【Episode T :Buried Beneath the Birch/白樺の下に埋められて】
<Chapter2> <17>
結局ボコボコにされたのと違法薬物“星屑”の過剰摂取で約2週間の入院となった。もちろんあんな危ない代物を大量に接種したなんて表のお医者さんに言えば速攻逮捕、二度とお天道様の元には出れない。
「この世界に神がいればこんな混沌の世界になってないだろうな。神の座が空位なら俺が座るけどな」
「おいおい、お前みたいなアホが神になったら、それこそ3日で世界が崩壊するわ。それなら俺の犬のモクに任せた方が安心だよ」
俺をアホ呼ばわりするこいつはヨモギ。本名は知らない。本人曰く、“ヨモギは万能な薬なんだぜ?”と言って名乗っている。黒い白衣を来てるので、“裏通りの雑草”と呼ばれるぐらい裏世界では有名である。表だって治療ができなかったり、わけありの患者を診たりする。俗に言うと闇医者だ。古くからの付き合いで俺が探偵業を始めた頃に知り合っての腐れ縁だ。
「お前が夜中に来て、“星屑”を塊でいったから見てくれ何て言うから、とうとうおかしくなったのかと思ったよ。しかし、接種した形跡はあるのだが、成分が丸々消滅してるから意味がわからないし、そのアザも不明すぎて何が何だかわからん」
「しかたねーじゃんか、流石の俺も今度ばかりはダメかと思ったんだぜ?ただ、夢?のも無関係って感じでもないし…まあ、無事なら何でもいいけどな」
ヨモギから渡された診断書をベッドの近くのゴミ箱に入れて、アザを見せるために下ろしていた短パンを元に戻す。
「お前はそうやって直ぐ、楽観的に考える…。にしてもあの御曹司が“星屑”の売人とはねぇ。当分は表だって行動するなよ。流石に知り合いの遺体を解剖するのは勘弁だぜ」
「へいへい」
軽く頷いて。パソコンを取り出す。カメラは壊されていたが、俺にはもう1つのカメラを胸に仕込んでいたのだった。そこには御曹司と取引している青年の姿。ある程度、裏に精通しているヨモギならわかる可能性があった。“外側”から持ってくるなんて一般人では到底無理なこと。ならば、加工してるのはあの製薬会社だとしても流通させてるのは別にあるのだろう。こっちからならアタックしやすい。
「なあ、こいつ知ってるか?」
そう言ってノートパソコンを向ける。そこには取引現場にいた青年の停止画と拡大された帽子のエンブレム。それを見たいヨモギは少し考えてから
「白樺の木がある公園の近くの竹やぶの小屋を根城にしてる半グレの黒狼連のエンブレムだな。そいつは知らないけど最近、構成員を増やして何かデカイことしようとしてるとかの噂だぜ?まさか“星屑”関係だとは思わなかったけどな」
黒狼連と言えば数ヵ月前に“灰の巡礼者”から摘発を受けたグループで解体されたのでは?構成員を増やしている?
「おいおい、そいつら解体されたんじゃないのか?ちょっとヤンチャな半グレ如きが、“星屑”の売人じゃ話が噛み合わねぇ。何か裏があるのか?」
「かもしれないな、もしかしたら警備兵に協力者がいて横流しや情報を流してるやつがいるかもな。けど、あの塔が絡んでくると、俺たちだけじゃ手に終えないぞ。」
たしかに“灰の巡礼者”に喧嘩を挑んでも勝てないのはわかりきってること。せめてアイツらだけでも悪さできないようにしないと。
「おい、公園の近くを縄張りって言ったか?ちょっと見てこようかな?」
それを聞いたヨモギは呆れて
「折角助かったのに、死に行くのか?お前は死ぬのが趣味なのか?まあ、どうせ止めても行くんだろけど」
そう言ってヨモギは書類を渡してくる。俺はわからないまま受けとる。
「なんだこれは?ゴミか?」
「このバカ探偵。んなもん、ここタイミングで渡すかよ。その近くに家なしのやつで情報屋がいる。その場所と案内状書いといた。そいつにこれを渡せば格安で情報をもらえるだろう。」
「すまんな、助かる。」
「気を付けろよ。さっきも言ったが、あの塔が関わってくるなら、直ぐに手を引くんだ。俺らじゃ太刀打ちできない。」
その書類を鞄に入れてヨモギを見る。
「今回の依頼人は“星屑”の被害者なんだ。もちろんあの製薬会社からの流通を止めることも、売人の根絶も無理かもしれない。けどな、これだけヤバイ物だったんだって知ったらこれ以上は手を出す人も少なくなると思うんだ。別の監視塔の所に移住するのも出来るし、誘惑を絶つことも出来るかもしれない。俺たちはまだ選択できるんだよ」
ヨモギはため息をして
「わかったよ。ならこれは“貸し”だ。ちゃんとこの恩を返せよ」
「“貸し”だって。マジかよ…ヨモギに借りを作ると命より重いんだよなぁ」
「わかってんじゃねーか。せいぜい利子付けて返せよ」
2人は笑いながらヨモギが持ってきたコーヒーを飲む。足元にはヨモギの愛犬モクがおやつを欲しそうに尻尾を振っていた。
それから例の場所の公園に行く前にヨモギからもらった案内状を便りに、情報屋のもとに着く。ベンチでハトにパンをあげてる男の隣に座り目線を向けずに声をかける。
「ここのベンチ、夜はうるさいかい?」
男はパンをあげるのを止めて目線合わせずに
「いや、最近は静か過ぎて気味が悪いよ」
「そっか、そう言えばあの時計の針、動いてるの見たことあるかい?」
俺がそう言うと、男は立ち上がって小さな声で「ついてきな」と言って歩いていく。
数分したら、古民家に案内されて中に入る。リビングには小さなテーブルが置いてあり男が座る。
「珍しいな、“ヨモギ”からの紹介なんて。書類はあるか?」
男は俺に座ることをすすめて、ヨモギからの書類に目を通す。
「事情はわかった。挨拶が遅れたな、俺は“アラレ”だよろしく。」
そう言うと書類のいくつかにボールペンでしるしを着けていく
「まず前提の話なんだが、“黒狼連”はもうなくなって、今は“狗狼会”ってのになってる。あんた探偵ならこれぐらいは知っとかないとヤバイぜ」
群れをなす、狼の集団が統率者を失い、野良犬になった集団を皮肉った名前が付けられているのも興味深いが、確かに探偵の俺が知らないのはマズイな
「続けるぜ。前のグループのリーダーが塔の奴らに捕まったんで元黒狼連のNo.4の“ハガネ”ってやつが残党を集めて作ったのが狗狼会だ。しかも、そのハガネ、本名は“サカキタカヤ”って言うんだが、あの塔の警備兵でらしい。だから、黒狼連のリーダーを売ったのはサカキってもっぱらの噂だ」
いよいよ、“星屑”の入手経路が何となくわかってきた。そのサカキってやつが“星屑”を使って今の地位に上がったんだろう。ただ俺は少し疑問が残るので聞いてみる
「でもよ?そのサカキってやつ、“星屑”の横流しや、半グレの統率者とか捕まるワード多くないか?」
「着眼点はいいな。そうさ、アイツはこれだけの情報で捕まえることができることが出来るのに捕まってない理由がこれだ」
アラレはそう言って、自分の服の胸ポケットから1枚の写真を出してくる。そこには黒いコートを着た者とサカキらしい男とその後ろには2メートルは越えるぐらいの二足歩行のライオン?
「なんだこのライオンは?仮装か何かなのか?それにこの黒いコートって…」
「このライオンみたいなのは、新都で噂になってる人攫いの異形らしい、最近は新婚の奥さんが攫われたみたいだし。しかもサカキが使役して敵対するものを消しているらしい。黒いコートは流石に知っていたか」
「ああ、都市伝説みたいな話だが聞いたことある。どんな難病も治している一方で、人間離れしている能力を授けているってやつか」
「そうそう、本人かは不明だがそいつ自身は悪いイメージはないが、サカキと手を組んでいるなら、異形も黒コートとサカキが斡旋してこの都市に入れていることになる。もしかしたら“星屑”も同じ方法かもだけどな」
「サカキの居場所は公園の近くを根城にしているのは本当か?」
「ああ、ただサカキ自身はいないぜ。基本的に狗狼会の下っ端がいるぐらいだ。証拠は探しても出てこないから行ってもサカキが関係している証拠は一切出てこない。それだったら公園近くの裏山の落石の所わかるか?そこでライオンの異形が頻繁に目撃されてる。行けば消される可能性あるが、そこに何か重要なものあるかもな」
「貴重な情報、ありがとう。流石にノアスと交渉するつもりはないけど、可能性あるなら探してみる。大丈夫、逃げるのは得意だ」
情報屋の所を後にして、公園に向かう。先ずは少しでも可能性があるなら手に入れる。白樺の公園を横目に裏山の落石現場に向かう。数分したら目的地に到着する。
「これ以上先に行ったら根城の小屋か、けど流石にこの辺に何もないよな…ん?」
落石現場の草木の間にあまり汚れていないパソコンが落ちていた。画面はバキバキに割れていて使い物にはならなさそうだったけど、もしかしたら何かあるかもと思い確認する。
そこには黒狼連のエンブレムのステッカーが貼られていた、移動途中に破損してしまったから廃棄したのであろう。いい感じに都合の良いものがあったので確認する。
「流石に動かないよな…お!ドライブの中にメモリチップ入ったままじゃないか、ラッキー」
手に入れたメモリチップは壊れた本体が守っていたみたいで破損していなかったので、自分のパソコンに入れてみて起動する。データは生きておりファイルの中身が確認できる。
「データは生きてるけど、ファイルに何も入ってないなぁ。まあ、そうだよなぁそんな都合よく情報放置しないよな…」
落胆しそうになったとき、1つのファイルに視線が止まる。
「なんだこのファイル?文字化けしてる?しかも鍵がかかってる?」
クリックしてみると、パスワード入力の画面になってヒントが表示されるが文字化けで読めない。仕方ないので自分の持つスパイウエアで文字化けを元に戻す。そこには…
【刻星者よ、汝と共にあるものを答えよ】
「なんだこれは…こ、こくせいしゃ?」
すると、星屑の時に会った、煙の主の姿が浮かぶ。
「何でアイツなんだ?」
すると太ももの謎のアザが急に痛み出す。とっさにズボンの裾をめくってみたら緑色に発光している。不思議なことに何かを伝えてる事がわかり。アザをおさえながら、パソコンに入力する。
【カルマス】
するとファイルが開きそこには短い文で
【これを見た者よ。君が正し道に向かうものであることを祈る。〖カルマスは決してただの恩恵じゃない、世界を作り替える力だ。君は選別に選ばれたんだ。〗その力を持って、世界を導いてくれ】
「なんだこれ?俺はヒーローにでもなったのか?」
よくわからない問いかけで考えようとした時に後ろから獣の唸り声が…
「ガァルルル…グルルル」




