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誰からも愛されない魔女は、一途すぎる使用人から愛されている。  作者: 桐山なつめ


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7/7

第7話 魅了されていたのは――

 ゆるゆると私から体を離し、背後を振り返る。


「……ああ。先にバレたか」


 まるで悪戯を咎められた少年のように、アルは苦笑いを浮かべた。


「な、なんであなたが持ってるの!?」

「そりゃあ……僕のものだし」

「はっ!?」

「姿を変えてるって、さっき言ったじゃん」


 アルは得意げに笑うと、そっと指を鳴らした。

 ぱちり、と小さな音が響く。


 夜気が揺らぎ、霧の中に淡い光が広がった。

 その光はゆるやかに形を変え、影の輪郭が滲む。


 目の前で、彼の姿が音もなくほどけていく。

 闇に溶けるように黒髪は赤へと染まり、

 華奢だった肩が広がり、布の下で筋肉が形を変えていく。


 光が収まったとき、そこにいたのは――威厳を纏う英雄レシオン。

 赤い瞳だけが変わらず、静かにこちらを見つめていた。


「レシオン、さま……?」

「”さま”なんてやめてよ」


 姿も声も変わっているのに、口調はアルのものだ。

 あまりの衝撃に、整理が追いつかない。

 体の震えを必死に抑えながら、私は自分の口に手を当てた。


「だ、大英雄さまに、私、なんて口の利き方を――」

「いや。僕はキリシャさまの魔力があったから、戦えたんだけどね」

「……! わ、私の魔力が魔王討伐のお役に立てたなら光栄です。

 人々のために力を使われるなんて……本当に、尊敬します」


 しかし、レシオンは首を傾げた。


「いや? 魔王討伐なんて、正直どうでもよかったよ」

「へ?」

「魔女は、地位の高い人間に目をつけるから、

 あなたに選ばれたくて剣を振ってた。それだけ」


 風が一瞬止まり、森の音が遠のく。


「そんな……理由で?」

「うん。だから神格化しすぎって言ったじゃん」


 ふっと微笑むその奥に、長い孤独の影が滲んでいた。


「でも……僕のせいで辛い目に遭わせてしまったよね」


 そこでレシオンは大きな手のひらで、私の頬に触れそっと涙の跡をなぞる。

 彼は眉を寄せ、痛みにこらえるような表情を浮かべた。


「……ただ、本当の僕を見て欲しかっただけなんだ。

 姿を変えても、そばにいれば、気持ちは伝わるんじゃないかって思ってた。

 でも――英雄だなんて持ち上げられすぎて、結局は自惚れてた。……ごめん。」


 気まずそうに視線を逸らすレシオンに、胸の奥がきゅうっと痛む。

 彼の瞳の奥には、戦場の火とも孤独とも違う、やさしい光があった。


「いいの……」


 責める気持ちはどこにもなかった。


「アルとして向き合ってくれたこと……嬉しかった」


 不意に、レシオンが膝をついた。

 夜露に濡れた草の匂いが立ち上る。


「キリシャさま」


 そして私の手を取ると、赤い瞳で見上げる。


「あなたを愛する一度きりの権利を、僕にくれてありがとう」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。


「私こそ――愛してくれて、ありがとう」


 彼はにこりと微笑んだ。

 その笑みは、どんなに姿が変わっても――あの少し生意気な少年のまま。


 再び引き寄せられ、抵抗する間もなく胸の中に体をうずめた。

 髪を梳かれながら、やがて顔をあげる。

 息が触れ合うほどの距離で、ただ見つめ合った。


「もう我慢しないから」


 耳元で囁かれたかと思うと、深い口づけが落ちてきた。


 世界が一瞬、音を失う。

 愛しい背に手を回しながら、私は心の中で呟いた。


 ――魅了されていたのは、魔女(私)のほうだったのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
追記です。 アルのカッコいい描写がたまりません!
面白かったです!!! 伏線の散りばめ方は期待感大でストーリーにのめり込めました。 恋愛心理からくる行動描写にはドキドキと切なさが滲み出ていて、ファンタジー世界独特の設定が2人の障害となっていてもどか…
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