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最後の決戦地 ― ベルリン北区の給水管理センター前

焼けただれた町並みを抜け、ステルン・シュナイダーは、とうとう最後の爆弾が設置された場所――かつては市民の憩いの場であった「ベルリン北区の給水管理センター」へとたどり着いた。

瓦礫に覆われ、血に塗れ、もはやその面影はどこにもなかったが、石造りの噴水と彫刻の土台だけが崩れずに残っていた。


足を引きずり、息を荒げながらも歩みを止めないステルンの前に、ひときわ異質な存在が姿を現す。

それは――ネームドエイリアン《ゼクス=マギィア》本体。


空中に浮かびながら、彼はまるで舞台に上がる騎士のように両腕を広げて名乗った。


「この戦いに名を与えよう。——“選択の終焉”と」


彼の背後には、怯え震える市民たちが狭い空間に集められていた。子供を抱える母親、手を繋ぐ老人と少女、叫ぶ声すら出せなくなった男たち。

ステルンは歯を食いしばった。爆弾の傍らに市民を集めているのは意図的だ。人質と化した彼らを、彼女が無視できるはずもない。


「……戦場に、市民を巻き込むことに誇りでもあるの?」


「誇り? いや、“記憶”だ。種の記憶として、これが我々の“狩猟本能”の再現なのだ」


そう言いながらゼクス=マギィアは地上に降り立つ。人型の鎧を纏ったような姿に、浮遊する六枚の「選択の剣」が音もなく旋回している。


戦いの火蓋が、切って落とされた。


ベルリン北区の給水管理センター前には、ステルンが到着する前に、市民を守る軍との戦いによって砕けた石畳の裂け目が広がっていた。ステルン・シュナイダーは、その中央で剣を構えるように立ち尽くしていた。彼女の体はすでに限界を超えていた。左の脇腹からは血が滲み、右足の動きも鈍い。それでも、彼女の視線は一瞬たりともネームドエイリアン《ゼクス=マギィア》から逸らすことはなかった。


「私に選択の余地は無い、そうだろう……?」

掠れた声で呟いたステルンに、応えるようにゼクスの背後に、まるでステルンを挑発するかのように浮かぶ六枚の「不愉快な剣」がゆらりと揺れる。


「分かってるじゃないか、創られし者よ。だが、それでそれを聞いてそうする? お前が望む選ぶべき幸せな未来など存在しないぞ。」


ゼクス=マギィアの声音は皮肉と憐憫が混ざり合っていた。フィアベルクの広場に集められた市民たちは、ステルンとゼクスのやりとりをただ黙って見守っていた。泣く者も、震える者もいたが、声を上げる者はいなかった。静寂の中に、重く凍った空気が広がる。


ステルンは歯を食いしばる。自分の動きが市民の盾となっていることは理解していた。ゼクスは明確に、戦闘による被害を市民に波及させるように立ち回っていた。彼女が一歩踏み込めば、市民の誰かが巻き添えになる。だが、攻めなければ時間切れが来る。


「……あなたは、何を望んでこんなことを?」

ステルンは問いかけた。考えをまとめる時間を稼ぐためでもあったが、純粋な疑問でもあった。


「“種”の確認さ。君たち人類が、どこまで“原初の選択”に抗えるか」

ゼクスは嘲るように笑った。


「我々は本能を捨てた。だが、それを完全には忘れていない。“狩り”は、我々にとって祝祭なのだ。お前たちのような作られた兵士が、“本物の選択”に立った時、どう振る舞うか――それが我々……と言うより俺の興味だな………今のは」


「くだらない……!」


ステルンが足を踏み出すと、ゼクスは刃を向けて応じた。だがその攻撃は、市民のすぐ傍をなぞるような軌道で展開され、ステルンの剣筋を封じた。ゼクスは戦闘そのものより、ステルンの“気力”を消耗させることを重視していた。


時間がない――ステルンは焦りを抱える。広場の隅に配置された爆弾が発する微かな振動が、刻一刻と増している。起爆までの残り時間は、もう十分を切っているはずだった。


ゼクスの剣がステルンの肩を浅く裂いた。血飛沫が舞い、地面を濡らす。


「もう終わりにしてもいいんだぞ? お前さえ諦めれば、この爆弾は作動する。爆発と共にお前の記憶も命も消える。ステルン・シュナイダー。お前が人類に与えられた、人類を守ると言う存在証明は、消えてなくなる」


「ようは、押し付けられた大義名分から解放されるってことだ。実に喜ばしいことじゃないか」


ステルンは、ぐらりと揺れながらも立っていた。脳裏には、アトラス育成研究所の白い廊下が過った。あの場所で過ごした日々、仲間と笑った夜、共に育った“家族”のような存在。彼らの記憶が、彼女の折れそうな意志を支えていた。


「……私を作ったのは、創られた過去かもしれない。でも、今の私は、自分で選ぶ」


ステルンは右手を広げ、《世界のヴェルトクリーゲ》の空間ベクトルが空気を切り裂くように発動する気配を孕んだ。


「この命、切り札として使う。あなたの選択なんかに、私の決断を支配させない!」

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