた。それはそれは見事な香箱座りだ。せっかく毛繕いしたのに汚れそうだ、ツヤツヤな毛並みが勿体無い。


「クリスマスって、今ではキリストの誕生日ってことになってるけど、最初は冬至を祝うお祭りだったらしいよぉ。長い夜の季節が終わりを迎え、新しい年を迎えることを神に感謝するとかなんとか」

「へぇ……そっか、22日は冬至だもんね」


 じゃあ、もともと冬至を祝うお祭りだったものが、キリスト教と合体したってことだろうか。

 「どっちもめでたい日だし、まとめて祝っちゃえ!」みたいな。


「それなら、クリスマスが本当にキリストの誕生日かどうかも怪しいよね。大昔のことだし」

「人間のキリストがどうだったかは知らないけど、魔法的にはそういうことになってるようだねぇ」

「難しい言い回ししないでくれる?」


 ははは、なんてどうでもよさそうに笑われると、ふわふわの触ったら気持ちよさそうな猫耳を抓ってやりたくなる。ていうか抓った。みゃっ! って飛び上がるサクヤを見て満足する。


「ちょっと、ひどいなぁ」

「小難しいこと言って誤魔化す方が悪い」

「簡単なことだよ、人々がみんなクリスマスがキリストの誕生日って信じてるから、『キリスト』の誕生日はクリスマスでおーけー。それだけの話だよ」


 サクヤはなんてことないように言うけど、考えるほどこんがらがってくる説明だ。


「……これまで何体か魔法を浄化してきたけど、やっぱり魔法ってよくわかんない」

「わかんなくて大丈夫だよ、浄化さえできればいいんだから」

「下手な悪役みたいな言い草だね」

「えぇ? これ以上なく詳細な説明をしてると思うんだけどなぁ。魔法少女ものの悪役なら、嘘はつかないまでも真実を話さないことで騙す手口とか普通に見られるけど、ぼくは誓って嘘も隠し事もしてないよーーって言ってもまぁ、君は信じないだろうけど」

「うん、口だけならなんとでも言えるし。疑り深いよ、私は」


 いろんなことを考えて、考えて、動けなくなる優柔不断さの源でもあるけど。

 そう思うとちょっと落ち込んでしまう。


 そんな私の答えを聞いたサクヤは。

 知ってる。

 そう呟いて、少し目を細めたように見えた。


「いいよ、魔法は人間に嘘をつけない。どんな嘘も本当にしてしまうのが人間であり、魔法だからね。


 ーーだから、今ここで誓おう。この聖なる夜は神々が近づく時。とは言ってもまだ昼だけど、それでも誓いにはぴったりだ。


 ぼくは契約者たるたちばな舞雪まいになんの嘘も隠し事もしない。意思疎通の問題で伝わらないことはあるだろうけど、舞雪の疑問には真摯に答えるよ」


 約束だ。

 いつの間にかきちんと尻尾を揃えて座っていたサクヤは、静かにそう言ってまっすぐに私を見ていた。

 さっきまでのちょっとふざけた雰囲気は今だけは完全に鳴りを顰め、私は箒を手にしたまま動きを止めて息を呑んだ。

 私と同様に、世界も止まったような錯覚に陥る。風もなく、静けさだけが二人の間に横たわっている。

 彼の若葉色の感情を映さない瞳に、吸い込まれそう、なんてぼんやり思って。

 なんとなく、彼の言葉は信じてもいい気がした。


「できれば答えて欲しいな?」

「……あ、うん、わかった」

「ならよし」


 風が吹いた。冬の風が、直射日光で火照った肌を冷やしてゆく。風だけはちゃんと冬の空気を纏っている。

 サクヤは満足げに尻尾を立てて先っぽをゆらゆらさせていた。


「じゃあぼくは行くよ。今日はワインを飲みたい気分だなぁ」

「またお酒……? 自分でお金出すなら文句は言わないけど、私の部屋では飲まないでよね」

「心配しなくても一杯飲むだけだよ」

「そういう問題じゃなくて……って、珍しいね。いつもは一瓶とか余裕で空けるのに」

「ワインはあまり好きじゃないからね」

「じゃあなんで飲むの」

「飲みたい気分だから」


 はぁ、と私はため息をついた。釈然としないけど、気分なら仕方ない。釈然としないけど。

 私が呆れているのを察してか、サクヤは足早に去っていった。軽々とフェンスを跳び越えるのを見届ける。

 ……次は制服に着替えて体育館に行かないといけないし、箒片付けに行こう。


 クリスマスプレゼントは、好きなユーチューバーさんのグッズを頼んだ……楽しみで勉強も捗るというものだ。

 そういえばサクヤにプレゼント用意してなかったな……チョコレートボンボンでも買ってってあげようか。


 さっきの出来事については考えないことにした私だった。

恋人? なにそれ美味しいの?

そんなものに縁のない世界に生きているもので……


雪泥鴻爪:雪解けのぬかるみには鴻の爪あとさえ残らない。転じて、行方がわからないこと。跡形も残らない人生にたとえる。

掃いても掃いても舞い戻ってくる砂たちには、私の懸命な努力も跡形も残らない……でもその格闘の日々も、そろそろ終わり……やったぜ。


週一宣言はどこへやら。

気づけば年末ですよ、年末。

にしても、この冬は暖冬にも程がありますよね。


共テまであと20日

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