老女の爆弾 前編
空は黒く裂け、エイリアンの群れが無数の影となって地上に降り注ぐ。ステルン・シュナイダーは血に染まった戦場を駆け抜けていた。『ヴェルトクリーゲ』——その能力で彼女が振るう一撃は、まるで空間そのものを切り裂く刃のように、敵を断ち、風を裂いた。
「まだ……間に合う」
自分に言い聞かせるようにステルンは呟いた。目指すは、最も近い爆弾が設置された区域。そこは、かつて子どもたちが遊んでいた小さな公園だった。
公園に足を踏み入れた瞬間、ステルンの足が止まる。
中央の噴水跡地に、老女の姿を模した石像が静かに座っていた。
——いや、違う。
直感が告げていた。これはただの彫像ではない。ステルンは近づき、目を見開いた。
「……生きている?」
石のように硬直したその表面に、わずかに動くまぶた。肌の奥で、血が通っている感覚。微かに震える唇。
それは人間だった。
エイリアンは、老女の脳を爆弾の制御ユニットに組み込み、その肉体ごと彫像に偽装していたのだ。タイマー、回路、信号——すべてがこの一人の命に集約されている。
ステルンの胸に、重く黒い感情がのしかかった。
(こんなものを……人間を、道具のように……)
「……お願い、殺して」
かすれた声が、ステルンの鼓膜を震わせた。
「私はもう……戻れない。でも、あの子たちだけは……助けて……お願い」
老女は震える瞳で、静かに命を差し出した。
その時、空に広がるようにゼクス=マギィアのホログラムが現れた。禍々しい紋様に包まれたその姿は、狂気と嘲りに満ちていた。
「我々の技術では、人間の意識と爆弾を完璧に融合できる。地球の科学では分離など不可能だ」
その声音はまるでオペラの語り部のように哀しげで、それでいて残酷だった。
「止めたければ、彼女を殺すことだ、超人」
ステルンは歯を噛み締めた。
老女は笑っていた。自分の死が、誰かを救うと信じて。
ステルンの脳裏に、かつて育成施設で交わした仲間たちとの会話が浮かぶ。
——「正しいことって、いつも綺麗な道とは限らないね」とフリントは言った。
——「それでも、やるのがヒーローってもんだろ、ステルン」とエステバンが笑いかけてきた。
涙をにじませながらも刃のような決意が瞳に宿る。ステルンは『ヴェルトクリーゲ』に力を込めた。
「……ごめんなさい」
瞬間、蒼白い光が奔る。世界が悲鳴を上げるように空気が引き裂かれる。
彼女の今にも泣きだしそうな顔に気づいて老女は、微笑んだ。
「ありがとう、あなたが……最後で、よかった」
——しかし。
その一撃は、見えない壁に弾かれた。
(何!?)
空に揺らめくホログラムが、愉快げに嘲笑する。
「爆弾が無防備だとでも? 少しは頭を使え、ヒーロー」
老女の身体を覆うのは、エイリアン製の強力なシールドだった。すべては時間稼ぎ——爆弾が爆発するその瞬間まで、ステルンを惑わせ、足止めする罠。
そして、エイリアンの群れが公園の樹々の影から一斉に飛び出した。
ステルンが気づいた時には、鋭利な爪が彼女の脇腹を深く抉っていた。
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