秋雨に打たれて
僕には付き合ってる彼女がいた。清楚で可憐、そして成績優秀、まさに絵に描いたような優等生だ。当の僕は勉強が出来ない野球部補欠のボンクラだった。何故こんな僕と付き合ってくれてるのかは分からない。だけどあの引き込まれるような輝かしい笑顔は誰にも渡したくない独占欲を産み出していた。
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9月半ば頃、体力作りのために明朝からランニングに出掛けた。住宅街を縫って走り、大通りに出てコンビニに寄り、裏路地から自宅へ戻るルートだ。その日はまだ暗く、ヘッドライトを被って駆け出した。大通りに出ようかというところで雨がポツリポツリと降りだしてきた。急いでコンビニに駆け込むと何故か彼女がいた。どうやらミルクティーを買いに来たみたいだ。両者驚いた様子を見せ、お互いの目的を達成すると、外へ出た。まだ雨は止む気配を見せない。ボーッと空を眺めていると突然彼女が手を取り引っ張ってきた。僕は頭に?を浮かべながらついていった。2分かかっただろうか、そこには住宅街に押し込められた小さな公園があった。二人でベンチに腰かけて秋雨に打たれた。彼女はホットミルクティーを、僕はホットコーヒーを飲みながら雨に打たれ続けた。そのうち彼女が僕にもたれかかってきた。僕は反射的に彼女の頭を撫でた。彼女は喉の奥から心地いいような鳴き声を出すとそのまま目を閉じた。寝るわけではないよな?と思いつつそのまま撫でていると彼女が沈黙を破る。「このまま打たれていいの?」と、僕は少々考えてから「君がそうしたいのなら僕は構わないよ」と言った。彼女は微笑むと「このまま一緒に居たいね」と言ってきた。彼女の温もりが段々と伝わってくる。また目を閉じると嬉しそうに微笑んだ。
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雨が弱ってきて、腕に付けた時計を見ると5を指している。彼女はすっかり眠っている。僕は優しく彼女を起こすと側に置いたヘッドライトを持って彼女の家に向かった。ヘッドライトを手に持って灯けて彼女の肩を抱き寄せながら静かな住宅街を歩いた。彼女の家に着く頃には雨は完全に止んでいた。彼女を家に送って自分も帰ろうかとした時に彼女は言った。「もう帰っちゃうの?」と立ち上がった僕の顔を見上げながら悲しそうな表情で言ってきた。ああ、なんて可愛い彼女なんだろう。僕は仕方なくまたしゃがみこむと「じゃあ、邪魔になろうかな」と家に上がった。彼女の親は単身赴任で新潟に行っておりお土産の煎餅が出された。彼女は緑茶を淹れると嬉しそうに微笑みながら僕の顔を覗いた。そんなことに気付かずお茶と煎餅を貪っていると彼女が席を立った。トイレか?と考えた時には彼女は僕の肩に抱き付いてきた。今までスキンシップはせいぜい膝枕程だったのが急に甘えてくる。僕は声にならない叫びを喉の奥へ押し込んで抱き締めている手に触れた。家だから甘えているのか?とか色々思考を巡らせたが可愛いからいいや、と考えることをやめ、彼女の頰へ手を回した、彼女は少々ビックリするとそれを受け入れたかのようにリラックスしていた。
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そんな時間を邪魔したのは彼女の携帯からなったアラームだった。幾ら休みだからと行ってもそろそろ帰らなければならない。彼女もそれを悟り優しく手を話すと「終わりにしよっか」と言って見送る準備を始めた。僕も荷物を持って玄関へ向かい、扉を開けるとまた雨が振りだしていた。「傘、使う?」と言った彼女の優しさを断って外へでた。秋雨の独特な温もりが今だけは心地よく感じる。そのまま家に帰ると着ていた物を脱いで寝巻を着直し、布団へ倒れこんだ。あの彼女の温もり、そして秋雨の温もりを思いだしながら、眠りに付いた。




