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老女の爆弾 後編

焼けるような痛みが脇腹を貫いた。ステルンは反射的に跳躍し、距離を取る。だが、赤黒く濡れたその傷は深く、筋肉の奥まで達していた。息をするたびに、肺が悲鳴を上げる。


(……油断した……!)


視界の端で、老女はただ俯いている。自分が盾になっていることも、攻撃が防がれたことも、きっと理解している。


エイリアンの群れが周囲を包囲していた。獣のように牙を剥き、肉を裂くためだけに作られたような異形の者たち。その中心で、空に浮かぶゼクス=マギィアのホログラムが、悠々と笑っている。


「どうした? 選択を誤ったのではないか? “仲間”を救いたいあまり、民を見殺しにするところだったな。人間の感情など、戦争には不要だ」


血のにじむ唇を引き結びながら、ステルンは立ち上がる。痛みはある。しかし——


(私には……時間がない)


彼女は全身の重力ベクトルを一点に集中させた。周囲の空間が微かにゆがみ、風が逆巻く。


「『世界のヴェルトクリーゲ』——起動」


振り下ろした手刀から、見えざる裂け目が放たれた。数秒の間を置き、空間が裂けるようにしてエイリアンたちの身体がずれて崩れ落ちていく。


その一瞬の静寂の中で、ステルンは老女の前に膝をついた。


「……あなたを、救いたかった」


老女は、微笑んだ。


「救ってくれたわよ……もう十分」


その笑みに何かが崩れそうになったが、ステルンは拳を握り直した。


(……これは私の決断。誰かの命を背負ってでも、未来を繋ぐために)


両手を胸元で組むように構え、掌に重力のすべてを集束する。痛みと罪悪感と怒りと、あらゆる感情を塊にして。


「——これが、あなたのためにしてあげられる救い」


一撃。重力の刃が放たれ、老女ごと爆弾を包み込むように切り裂いた。


瞬間、爆音ではなく——ただ静かに、まるで風が吹き抜けるように、老女の身体は粒子となって消えていった。


気のせいだろうか。

消えていく老女が、まるで孫娘に接するように、そっと自分の頭を撫でたような気がしたステルン。


ステルンの目の前では爆弾の残骸が崩れ落ち、ただ地面に煙を上げていた。


ステルンは立ったまま、顔を上げる。空に浮かぶゼクス=マギィアのホログラムは、楽しげに嗤っていた。


「いい顔だ、ステルン・シュナイダー。哀しみも、怒りも、すべて我らの糧となる。もっと苦しめ、人類の勇者よ」


ステルンは唇を噛みしめる。だが、返す言葉はなかった。怒りをぶつけても、無意味だとわかっていたからだ。


(……次だ)


彼女は最後に一度だけ、爆弾があった場所を振り返る。老女の面影が、まだそこにいるような気がして。


(ありがとう。……必ず、止めてみせる)


踵を返し、次の爆弾が待つエリアへと走り出すステルン。その背に、怒りでも悲しみでもない、ただ一つの意思が宿っていた。


——救うために、戦う。


ここから先、どれほど傷つこうとも、彼女は止まらない覚悟を決めていた。

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2025/08/17

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