破滅の兆し、決意の灯火
怪物の拳が振り下ろされる。ステルンはその場を横に跳ねたが、寸でのところで地面に激突する衝撃波が彼女を吹き飛ばした。荒い呼吸を押し殺しながら、地に膝をつき、裂けた唇から血が滴る。
(この体じゃ、あと何発耐えられるか――)
目の前の融合エイリアンは、まるで地獄の具現。複数の個体が融合しているためか、関節の動きは不規則で予測しづらい。巨体とは裏腹に速度も高く、攻撃範囲が異常に広い。
ステルンは両腕を前に構え、呼吸を整える。
「ヴェルトクリーゲ…!」
彼女が叫んだ瞬間、周囲の重力が斜めに捻じ曲げられる。空間が裂け、巨大エイリアンの右腕が軌道から外れ、地面にめり込んだ。だがその程度では止まらない。敵の腹部から別の腕のような器官が伸び、鞭のようにしなってステルンの胴に巻きついた。
「ッ…!」
身体が締め上げられる。骨が軋む音が耳元で鳴る。視界が滲む。だがその中で、ステルンの瞳に宿る光は消えていなかった。
「私は、やらなきゃ皆がッ。……だから!」
指先を震わせながら、空中で重力のベクトルを集中させる。引きちぎられそうな体勢のまま、全身の神経を焼くように動かし、逆方向の斬撃を発生させた。
「ヴェルトクリーゲ――“逆斬”!」
爆音が響く。融合エイリアンの鞭のような腕が根元から斬り落とされ、緑色の液体が四方に飛び散る。
ステルンは地に転がりながら受け身を取り、右手を握り直す。呼吸は限界だった。肺が焼けるように痛む。視界が暗くなりかける。
(倒れられない。あそこには市民がいる)
立ち上がる。ふらつく足。だが、その目は確かに前を見ていた。
融合エイリアンが咆哮し、最後の猛攻を仕掛けてくる。その腕は四本。その脚は地を砕き、飛びかかってくる質量は凶器そのもの。
「……ッ!」
ステルンは敵の突進を右へ跳ねて回避。即座に空間の重力軸を切り替えて、敵の脚を“落とす”ようにベクトルを押しつぶす。
ガキィン、と音を立てて関節が逆に曲がった。一瞬、動きが鈍った巨体。その隙を見逃さない。
ステルンは最後の力を振り絞り、地面を蹴った。空中で両手を広げ、空間に大きく斜線を描くように重力ベクトルを切り裂く。
「ヴェルトクリーゲ――“終刃”!」
まるで天を斬るような重圧が発生し、敵の上半身が斜めに切断される。体液が撒き散らされ、融合エイリアンはもがき、そして崩れ落ちた。
戦いは終わった――
だが、ステルンの体は限界だった。膝から崩れ落ち、地面に倒れ込む。
(まだ……終われない)
地面を握る手に、力がこもる。
(市民がいる……最後の爆弾がある……)
ゆっくりと、しかし確かに立ち上がるステルンの姿がそこにあった。泥と血に塗れ、衣服はボロボロで、息は荒い。だが、背筋だけはまっすぐだった。
「……まだ、やれる」
決意の灯火が、彼女の瞳に灯っていた。
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