選ばされた未来
焦げたアスファルトに散らばるエイリアンの残骸を踏み越え、ステルン・シュナイダーは迷いなく前進していた。
空は灰色。建物の壁には亀裂が走り、炎が街路をなめていた。だがその中でも、彼女の白いシャツと赤いコートは一点の曇りもない威厳を保ち続けていた。
重力ベクトルを逆転させ、押し寄せるエイリアンの群れをまるで風を切るように薙ぎ倒していく。
「世界の刃」──彼女の力が炸裂するたびに、数十体単位で敵が崩れ落ちていった。
そのときだった。
頭上に、太陽のような明滅。
次の瞬間、**空に巨大な“顔”**が浮かんだ。虹色の光がねじれるように空中へ投影されていく。
ステルンの動きが一瞬、止まる。
その“顔”──否、**ネームドエイリアン「ゼクス=マギィア」**の全身ホログラムが上空に映し出される。逆三角形の頭部。背後に浮かぶ六本の「選択の剣」。不快なほど整った幾何学的な対称性。
「ようこそ、英雄ステルン・シュナイダー。君は見事に我が軍の前線を突破した。ならば“選択”の資格がある。」
その言葉と共に、都市のホログラムマップが周囲に浮かび上がる。マップには4箇所の赤い点──まるで、心臓の鼓動のように点滅している。
「これは人類の兵器を模倣した“核爆弾”だ。我々の技術により、1時間後に同時に爆発する。配置されたのは次の3エリア──」
グリューネヴァルト公園
ティーアガルテン中央広場
ベルリン北区の給水管理センター
「ルールは簡単だ、英雄よ」
ゼクス=マギィアの声が冷たく響いた。
「ルール1: 君がこのままミサイル発射施設へ向かえば、核爆弾は爆発する。だが発射には成功し、我々は撤退する。
ルール2: 君が爆弾3つを1時間以内に破壊すれば、街は救われるが、その間にミサイルは撃てなくなる。」
「なにを言ってる……?」
ステルンの赤い瞳が怒りで燃える。
「それが交渉? ただの人質作戦じゃない……っ!」
「違う。これは**“選択”**だ。君に与えられた自由意志だ。市民を守るか、戦略的勝利を選ぶか。」
ゼクス=マギィアの背後で六本の剣がゆらゆらと舞う。それぞれが不快な曲線を描いて飛んでいた。
「この星の人間どもは、常に戦いを選び、そして破滅した。君はどうかね? ステルン・シュナイダー。君は“作られた命”だ。血も涙も本当はないのだろう?」
その言葉に、ステルンの全身が震えた。だが怒りではなかった。
胸の奥に熱い何かが灯った。
それは、アトラス育成研究所の食堂で皆と囲んだ食事の記憶。
改装された浴場で笑った日のこと。
部屋に飾られていた、幼い頃の自分が描いた“お花の絵”。
「違う……私には、守りたいものがある。」
彼女はホログラムの中から最も近い爆弾、グリューネヴァルト公園を選ぶ。
マップ上の最短ルートを即座に計算し、両腕を構えた。
「ゼクス=マギィア。私が選ぶのは、勝利の中の敗北じゃない。すべてを成した中の希望だ。」
「爆弾は解除する!ミサイルも発射させてみせる!」
彼女の足元から重力が反転し、彼女の身体は風のように舞い上がった。
選択された未来へと飛び込むように。
「私はステルン・シュナイダー。人類の刃……そして、希望の守護者だ。」
彼女は走り出す。
1時間のカウントダウンと共に、最初の爆弾へ向かって。
──ベルリンの空が、静かに震えた。
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2025/08/16




