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白閃と扇

手榴弾は、空中でわずかに角度を変え、揺らぐ空間の**“縁”をかすめて滑り込んだ。

次の瞬間、広場は白い光**に塗りつぶされ、重たい空気が一気に内側へ吸い込まれてから、爆圧がまっすぐ押し返してくる。


耳鳴り。足裏を抜ける震え。砕けた照明塔の破片が雨のように降る。

ブレイクは低く身を伏せ、爆風だけを背で受け流す。

(入った——!)


煙が割れる。

視界の中央で、黒曜の異形がゆっくりと立ち上がった。装甲の表面には砂を擦ったような細かい擦過が無数に残っている。

その“前面”の空気には、扇を重ねたような薄膜がゆらりと揺れ、砕片に触れた瞬間だけ粒子が消えるのが見えた。


ン=ゴの能力は、前方に“消失面”を展開して飛翔物を消す。さっきは円盤だったが、爆風と破片に対しては扇状に重ねて面積を拡げた。衝撃の圧力そのものは消えないが、破片と弾片は接触した瞬間に失われる——だから吹き飛ぶが、致命傷は通らない。


「やったか——」

無線越しに、前線の誰かが漏らしかけ、言葉を飲んだ。


ン=ゴの仮面が、ほんの少しだけ傾く。

「選択は正しい。円盤を搔い潜り直接、本体を叩く……だが、人間」


黒い肢体が沈み込み、無音で跳ねた。

音が抜ける。

視界の前で、距離が一段縮む。


「近接は、悪手だ」


ブレイクは即応する。

右へ体を流し、銃口を肩の高さで水平に。連射——だが、消える。

ン=ゴは自らの体表に薄く伸ばした円盤を貼り付けると、薄く伸ばした円盤を体に張り付けたまま拳と脚をブレイクに叩きつけた。

接近時は消失面を小さくして自身の動きを阻害しないように調整。身体から離れるほど面は濃く、皮膚近傍は薄くする——結果ン=ゴの打撃は通る。


一撃、鳩尾。

ブレイクの視界が白く弾け、胃の奥がひっくり返る。

二撃目、頬。面打ちのはずの拳が、骨の芯に届く。

(まずい——間合いを外せ)


後退の一歩を踏むより早く、脚が来た。

横薙ぎ。外套が裂け、脇腹に熱い刃が差し込まれたみたいな痛みが走る。浅くはない。

ブレイクは後転し、瓦礫を滑りながら立ち上がる。足首が嫌な角度で鳴った。


〈前線司令室より。走者、距離を——至近は不利。面の密度が上がっている。撃っても消える〉

「……わかってる。離す」


ブレイクは撃たないことを選び、足に全てを振った。

敷石の目地を拾い、斜め後方に抜けようとする。

だが、ン=ゴは音のない踏み込みで追随し、肩口をとらえた。


「逃げは、正しい選択ではない」


石畳に叩きつけられる直前、ブレイクは銃身を逆手に回し、ン=ゴの膝裏へ一点を打ち込む。打撃は無効化されない——身体密着のせいで面が薄い。

金属音。わずかに沈むン=ゴの身体。

(効く。関節の内側は装甲が薄い)


ブレイクは腕を捻り、側頭部に二連射。

一発は頬の縁で消え、もう一発が仮面の端へ当たって浅い亀裂を刻む。

ン=ゴの打ち下ろし。

前腕が槌のように落ち、ブレイクの肩が爆ぜる感覚。

視界の端で、カードキーが胸元に触れて鈍く鳴った。


(少し分かった……銃弾を消すと、消しただけ円盤の面積が……いや、この場合は体積か?が少し小さくなる……もしかすると——)


歯を噛み、脚で距離を取る。

ブレイクは左手でリボルバーを抜き、最短弾道で肩の亀裂へ一発。

——消えない。

密着の薄い面の隙間。

だが浅い。装甲の芯に届かない。


「しつこい」

ン=ゴの声は低く、淡々としている。

「だが、評価する。選択の密度は、狩りを豊かにする」


怒りは湧かなかった。

湧いたのは冷たさだ。

(怒りに割く余裕はない。頭を回せ——円盤を形成する“揺らぎ”は、恐らくある程度、分厚くないと、効果を発揮しない、額に当たった弾は消えたのに、仮面の端に当たった弾は消えなかった、多分、”揺らぎ”の厚みの差だろう……)


(そしてもう一つ、円盤が消せるのは飛翔物だけで、恐らく打撃は消せない。しかも接近戦をしてる時は、円盤を出せない)


ブレイクは外套の下へ手を滑らせ、最後の手榴弾を確かめる。

ピンの輪が指に触れる。

(だが、それが分かったからと言って、こいつの外骨格にダメージを与えられる手段が、俺には乏しい——やれることと言えば)


「まだ終わってない」


呟きと同時に、前へ。

ン=ゴも前。

二つの影が重なる瞬間、ブレイクは投げの弧を最小に縮め、ほとんど直渡しの角度で手榴弾を押し込むように出した。

ン=ゴが円盤を展開する。

円盤が扇状に開く。

(だが、円盤に触れてる間は手榴弾を手放さず。円盤の空間を超えてから、手榴弾を投げれば、手榴弾は消えない——しかも!)


白い閃光。

二度目の爆圧が、互いの体を等しく押し広げた。

ブレイクは転がり、瓦礫に背をぶつけて肺の空気が抜ける。

耳鳴りの中、立つ黒がまた見えた。

今度は、胸甲に蜘蛛の巣のような亀裂が走っている。

ン=ゴが展開した円盤の内側で手榴弾が爆発したため、手榴弾がまき散らした破片が消滅せずにン=ゴの外骨格に突き刺さっいたのだ。


〈前線司令室より。走者——装甲の一部、脆化を確認。位置マーキングを送る。そこを狙え〉

「受けた」


ブレイクは膝立ちのまま、一点穿孔に切り替える。

ガンスリンガーで弾道を絞り、消失面の縁を撫で抜けて、同じ一点へ撃ち重ねる。

金属が悲鳴を上げ、溝が深くなる。

——割れる。

赤黒い液が、細い線になって装甲の裂け目から噴いた。


「ふぅ……ようやく届いたな」


ブレイクは立ち上がりかけ——止まった。

ン=ゴの胸で、亀裂が閉じ始める。

装甲が再形成される。時間はかかるが、薄い亀裂は短時間で埋まる。


「人類」

仮面の奥で、低い振動。

「良い選択だ。次の攻撃にも期待している」


ン=ゴの影が、音なく跳ねた。

ブレイクは横へ。

だが、追いつかれる。肩口に重さ。

視界が地面に裏返り、石が頬を削った。


(ここで倒れるわけには——)


胸元の鍵が、冷たく脈打つ。

ブレイクは歯を噛み、床を蹴ってもう一歩だけ距離を開ける。

呼吸の音が薄膜の向こうに遠ざかる。

無線がひとつ、短く鳴った。


〈走者、持ちこたえろ。装甲の脆い箇所を再送。次で落とせる〉

「……了解」

(次?……簡単に言ってくれるぜ——)


銃身が重い。肩が燃える。

それでも、照準は静かだった。

(銃弾の軌道を円盤の縁を舐めるように、着弾と円は割れ目へ重ねる)


ブレイクは狙いを引き、引き金を落とす——


——その瞬間、ン=ゴの前腕が視界を塞いだ。

消失面が押し出され、弾がふっと消える。

さらに銃弾を消したと同時に、間合いを一瞬で詰めるン=ゴ。


「終わりにしよう」


仮面の奥の声と同時に、踏み込み。

拳が落ち、石畳が跳ね、肺が空になる。

ブレイクは倒れ——


だが——まだ、意識は残っていた。

ランキング上位入りを目指してます。

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