中年男の嘆き 前編
グリューネヴァルト公園を後にしたステルンは2つ目の爆弾を破壊するためにティーアガルテン中央広場向かった。
その途中、幾度もエイリアンの群れに阻まれ、その度に怪我を負いながらティーアガルテン中央広場にようやくたどり着いて目にしたモノは、焼け焦げた街路樹の根元に、うずくまる男が一人。スーツは破れ、血に濡れた顔は涙で濡れていた。
その男の背後には、人間の姿を模した石像――否、人間と一体化したもう一つの“爆弾”が、無残にも設置されていた。
「やめてくれ……俺には……俺には、まだ娘がいるんだ……!」
男の声は震え、周囲に響くことなく、焼けたコンクリートに吸い込まれていった。
ステルン・シュナイダーは、その男の前に立ち尽くしていた。
鋼のような瞳が、男の震える手を見つめている。彼女は既に知っていた。あの“爆弾”には人間が使われている。そして――今回もそれは同じだ。
「……あなたは、自らここに立ったのですか?」
ステルンの問いに男は何度も首を振る。
「違う!誘拐されたんだ!ここに目が覚めたら……体が動かなくて……!」
男の目には恐怖と後悔が滲んでいた。ステルンは歯を食いしばる。彼の言葉が真実なら、彼もまた犠牲者――だが、任務は変わらない。
この爆弾を破壊しなければ、数百人が巻き添えになる。
そこへ現れるホログラムのネームドエイリアン、ゼクス=マギィア。宙に浮かぶその姿は、まるで神託を告げる悪魔のようだった。
「その男は娘などいない。戸籍上の記録は全て確認済み。犯罪歴多数、窃盗、暴行、詐欺……人間社会の屑だ。」
ステルンの瞳が揺れる。
「違う……俺は……!娘は本当にいるんだ!俺が悪かった、俺は変わりたかった……!」
男の叫びがこだまする。だが、証拠も記録もない、真偽の確認のしようがないゼクス=マギィアの言葉がステルンに冷たく突き刺さる。
「所詮、お前たちの“選択”には価値がない。我々は、それを証明するためにここにいる。」
ゼクス=マギィアの周りを飛び回る不快な剣が男の頭上をくるくると回っていた。まるで「どちらを選んでも正解などない」と告げるように。
ステルンは迷っていた。男の言葉を信じるべきか。とはいえ信じたところで、冷酷な論理に従うしかないのだが、ともかく迷う心に決着をつけるためにステルンは深く深呼吸をした。
その瞬間、遠くで大きな爆発音が鳴り響く。
(……あれは、別の爆弾か……?)
脳裏によぎるのは、まだ残る爆弾の存在。そして、選ばなければならない“決断”。
ステルンの呼吸が乱れる。視界の端で、男が泣き崩れるのが見えた。
「頼む……生きたい……助けてくれ……金ならいくらでも払う……娘に会わせてくれ……!」
だがその男の瞳は、娘の存在を語るには、あまりにも……空虚だった。
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