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受験生に魔法少女は荷が重い  作者: 発狂済みの受験生
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受験生にシリアスは荷が重い

病んでたとはいえ、学校パートにこんなに時間がかかるとは……実は私、高校生じゃないのかも。

「あぁぁぁ……」


 月曜の昼休み。

 数学が終わったという開放感を上回る、授業の終わりに配られたそれがもたらす絶望に押しつぶされるようにして、机に突っ伏し、教室のがやがや音を聞き流す。

 冬の空気に冷やされた机は冷たく、寒さと絶望で冷え込んだ額を容赦なく冷してくる。

 教室は暖房も効いているはずなのになんでこんなに冷たいのかなぁ。

 冷え性気味な私の指先はすでにかじかんでいて、腕をお腹のところで丸めることでどうにか温めようとする。

 しばしそうして、机の上に放ったそれが目に入らないようにしていると。


「まいやん、どしたの? 具合悪い?」

「……いや、それを視界に入れたくないだけ」


 なながちょっと心配そうに声をかけてきたので、返事をしつつ、顔を上げる。

 ななとは、いつも弁当を一緒に食べる仲だ。

 ななが弁当を取り出すのに応じて、私も机の上のそれをなるべく視界に入れないようにして机の中にしまい、弁当を取り出した。


「私、模試の結果びみょーだったわー。前回から全然伸びてない」


 ま、自己採点でわかってたけどね、なんて軽く笑って言うなな。

 白米を口に入れてもぐもぐしていた私はそれにジト目で返した。


「結果わかってるからこそ見たくなかったのにぃ」

「あれ、まだ見てないの?」

「見るための心の準備には時間がかかるんだよ」


 一月前に受けた模試だけど、自己採点の結果は覚えてるし、それからして志望校の判定もよくないことは、もはやこの世の摂理だ。


「せめて自己採点で大幅にミスってて、実際の点数爆あがりだったらいいのになぁ」

「それはそれで本番にやらかしたら終わりだけどね」

「もちろん模試限定でね」

「それなら私だってそれがよかったよ。この前から11点しか上がってない」

「11点も上がってんじゃん」

「全教科通しでたった2、3問正解したかしてないかでしょ、ほとんど誤差だよ」


 それもそうか、と納得しつつ、ウィンナーを口に運ぶ。ウィンナーおいしい。


「で、心の準備できた?」


 そんなこと急にぶっ込んでこないでよ、どこぞの不思議ネコじゃあるまいし。ウィンナー吹き出すかと思ったわ。

 しっかり飲み込んでから口を開く。ななのニヤつきに、無性に頭をぐりぐりしたい気持ちになりながら。


「そんなの永遠にできるわけないでしょ」

「うそやだこの人、永遠に受験しないつもりでいらっしゃる?」

「んなこと絶対に嫌だわ」

「じゃあ、点数教えてよ、上がり幅だけでもさ」


 嫌なら言わなくてもいいけど。

 なんてななが言うから、私は冷たい手のひらで目を覆って、ため息をつく。

 そして、さっきから執拗に視界から外していたそれを机から取り出した。


「あ、自己採点より9点上がってる……前回よりは……23点上がった」

「おー、いいじゃん」

「でも志望校に届かせるにはあと100点は必要なんだよなぁ」

「それなー、私も数学がもっと上がればなぁ」


 そう言ってため息をつくななを尻目に、紙を裏返す。

 裏の志望校判定は、ななには言わないけど……D。

 これには唸るしかない。


「まぁでも、現役生はこれから伸びる、とかよく先生たち言ってるし」

「なんて信じてなさそうな顔で言われても」

「だって、この時期の模試から共テ本番で300点上げたとか、俄かには信じがたいよね」


 あぁ、そういえばそんなのあったな。

 1週間ほど前、学年集会にて受験についての話をされた際に、去年の受験生、つまり一個上の先輩方の共通テストの11月ごろの模試と本番での点数の上がり幅がランキング形式でまとめられたスライドが紹介されたのだ。

 受験生の上がり幅の平均は89点ほどだった中で、いやそれでも驚異だが、一際異彩を放つ数字が一番上にあった。


「あれは元が低かったからだって。そうに決まってる、そうじゃなきゃ私は死にかねない」

「そうかもしんないけどさ」


 そうでなくても、元々823点を取ってた人が、本番で912点なんて取ってるのが見えてしまったんだ……衝撃すぎて細かい点数まで覚えてる。きっとこの方は日本一の東〇大学とか行ったんだろうなぁ……

 それに比べれば、400点台が700点台に上がったのもなんてことない。

 どちらも私とは色んな意味で次元が違う。


「どっちにせよ、そんな偉業が達成できるだけの努力をする気力も体力も時間もないわな」

「それな。まぁでも、あれを聞いたら、100点とかもうちょっと頑張れば上げられそうって思えるようになったわ」


 まぁ無理だけど、なんてなながぼやきつつ、ハンバーグを箸でつついている。

 30点上げるだけでも大変なのに、300点上げるためには一体どれだけの努力量が必要なのか……思わず遠い目になってしまう。

 二人の間にどんよりした空気が漂い始めた時、ハンバーグを勢いよく口に入れて飲み込んだなながバッと顔を上げ言った。


「あー、もうやめやめこんな暗い話題」

「ななが始めたんじゃん……」


 なんか話題を考えているのか、ななが考え込んでるのを尻目に、私は白米を口に入れる。弁当の白米は冷めててべちゃっとしているのであまり好きではない。


「あ、そーだ、そういや、この前公園行ってなかった?」

「ぶふっ」


 いきなりぶっ込んできたものだから、ちょうど噛んでた白米を吹き出しそうになってしまった。咄嗟に口元に手を持っていってなかったら、どうなっていたことか……ななめェ。

 元凶のななは私の心境など知らず、え、大丈夫? と純粋に心配してくれる……むぅ、憎めん。

 私の無事を確認したななは、左手に顎を預けてニヤニヤしながらこちらを見ている。


「もしかして、彼氏とか?」

「んなわけないでしょ、ちょっと気分転換で散歩してただけだし」

「そっかぁ、だよねぇ」


 けらけら笑うななのほっぺを引っ張ってやりたい……! ご飯中だし自制するけど。代わりに軽く怒りを込めてほっぺをツンとつつく。

 ごめんってばー、なんておどけるななと笑いつつ、話題が流れたことにホッとする。

 だって、魔法少女に変身して魔法を浄化してたんだー、なんて馬鹿正直に言ったりしたら、笑い飛ばされるか、「受験勉強で疲れてるんだね……病院行く?」と哀れみの目で言われてしまうに違いないのだから。

 


 土曜日のことは、時間がたった今でも現実感がない。夢でも見ていたかのようだ……今でも家でお酒を空けているであろうさくら色猫のことはあまり深く考えない。


 地を駆け、風を切り、宙を跳ぶ触覚、全能感とも言うべき高揚、自分がもたらした春風の柔らかさーー空へ昇っていく魂たちの煌めき。

 自らの掌で触れた、魔法の冷たさ。


「ねぇサクヤ、魔法ってなんなの」


 ふと、あの後サクヤに聞いた時のことを思い出す。

 何事もなかったように右肩に跳び乗ってきたサクヤは、小首をかしげて答えた。


「現象が意思を持ったーー」

「そう言うことじゃなくって」

「ーー今のかい?」

「……」


 黙って、両の掌に目を落とす。

 あれは、あまり気分のいいものじゃなかった。

 サクヤが黙り込んだ私の掌を一瞥した気がした。


「魔法の強さには個体差があるってのは言ったでしょ? 自我を持つほど強い魔法もいれば、ここに漂う空気よりも薄いやつもいる。

 弱い魔法は人間の思念の影響を受けやすい。

 そういう魔法は時に、人間の思念に飲まれることがあるんだ」


 空気くらい薄い魔法でも、それを飲み込むほどの思念なんて、よっぽどのものだけどねぇ、とサクヤは茶化し口調で言う。


「たとえばそう、生きたいという魂の叫び、精神が黒く染まり我を忘れるほどの憎悪、目的はなんであれ身を焦がすほどの渇望。

 特に死に際の魂に、魔法は強く影響される」

「死に際……」

「あれは子供だったね。死ぬ前によほど苦しんだようだ」


 身を包む冷たい風が、あの冷えた感触を何度も蘇らせる。

 ふと、いつの間にか元の格好に戻っていることに気がついた。魔法が解けるってこういうことか、と頭の片隅で思う。

 グッと拳を握る。


「……ちゃんと、還れたらいいな」

「還れたさ。僕が送ったんだから」


 サクヤが不満そうに尻尾を振る振動が伝わってくる。

 まぁ、私には確かめようもないことだし、彼がそう言ってるんならそうなんだろう。

 私には願うことしかできない。


「あ、そう言えば」


 肩に乗るサクヤを持ち上げる。

 彼の若葉色のガラス玉のような瞳に目を合わせ。

 

「あなたも魔法だったんだ」

「……急に何かと思えばそんなことか。逆になんだと思ってたの、僕のこと?」

「……得体の知れないイキモノ」

「ひどい言い方するなぁ」


 そう言われても、急に魔法とか言われてもよく飲み込めないのに、それを目の前の存在に当てはめるとか無理でしょ。第一印象があのどろどろだし。

 今から思い返してもわかるようでわからない説明だったし。

 もう用は済んだでしょ、と言いたげに身を捩らせたので、解放してやる。

 とっと静かな音と共に着地したサクヤは、私に背を向けてとことこ歩き出した。


「ぼくはお酒買いに行くよ。君は帰りな」

「なんでそんなにお酒飲むの、せめて部屋では飲まないで欲しいんだけど」

「……」


 知らんぷりかい。

 いつの間にか地面に落としていた袋を拾い上げ、サクヤを追いかける。


「ていうか、他の魔法ってお酒飲むの?」

「自我を持つ魔法は酒好きも多いよ」


 魔法は酒好き。

 わぁ、嫌な響き。


そんな一幕を思い出して、うげぇっと顔を顰める。


「どしたん? なんかまずいのあった?」

「あぁいや、ちょっと思い出して」


 ふーん、と特に興味もなさそうな様子で弁当を片付けるなな。


「そういえば、あと5分で掃除始まるよ」

「まじかっ」

「次、体育だよね」

「やば、着替えられるかな」


 魔法のことは今だよくわかんないし、なんで私なのかもわかんないし、サクヤも謎だらけだけど。

 まぁ、やってやるか。


 私はななに急かされつつ、慌てて残りのおかずをかき込み、席を立つのだった。

もうクリスマスって、ま?

今年あと1週間って、ま?

共テまであと23日って、ま?


クリスマスパートは書きたいなぁ。(願望)

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