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決断の刃

ステルンの瞳にはもう、迷いはなかった。

可能な限り、市民の居ない方向にエイリアンを誘導しながら、ステルンは戦いを進めていた。


ベルリン北区の給水管理センター前からゲートをくぐり屋内へ、屋内の渡り廊下を横断して、施設内の広場へ戦いの場を移動させていたが、どこへ戦う場所を移そうと、エイリアンから逃れるために、隠れ潜む市民がステルンとエイリアンの戦いを見ては悲鳴を上げていた。


それでも被害を最小に抑えるために酷使する、傷だらけの体は軋むたびに悲鳴を上げるが、彼女の内側に宿る意思はむしろ静けさを増していた。それは、あらゆる苦痛や混乱を焼き尽くすほどの、冷たい覚悟だった。


《世界のヴェルトクリーゲ》──

空間そのものの重力ベクトルを操作するこの能力は、一見すると斬撃に見えるが、実際には“現実の構造”を断ち切る異質な力だ。

しかし、その発動は彼女の神経系に甚大な負荷をかける。とりわけ、このような全身負傷状態では、全開放すれば生命維持機能すら破壊しかねない。


それでも、今こそがその時だった。


「……お前の“覚悟”は理解できない」

ゼクス=マギィアが言った。

「なぜ命を捨ててまで、他者を守る? お前たちは孤独だろう。施設で育った“作り物”に、親も、故郷もない。人間にとっても、お前たちは異質だ」


ステルンはゆっくりと息を吸い、静かに返した。


「そう。私たちは“作られた”存在……

でも、それはスタート地点に過ぎない。

育ったあの施設で、仲間たちと過ごした日々が、私を“人間”にしてくれた」


彼女の脳裏に、アトラス育成研究所の白壁が再びよぎる。

誰かが泣けば、皆が駆け寄った。

誰かが夢を語れば、皆が耳を傾けた。

「本当の家族ではない」ことを知りながら、それでも信じ合おうとしたあの日々──


「私の命は、私一人のものじゃない」

ステルンの声が広場に響いた。


ゼクスの瞳が細められる。

観察者としての興味と、狩人としての直感がせめぎ合うその瞳に、かすかな緊張が宿る。


「来るか……?」


その瞬間だった。

ステルンの足元から、風が逆巻いた。空間が鳴る。目に見えない斬撃が幾重にも走り、ゼクスの六枚の剣が弾かれるように宙を舞った。


「貴様……っ!」


ゼクスが叫ぶ。

だが、それすらもステルンには届いていない。

意識は既に限界を超え、全神経を一撃に込めていた。


ステルンの動きは、重力の軸を操ることで“落下するような突進”となる。空間を断ち切る、歪んだ斬撃がゼクスの周囲を収束するように収斂していく。


「──私は、ここで終わっていい!」


叫びと共に斬り込まれた空間の軌道が、ゼクス=マギィアを貫く。


ゼクスの身体がひしゃげ、時間が止まったような錯覚が広がった。

背後で、爆弾の制御核がひび割れ、次いで蒼い光が空を走った。


ゼクスは、声を漏らした。


「……作られた命、か。これも、また……可能性か……」


崩れ落ちるゼクスの体は、ベルリン北区の給水管理センターの敷地にある職員用の野外の多目的広場に設置された爆弾の中心に倒れ込んだ。

その刹那、空間が光に包まれ、爆弾の起爆機構が寸前で停止する。


爆発は──起こらなかった。


だが同時に、ステルンの体もその場に崩れ落ちた。

彼女の呼吸は浅く、まるで凪のように静かだった。


広場の片隅に逃げ込んでいた市民たちが、一人、また一人と顔を出す。

誰もが、言葉を失っていた。


その中で、ただ空に舞う一片の光が、

彼女の“決断”を称えるように、風に乗って昇っていった。

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2025/08/19


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