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受験生に魔法少女は荷が重い  作者: 発狂済みの受験生
4/6

受験生に魔法退治は荷が重い

思ってた100倍重い展開になった模様

「ゔぁあぅぉおぉぅぇぁあっ」

「ちょまっ」


 右手で蝿を叩き潰すかのように、魔法がどろどろを振りかぶり、叩きつけてくる。

 私はそれを後ろに飛び退くことで避ける……思ったより、だいぶ跳んだな。

 慌ててたから軽く蹴っただけだったはずだけど、魔法との距離が10メートルは空いた。


「イメージは明確にしなきゃ。〇リキュアとか参考にしたら?」

「そんなこと、急に言われてもっ」

「ゔぉるぁああああ!!!」


 魔法は私の敵意を察知して、敵認定したのか、はっきりと攻撃してくる。

 自身の体を礫のように飛ばしてくる魔法からの攻撃を、横に走ることで避けながら、肩に乗ったまま助言してくるサクヤに泣き言を返す。

 けれど、プ〇キュアと言われて自分がすべき動きを明確に想像できたことも確かで、生身なら絶対出すことができない速度で、玉を避けることができている。

 これならっ!


「このっ!」

「ゔぎゃあぁぁぁあぁぁあっっっ!!!?」


 魔法の後ろに回り込んで肉迫、そのまま開いた両手の扇を一閃。

 扇から放たれた猛風は、風の刃となって魔法を切り刻む。

 こんな姿でも痛みがあるのだろうか、魔法は悲痛な叫び声を上げた。


「あれは魔法に混ざった魂の残滓、生きてたころの名残。あれに痛みはない……同情するなら、早く魂たちを解放してあげたほうがいい」

「わかって、るって!」


 魔法が一瞬怯んだ隙に、魔法の頭上を跳んで正面に着地。

 ……できると思ってやったら、思った通りにいったな。

 成功体験は大歓迎だ。

 目が見えているわけではないのか、魔法は私がさっきまでいたところに集中して攻撃している。

 その間に再び接近して、またも扇を一閃。しかし今度はその先から風の刃ではなく、純粋な暴風が噴き出す。


「吹っ飛べ!」

「ゔぁぎぃぃいぃぁああぁあぁあ!?」


 耐えられた!?

 海まで吹き飛ばすくらいのつもりで放った風に、なんと魔法は地面にへばりついて耐え切った。

 あ、でも、よく考えたら、あのまま吹っ飛んでたら、この公園の外でこいつと戦う羽目になってたのか。

 耐えてくれてよかった。


「……ん? 何あれ?」


 魔法の背後から、何か光るものがいくつか見える。


「あれは、あの魔法が吸収した魂だね。さっきつけた傷から押し出されたみたいだ」

「……あれが、魂」

「簡単に外に出られたってことは、吸収されてさほど時間が経ってないってことだ。あれなら元の体に帰っていける」


 魔法から逃れた魂たちは、ちりじちに飛んでいった。

 サクヤの言うことが本当なら、元の体に帰ったのだろうか……そうならいいな。

 魂のいくつかを失った魔法は、心なしか縮んで見える。


「ゔぁぎゃあぁぁあ!!!」


 魂を奪われて怒ったのか、体のあちこちから触手の如きどろどろを四方八方に叩きつけ始める魔法。

 あれでは目が見えているかどうかなんて関係ない。

 まるで癇癪を起こした子供が手足をバタバタさせてるみたいだ。規模と威力は桁違いだけど。

 魔法が触れたところの草がみるみるうちに萎れていくのを見て、顔を引き攣らせながらも、必死に避ける。


「植物の魂を喰らってるな。大した足しにはならないけど、大量に吸収されるとまずいね」

「嘘、ここって植物だらけじゃん」


 魔法の攻撃の隙を見て、風の刃を浴びせつつ、周囲に目を走らせる。

 魔法が触れたところは見るからに萎れていて、思わず眉根を寄せる。


「うわっ」


 左右にどろどろを叩きつける中、玉も飛ばしてきて、避けるために魔法の頭上に跳んだけど、頭からも玉を飛ばしてきて焦る。

 どうにか扇で暴風を発生させて玉を弾く。

 風はそのまま魔法を上から押さえつけ、一瞬魔法からの攻撃が止んだ。


「いまっ!」


 着地して、間髪入れずに肉迫、扇を構える。

 すでに初めの質量の半分ほどになっている魔法を、真っ二つにする巨大な風の刃をイメージし、扇を振り抜こうとして。


「ゔぃだぃ、ゔぃだぁぃぃぃぃっっっ!!!」


 痛い。

 そう言ってるって思った瞬間、体が硬直した。

 その間に大暴れを再開した魔法の攻撃から逃れるため、こちらも攻撃を中断して走るしかなかった。


「迷っちゃだめだよ。迷えば迷うだけ、あれを苦しめる」

「……っ」


 奥歯を噛み締める。

 あれはまるで、痛みに泣き叫ぶ子供だ。


「ゔぁぅぎゃぁぁぁあああ!!!」


 魔法は癇癪を起こしでもしたように、さらなる大暴れを開始する。

 そのせいで迂闊に近づけない。回避するだけで精一杯だ。

 たまに風の壁を作って防いだりするけれど、さっきのように攻撃が止むことはない。

 もうこの公園の植物たちの大半が萎れていて、ここらにある魂の大半を喰らい尽くしたらしい。

 魔法も最初の大きさくらいに戻りつつある。

 さっきから、ここから吹き飛ばすくらいの気持ちで風を送っているけれど、びくともしないばかりか、それで益々怒りを買ったらしく、どろどろを地面に叩きつけるたびに揺れが発生していて、走りづらく、回避もままならなくなってきた。


「さっきと同じくらいの隙を作れれば……!」


 そう思うのだけど、その隙を作るための攻撃をするための隙が見つけられない。

 そうして手をこまねいているうちに、魔法が急に細い触手のようなものを射出し始めた。

 それはさっきから地面を揺らすどろどろをさらに細くしたようなもので、射出された先は、弾丸のようにばら撒いていた、魔法の体の一部ーー


「まさかっ」

「……」


 液だまりのようになっていて、これまた走る上での障害となっていたそれを、吸い上げている。

 それだけならよかったのだけど、液だまりを吸収するたびに魔法も大きくなっているように見える。今では初めより一回り大きく見えるくらいだ。

 吸収する時でも攻撃の手は緩まず、むしろ管が邪魔してうまく走れない。

 数秒前よりも状況が悪化したことに歯噛みしていると、何やら考え事をしていたらしいサクヤが口を開いた。


「仕方ない。ぼくも手助けするから、君がとどめを刺して」

「えっ」

「大丈夫。黄泉への道はぼくが知ってる。だから君は、魂が乗っていく風を」


 そう言って、サクヤは肩から飛び降りた。

 そういえば、必死すぎて気にしてなかったけど、あんなに動いてたのになんで落ちなかったんだろう……って、そんなこと気にしてる場合じゃない。

 サクヤは近くの一際大きい液だまりに向かって走り、そこに飛び込んだ。


「って、サクヤ!?」


 何やってんの!?

 サクヤの突然の暴挙にパニックになりかける。

 慌ててサクヤが溶けていった液だまりに走り寄るけど、完全に魔法に吸収されてしまった。


「サクヤ!」


 名を呼ぶけれど、返事はない。

 呆然と立ち竦みそうになるけれど、魔法の攻撃を回避するために無理やり足を動かす。

 そうしているうちに、なんとなくサクヤが無事だとわかった。サクヤの力を借りているからだろうか、なんとなく繋がりがあるような気がする。

 それで一応ほっとしたけれど、さっきまで肩にあった重さがなくなったことで、一気に心細くなる。


「黄泉への道……魂が乗っていく風」


 サクヤの言葉を繰り返す。

 不安で、もう涙目だけれど、やってみるしかない。

 地面の揺れにも慣れてきたし、液だまりも管もなく、回避にも余裕が出てきた今がチャンスだ。


「とは言っても、どうすれば」


 さっきみたいに、魔法を両断するイメージはもう出来そうにない。

 どうにも、幼児の影がちらついて、手が鈍ってしまうイメージしか湧かない。

 生前の名残だとしても、痛いと泣く幼子に乱暴なこと、できないよ。

 その時、ふっと頭に浮かんだ。


「……イメージすれば、なんでもできるって、言ってたもんね」


 作戦、と言うにはみっともない、こう出来たらいいな、くらいのもの。

 でも、少なくとも、イメージはできた。

 あとはやってみるだけ。


「っよし」


 魔法の攻撃を掻い潜る。

 風の壁も駆使して、隙を窺う。

 私には武術の経験なんてなく、隙を突く練習なんてしたこともない。

 でも、今なら、魔法少女なら。

 このイメージ通りに動いてくれる体なら。


「いけるっ!」


 一瞬の隙。

 振り回せど、いっこうに叩き潰せない虫に苛立つように、これまで以上に大ぶりに、どろどろを振りかぶった魔法。

 それは私にとっては待ちに待った、明確な隙だった。

 そこを突いて、一気に頭上に跳び上がる。

 そして扇を構え、一閃。

 そこまでなら、さっきの二の舞。

 しかし、さっきとは違って、吹き出した風は魔法本体ではなく、地面で暴れ倒しているどろどろを打ち据えた。


「ゔぁぎゃぁぁぁああああっっっ!!!」


 魔法の絶叫に目を伏せつつ、どろどろが地面に叩きつけられ、一時的に安全地帯となった一帯に着地。

 そのまま振り返り、攻撃ーーはせず、扇から手を離した。

 代わりに、魔法に触れる。

 ベタベタした手触りにも構わず、額をつけた。

 その冷たさに、手の平の温度が染みたのか、魔法は静かになる。


「痛くしてごめんね、怖かったね……今、還してあげるから」


 目を瞑り、息を吹きかけた。

 春風がたんぽぽの綿毛を運ぶイメージで。

 魔法の中にいるかもしれない、幼子に届くように。

 来世では長生きできるように、と願いを込めて。


 効果は劇的だった。


 ぶわぁっと音が立ちそうなほどの、光の渦。

 魂たちが、空へと還っていくその光景は、言葉では形容できないほど、ひどく幻想的で。

 魔法の体から抜けていった魂の一部は、この公園に降ってきて、私はみるみるうちに草木が元気を取り戻していくのに気づいて、目を見張る。

 そんな中で、小さな光がひとつ、私のほおを撫でて、そして風に乗って、空へと還っていった。


 ぺたん、と地面にへたり込む。

 さっきまでの出来事が嘘のように、公園はいつもの光景を取り戻している。


「お疲れ様」


 さっきまで魔法が暴れていた場所から、サクヤがなんでもないように声をかけてきて、今度こそ安堵して、疲れた笑みを浮かべた私であった。

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